今年のジャパンCは2強の対決といわれてきました。
1頭は世界最強と言われているイクイノックス。昨年の天皇賞(秋)からG1だけで5連勝。3月のドバイシーマクラシックでは、アイリッシュダービー馬にして今年の凱旋門賞で2着に入るウエストオーバーに0.7秒差をつけて快勝し、世界最高のレーティング129を獲得。
前走天皇賞(秋)では芝2000mの日本記録を更新する1.55.2の驚異的なタイムで勝って、ここに臨んできました。
そしてもう1頭は、今年の3歳牝馬3冠を達成したリバティアイランド。特にジャパンCと同じ舞台で行われたオークスでは6馬身差の圧勝。これはグレード制導入後では最大着差となるもの。イクイノックスと勝負になるのは、すでに勝負付けがついた古馬牡馬たちではなく、3歳牝馬のリバティアイランドしかいないだろうという見立てだったと思います。
そして中には、リバティアイランドがイクイノックスに勝てるのではないかという主張もありました。その根拠としては、まずイクイノックスが前走で驚異的なレコード勝ちをおさめたうえで、自身初となる中3週のローテーションで出てきたので、反動があるのではないかという心配があったのです。
これまでイクイノックスは間隔をあけて使われてきており、皐月賞には前年の東スポ杯2歳S以来の5か月ぶりという異例のローテーションで臨んでいます。最短は皐月賞から日本ダービーの中5週。昨年も天皇賞(秋)のあとはジャパンCをパスして、次は有馬記念に出走しています。
この点を懸念として挙げている声は、かなり多く聞かれたような気がします。
また最近の3冠牝馬のうちジェンティルドンナ、アーモンドアイが、いずれも3冠達成後のジャパンCを勝っていることもあります。特にジェンティルドンナは、当時現役最強馬だったオルフェーヴルを直線で跳ね飛ばして勝利をおさめており、これが今年の状況と重なるという声もありました。
さらに最終追い切りの動きが素晴らしく、まさにピークという印象を与えたのです。
しかし個人的には、ちょっと違う見解でした。
まずイクイノックス陣営は最初からこの秋の目標はジャパンCだと明言しており、その前哨戦としてあとから天皇賞(秋)への参戦を発表しています。これは木村師が中3週でも今のイクイノックスなら問題ないと判断したということですし、そもそもジャパンCで最高となるように調教も進めてきているはずなのです。
もちろん天皇賞(秋)を驚異的なレコードで勝つようなことは予測していなかったでしょうが、逆に言うと余裕残しでもあれだけのパフォーマンスを見せられるほど、今のイクイノックスは充実しているということだったのではないでしょうか。
それに対して、リバティアイランドはこの秋の目標を、まずは秋華賞での3冠達成に置いていたはずです。トライアルを使わずオークスからの休み明けで秋華賞を勝ったので、体力的な余裕はあったと思いますが、秋華賞を勝ったうえでのジャパンCということだったのではないでしょうか。
また無敗で牝馬3冠を達成したデアリングタクトが、ジャパンCではアーモンドアイに歯が立たなかったという事実もあります。
加えてジェンティルドンナもアーモンドアイも、桜花賞の前にシンザン記念で牡馬に勝つという経験をしているのですが、リバティアイランドは新馬戦以外では牡馬と対戦してません。些細なことではありますが、初の古馬牡馬との対戦ということで、そのあたりも気になりました。
とはいえ、イクイノックスが58kgを背負うのに対して、リバティアイランドは54kg。さらに牝馬らしい末脚の切れを見せた場合、2013年のジャパンCでのデニムアンドルビーのようなパフォーマンスもあるかもしれないとは思いました。
レースは予想通りパンサラッサが飛ばし、タイトルホルダーが2番手。イクイノックスはそれを見る3番手で、リバティアイランドはスターズオンアースとともにいつもより前目の4番手でイクイノックスをマークする形。パンサラッサは向こう正面では大逃げとなり、10馬身以上大きく離していきます。その1000m通過は57.6。これは天皇賞(秋)のジャックドール(57.7)より速く、さすがにもたないだろうと思われました。
4コーナーを馬なりで回ったイクイノックスに対して、リバティアイランドは懸命に押しますが、なかなかその差が詰まりません。残り400mで追い出したイクイノックスは、すぐにタイトルホルダーを交わして2番手。そのまま脚色の鈍ったパンサラッサにぐんぐんと近づいていきます。リバティアイランドは4馬身ほど後ろでイクイノックスを懸命に追いますが、その差は縮まりません。
残り200m手前で余裕でパンサラッサを交わしたイクイノックスは、そのまま脚を伸ばして、危なげなく1着でゴール。リバティアイランドはその影を踏むこともなく、4馬身差2着。3着はさらに1馬身差でスターズオンアースとなりました。
その勝ちタイムは2.21.8。2018年アーモンドアイの驚異的なレコードタイムには及びませんでしたが、それまでのレコードだった2.22.1(2005年JCでアルカセットが記録)はクリアし、勝ちタイムとしては歴代2位の優秀なものでした。
そして戻ってくる途中で、鞍上のルメール騎手は何度も涙をぬぐっていました。インタビューでも触れていましたが、世界最強馬をあらためて証明するような強いパフォーマンスとそのスピードに感動したとのこと。ルメール騎手の涙を見たのは、2020年の天皇賞(秋)でアーモンドアイでG1 8勝目を達成した時以来ですが、それに匹敵するほど心を動かされたのでしょう。
競馬ではよく、「両雄並び立たず」といわれて、2強の場合はだいたいどちらかが崩れて、その2頭で決まることは少ない印象です。今年の天皇賞(秋)なども、まさにそのパターンでした。
ところが今回はめずらしく、2強での決着となりました。その馬連配当は180円。これは2005年秋華賞(エアメサイアーラインクラフト)と並ぶ、JRA G1での最低記録です。多くの人が的中馬券を手にしたという意味ではよかったのでしょうが、かなりの確率でトリガミが多かったのではないでしょうか。
イクイノックスはこれでG1 6連勝と、テイエムオペラオー、ロードカナロアの記録と並びました。しかもこの両頭は、合間に出走したG2で2着に敗れているので、純粋に無敗でG1を6連勝したのは、史上初ということになります。
また今年から1着賞金が5億円になったことで、獲得賞金は22億円を超えて、今までの最高だったアーモンドアイ(19億1,526万3,900円)を抜いて史上1位となりました。
今後どうするのかは不明ですが、とりあえず目標を達成したということで、有馬記念は出ないのではないかと思います。この秋2戦のダメージは結構大きいでしょうから。
問題は来年も現役を続行するのかということになると思いますが、個人的にはぜひ続けてもらって、アーモンドアイの芝G1 9勝という記録にチャレンジしてもらいたいと思います。そこまでいけば、史上最強馬という評価もついてくるのではないでしょうか。