今年のエリザベス女王杯の1番人気は、3歳馬のブレイディヴェーグでした。しかも2.4倍と、2番人気のジェラルディーナ(4.6倍)を大きく離す人気ぶり。それはG1連勝中のルメール騎手が、牝馬3冠でコンビを組んでいたハーパーを捨ててまで選んだということも大きかったでしょうが、その戦歴もなかなか目を引くものでした。
昨年8月の新潟芝1800m新馬戦で差して届かずアタマ差2着に敗れると、今年2月の東京芝1800m未勝利と、6月の東京芝2000m1勝Cを、それぞれ6馬身、3 1/2馬身差で快勝。その3戦すべてで上りタイム最速で、しかも32~33秒台の脚をコンスタントに使うということから、秋華賞トライアルのローズSでは、重賞未経験ながら1番人気に支持されます。
ここは後方から追い込み届かず1 1/2差2着に敗れてしまうのですが、1着のマスクトディーヴァよりも明らかに脚色は良く、さらにそのマスクトディーヴァが秋華賞でリバティアイランドの1馬身差2着に惜敗したことで、ブレイディヴェーグの株も一気に上がったのです。
ところが陣営は、ブレイディヴェーグが2度の骨折を経験しており大事をとりたいことや、脚質的に直線の短い内回りで行われる秋華賞よりも、直線の長い外回りのエリザベス女王杯の方が、距離が伸びたとしても対応しやすいということで、優先出走権のある秋華賞を見送って、エリザベス女王杯への出走を選んだのです。
これは3歳牝馬としては異例のローテーションですが、あえて同馬主のリバティアイランドの3冠阻止に動くのはどうかという配慮もあったでしょうし、その意味でも若い宮田調教師の決断を馬主サイドとしても支持しやすかったのではと思います。
とはいえ、ブレイディヴェーグのポテンシャルの高さはうかがえるものの、競馬は机上の計算通りに行くわけではなく、わずか4戦という少ないキャリアで、かつ重賞未勝利という身で、古馬相手に初のG1に挑戦するというのは、並大抵のことではないと思います。
クラスの壁という話を聞くことがありますが、上のクラスで戦ってきた歴戦のつわものたちと初めて対戦すると、その存在感や迫力に飲まれてしまうのか、力を発揮できないということはよくあります。それがG1では、なおさらでしょう。
そのため個人的には、やや懐疑的な目で見ていました。
そしてパドックでブレイディヴェーグを見たのですが、落ち着いて集中した様子できびきびと歩き、トモの踏み込みもしっかりとして、とても良い状態に見えました。これなら一発あるかもしれないとも思ったのです。
レースでは、やや伸びあがるようにスタートすると、いったんは後方に下がるも、ルメール騎手はすぐに促して最内からポジションをあげていきます。結局、逃げるアートハウスから5,6馬身後ろの5番手をキープ。掛かる様子もなく落ち着いて進めます。向こう正面でアートハウスとの差はどんどん大きくなりますが5番手のまま。1000mは1.01.1と、アートハウスは遅めのペースを刻みます。
ブレイディヴェーグのルメール騎手は3コーナーから5,6番手の内ラチ沿いを進み、4コーナーをやや外に出して回ると、直線はうまく前が空いて懸命に追います。残り200mで前を行っていたローゼライトを交わして2番手に上がると、残り100mで逃げるアートハウスを交わして先頭。そこから一気に脚を伸ばすと、内から追ってくる2着ルージュエヴァイユに3/4馬身差、外から迫るハーパーにはさらにクビ差をつけて、古馬G1初制覇のゴールに飛び込みました。
初めての古馬G1勝利は、牝馬ではこれまでファインモーションの6戦目(デビューから無敗でローズS、秋華賞、エリザベス女王杯と連勝)が最少キャリアだったのですが、それを上回る5戦目での制覇となりました。
これは今年世界最強馬の称号を得たイクイノックス(新馬、東スポ杯と連勝した後は、春のクラシックで続けて2着となり、5戦目の天皇賞(秋)で古馬G1初制覇)と並ぶものですが、重賞2着しかない馬が勝ったということでは、より価値が高いようにも思えます。
さまざまな懸念をものともせずG1を快勝したブレイディヴェーグですが、まだ3歳ということで今後の展望が大きく開ける勝利となりました。まずは同い年の3冠牝馬リバティアイランドとの対決が興味の的になりますし、その後は当然イクイノックスをはじめとする牡馬との対戦も期待されます。
その意味ではブレイディヴェーグの次戦がどこになるかが、とても楽しみです。
ところで、エリザベス女王杯を関東馬のブレイディヴェーグが勝ち、2着も関東馬のルージュエヴァイユということで、最近関東馬の活躍が目につきます。天皇賞(秋)もイクイノックスが勝ちましたし、菊花賞は関東馬が1~3着を独占と、これでG1は3戦連続して関東馬が優勝。しかもそのすべてがルメール騎手が騎乗してもの。
今後もその勢いが続くのか、来週以降も楽しみです。