今年のホープフルSは、登録時点で400万円を超える収得賞金の馬は7頭で、1勝クラスの400万円の14頭が残りの11頭分の出走枠を争うという混戦でした。
賞金上位の7頭の内、重賞勝ちはサウジアラビアRCで評判のボンドガール、シュトラウス(後に東スポ杯2歳S1着)を差し切って勝ったゴンバデカーブースと、凱旋門賞馬ソットサスの全弟で京都2歳Sを後方から1/2馬身差し切ったシンエンペラーの、2戦2勝の2頭。
常識的に考えれば、この2頭が1番人気を争うのが当然でしょう。
ところが実際に1番人気になったのは、1勝馬で抽選で出走枠を争ったレガレイラでした。しかもレガレイラは、ホープフルSがG1昇格後に1度も馬券圏内になったことがない牝馬。ある意味異例と言えるでしょう。
そもそも牝馬は阪神JFを狙うのが常識で、ホープフルSではG1昇格になった2017年に2頭出走していますが、その後は出走自体がなかったのです。しかしレガレイラは距離が長い方がいいというルメール騎手の進言を受けて、ホープフルSに挑戦してきたのです。
レガレイラは函館芝1800mの新馬戦を、のちに札幌2歳Sを勝つセットアップを差し切って1 1/2馬身差で勝つと、2戦目は東京芝1800mOPのアイビーSに挑戦。1番人気の支持を受けますが、1000m63.5の超スローペースを3番手で追走すると、最後は32.7の極限の上りで前を追うも、1馬身差の3着に敗れてしまいました。
おそらくこの2戦の走りから、ルメール騎手も陣営もマイルよりも2000mと判断したのでしょう。
パドックで見たレガレイラは、牝馬らしいしなやかな馬体で、落ち着いていながら適度な気合乗り。トモの踏み込みも力強く、なかなか良く見せます。
一方シンエンペラーは静かな闘志を秘めている感じで、どっしりと迫力ある馬体で周回しており、こちらも良く見せるものの、やや気合が入りすぎているようにも見えます。またもう1頭期待されていたゴンバデカーブースは、感冒で当日昼過ぎに取り消しとなってしまいました。
レースでは、レガレイラは横を向いているときにゲートが開いてややタイミングが合わず、ルメール騎手は慌てずに後方から進めます。一方シンエンペラーのムルザバエフ騎手は、促していって4番手をキープし、折り合いは問題なさそう。1000mは1分ちょうどと平均ペースで流れます。
レガレイラは後方から3番手を進みますが、3コーナー手前からルメール騎手が押して外を回ってじりじりと進出開始。4コーナーでは大きく横に広がった馬群を避けるように、大外を回って直線に入ります。
一方直線に入ってすぐに内で先頭に立ったシンエンペラーは、後続を突き放しにかかります。残り200mでは2馬身ほど抜けて、シンエンペラーが勝ったかと思わせました。
しかし大外から一気に伸びてきたレガイラは、すぐ内にいたサンライズジパングと馬体を合わせて併せ馬のような感じで、坂で脚色が怪しくなったシンエンペラーに迫ります。残り50mで苦しくなったシンエンペラーが大きく外によれてレガレイラに接触しますが、動じずに差し脚を伸ばしたレガレイラは、最後は追わずに3/4馬身差で1着。シンエンペラーが2着で、目の前で2頭が接触して一瞬たじろいだようにスピードを緩めたサンライズジパングが惜しい3着。
レガレイラは、今年初年度産駒が次々と勝ち上がって、来年度から種付け料が大幅にアップするスワーヴリチャード産駒。2頭目の重賞勝ち馬(1頭目は京王杯2歳Sのコラソンビート)になるとともに、初のG1勝ち馬となりました。
スワーヴリチャード産駒は、勝ち上がりはするものの、次の1勝が遠いような印象もあったのですが、早くもG1馬を輩出し、今後ますます種牡馬としての価値が上がっていくでしょう。
そして所属は美浦の木村哲也厩舎。木村厩舎でルメール騎手といえば、先日引退した世界最強馬イクイノックスのコンビです。12/16に中山競馬場で引退式を行ったイクイノックスですが、そのわずか12日後に新たなスターが誕生するとは、2人ともなかなかの強運の持ち主ではないでしょうか。
もちろん運だけではなく、それぞれの努力の結果ではありますが。
レース後に、オーナーであるサンデーレーシングの吉田俊介代表からは、来年は距離を重視して、桜花賞ではなく皐月賞へ行く可能性が高いとの発言がありました。
父スワーヴリチャードが出走した2017年の皐月賞に、フラワーCを5馬身差で勝ったファンディーナが挑戦して1番人気に支持される(結果は7着)ということがありましたが、もし牝馬が勝てば1947年トキツカゼ、1948年ヒデヒカリ以来の、76年ぶり史上3頭目の快挙になるとのこと。
そして今日の余裕ある勝ち方を見る限り、決して無謀な挑戦とは言えないところが、素晴らしいと思います。
ところでホープフルSを牝馬のレガレイラが勝ったことで、毎年無風だった最優秀2歳牝馬のタイトルが、一気に混戦になってしまいました。阪神JFを勝ったアスコリピチェーノとの一騎打ちですが、牡馬に勝ったということで、レガレイラの方が一歩リードとなるのではないでしょうか。
逆に最優秀2歳牡馬の方が無風になってしまい、ジャンタルマンタルでほぼ決まりでしょう。
最近は1月や2月の重賞からクラシック本番を狙って勝つ馬が増えてきており、年明けすぐからより注意深く見ていく必要があります。レガレイラが前哨戦を使うのか、あるいは直接クラシック本番の皐月賞に向かうのかはまだわかりませんが、楽しみが増えたのは確かなようです。