悲願のG1勝ちは意外な形でした ~マイルCS

今年のマイルCSを制したのは、5番人気の牝馬ナミュールでした。
イギリスの名手ムーア騎乗ということで、前日は9.5倍の5番人気でしたが、2Rでムーア騎手が落馬負傷。急遽藤岡康騎手に乗り替わったために単勝オッズは上昇。5番人気は変わらなかったものの、最終的には17.3倍となりました。半日でこれだけ変わったので、いかに騎手で売れていたかがわかると思います。

藤岡康騎手は、2009年にジョーカプチーノでNHKマイルCを制してG1ジョッキーになったものの、G1勝ちはそれだけで、それ以来の14年ぶりということになります。まだ若手というイメージがあったのですが、今年で35歳と中堅どころ。
最近は派手な活躍はありませんでしたが、2021年の京都大賞典を9番人気のマカヒキで勝ったのは、強く印象に残っています。実はそれ以来の重賞勝利が乗り替わりでのG1だったということは、本人が一番驚いているかもしれません。

そしてナミュールといえば、2歳時から期待されながらG1では結果が出せず、年を経るにしたがって成績も下降気味となっていました。
最初に注目されたのは、2021年に2戦目の赤松賞で、人気ののちの2冠牝馬スターズオンアースを鋭い末脚で下してからでした。続く阪神JFではC.デムーロ騎手騎乗もあって2.9倍の1番人気。ところが出遅れて後方からになり、直線は内をつくも1 1/4馬身差4着まで。
しかし2022年になり3歳初戦のチューリップ賞では、前年大ブレークした横山武騎手に乗り替わり、中団から鋭く伸びて快勝。力があることを証明します。

そしてクラシックに臨むのですが、スタートの悪さと馬体減が心配されながらも、桜花賞では3.2倍の1番人気に推されます。当日は-4kgの426kgとデビュー以来の最低体重。スタートは無難に決めたものの、大外ということもあり後方。それでも3コーナー過ぎから外を回って追い上げると、直線も懸命に差を詰めますがスターズオンアースと0.3秒差10着まで。
続くオークスは7.1倍の4番人気まで落ち、かつ馬体重も426kgのままでしたが、中団から懸命に脚を伸ばすとスターズオンアースと0.4秒差3着に好走。やはり力があるところを見せます。

さらに休み明けの秋華賞では2番人気に推され、最後は3冠を目指したスターズオンアースにはハナ差競り勝つも、先行していたスタニングローズはとらえられず1/2差2着。さらにエリザベス女王杯も3番人気ながら4 1/4差5着と残念な結果に終わります。
結局3歳シーズンのG1では、1,2,3,4番人気各1回と人気に推されながら、0・1・1・2と人気を裏切るケースが多かったのです。横山武騎手も2021年はG1を5勝して活躍が期待されたものの、2022年はナミュールのチューリップ賞などG2 3勝のみ。ナミュール同様に期待に応えられない辛い年となってしまいました。

そして4歳になった今年、ナミュールは初戦の東京新聞杯こそ2着に好走するも、ヴィクトリアM7着、安田記念16着と大敗。横山武騎手によると寄られたり、前がふさがったりと、いずれも不利が大きかったとのことですが、他馬を気にする面もあったのかもしれません。
ところがマジックマンことモレイラ騎手に乗り替わった前走富士Sでは、後方から前をこじ開けるように出てくる場面もあり、チューリップ賞以来1年7か月ぶりの勝利を飾っていたのです。

前哨戦を勝ったとはいえ、相手はマイル前後で常に好走するシュネルマイスターや連覇を狙うセリフォスをはじめ、そうそうたるメンバー。さらに意外なことに京都で行われた過去10年(2010~2019年)で牝馬は29頭出走して連対は0。阪神で連覇したグランアレグリアの印象が強烈ですが、アエロリット、ドナウブルー、マルセリーナなどの重賞勝ち馬でも、連対はできなかったのです。
そんなこともあり5番人気にとどまったのでしょう。

しかしスタートをやや伸びあがるように出ながらも5分できったナミュールを、藤岡康騎手は後方2,3番手まで下げます。600m34.3と例年よりやや速めに流れたことは、結果的に後方の馬には有利に働いたかもしれません。
4コーナーを最後方で回ったナミュールですが、大外には出さずに馬群のやや外目を突きます。馬の間を抜ける際にやや躊躇したようなしぐさを見せますが、抜けてからは一気に末脚を伸ばし、ゴール直前で内から抜けていたモレイラ騎手のソウルラッシュを交わして、連勝でのG1制覇となりました。

富士Sから一皮むけたような印象もあり、もともとの素質の持ち主が、ようやく本格化したということでしょう。たび重なる不利が精神的なトラウマになっていなければいいと思っていたのですが、前走に続いて馬群を突き抜ける競馬をしたことで、少しでも自信につながったのではないでしょうか。
マイルG1 3勝のソングラインが今年いっぱいという話もあり、新たなマイル女王としての活躍を期待したいと思います。

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