乗り替わりのジンクスと横山武騎手のこと ~日本ダービー

ダービーでは騎手が乗り替わった馬は勝てないというジンクスが、長年言われてきました。
シリウスシンボリやシャフリヤールなど前走とは違う騎手が乗って勝った馬はいましたが、それらはそれ以前に乗ったことがある騎手に手が戻ったもので、純粋にダービーで初めて乗る騎手で勝ったのは、国営競馬時代の1954年の勝ち馬ゴールデンウエーブまで69年もさかのぼるという、かなり強力なジンクスでした。

今年このことが話題になったのは、有力馬が何頭かテン乗りの騎手に乗り替わったためでした。
まずは共同通信杯を勝って皐月賞では1番人気に支持されたものの、落鉄もあって3着に終わったファントムシーフ。皐月賞ではルメール騎手が手綱をとっていましたが、ルメール騎手が自らの手で青葉賞を勝たせたスキルヴィングに騎乗するため、武豊騎手に乗り替わりとなりました。
そして弥生賞を勝ち、皐月賞では勝ったかと思われたところを差されて2着惜敗のタスティエーラ。この2戦騎乗した松山騎手から、短期免許で来日しているレーン騎手に乗り替わりとなりました。

さらには皐月賞3番人気10着のベラジオオペラが田辺騎手から横山和騎手。皐月賞4番人気10着のフリームファクシがレーン騎手から吉田隼騎手。昨年のホープフルS勝ち馬のドゥラエレーデがC.デムーロ騎手から坂井騎手と、人気が予想される多くの馬が、乗り替わりとなったのです。

もちろんいろいろな事情もあるので仕方ないとは思うのですが、陣営がテン乗りのジンクスを知らないはずはなく、少しは気になるものではないかと思っていました。
ところが、武豊騎手もインタビューでその話題を多く振られたそうですが、どんなスポーツでも当事者が勝負に挑む前にマイナスの要因を考えることはないということで、軽く受け流していたそうで、外野の人間ほど気にはしていないのかもしれません。

とはいえ予想する身としては、やはりジンクスは強力なほど気になるもので、どうしても継続騎乗の馬を中心に据えたくなります。
それもあってか、圧倒的な1番人気は前走から継続騎乗の皐月賞馬ソールオリエンスで、2番人気はルメール騎手が選んだ青葉賞馬スキルヴィング。3,4番人気は乗り替わりのファントムシーフ、タスティエーラが実力を評価されて入ったものの、5~7番人気は継続騎乗のシャザーン、ハーツコンチェルト、サトノグランツとなりました。
もちろん乗り替わりだけで評価しているわけではありませんが、結果として上位人気7頭中乗り替わりは2頭だけと、傾向としてはそれが表れているような気がします。

そして結果がどうなるのか大いに興味があったのですが、69年ぶりにテン乗り騎手によるダービー制覇となりました。優勝は4番人気のタスティエーラとレーン騎手。
積極的に好位を取りに行くと、外目を折り合って追走。直線は早めに追い出し、残り200mで先頭に立つとジリジリと伸び、最後は外から差してきたソールオリエンス、ハーツコンチェルトをぎりぎり抑えての戴冠となりました。

【タスティエーラ】落ち着いていてトモの踏み込みも力強く、良く見せました
【タスティエーラ】レーン騎手との初コンビでの返し馬
【タスティエーラ】初の日本ダービー制覇となったレーン騎手もうれしそうでした

レーン騎手と日本ダービーといえば、2019年のサートゥルナーリアの乗り替わり騎乗が思い出されますが、あの時は1.6倍という圧倒的な1番人気に支持されながら、差し届かず4着に敗れ、大いに批判も浴びてかなり悔しい思いをしたでしょう。
その悔しさを4年ぶりに晴らしたと言えるのではないでしょうか。

そして同じ2019年のダービーで、父が主戦を務めていた青葉賞馬リオンリオンの手綱を任されて、ダービー初騎乗となったのがデビュー3年目の横山武騎手でした。
6番人気に支持されたものの、暴走気味に逃げて直線は大きく後退。15着の大敗に終わりました。さすがに3年目の若手では仕方ないかというのが当時の見方だったと思いますが、その横山武騎手に早くも2年後に大きなチャンスが訪れます。

2021年のクラシックでコンビを組んだのがエフフォーリア。共同通信杯を勝つと、皐月賞では先行してタイトルホルダーに3馬身差をつける快勝。日本ダービーでは1.7倍の堂々の1番人気に支持されます。
コロナ禍により大幅に観客数が制限された中、4コーナー中団から馬場中央を伸びてきていったんは先頭に立つも、ゴール直前で強襲してきたシャフリヤールにハナ差かわされて2着に敗れてしまいます。
秋には天皇賞(秋)、有馬記念も制して年度代表馬に選ばれますが、3歳時に唯一敗れたのがダービー。

横山武騎手といえば明るい受け答えで、あまり落ち込んだり尾を引かないタイプなのかと勝手に思っていたのですが、先日インタビューで、このレースの映像は未だに見られないという話を聞いて、その悔しさたるものどれぐらいのものだったのだろうと、あらためて思わされました。
それもあって今年にかける気持ちは人一倍だったと思います。

そんな横山武騎手の今年の相棒は、京成杯と皐月賞を後方から次元の違う脚で差し切った、3戦3勝のソールオリエンス。その皐月賞の勝ちっぷりから1.8倍の1番人気となりました。
レースでは後方一気に差し切った皐月賞とは一変、6番手の内で、行きたがるのを馬群に入れて懸命に抑えて進みます。そのまま直線に向くと、残り400mぐらいから追い出されますが、いつもの伸び脚が見られません。それでも残り200mでようやくエンジンがかかると、先に抜け出したタスティエーラを懸命に追います。外のハーツコンチェルトと併せ馬で伸びますが、クビ差まで追い詰めたところがゴール。
横山武騎手はまたもや悔しい2着に敗れてしまいました。

横山武騎手とすれば、何とか2年前の借りを返したい思いでいっぱいだったでしょうが、またもや見返せないビデオが増えてしまったかもしれません。
これだけ勝利に見放されると、運命を呪いたくなるかもしれませんが、父の横山典騎手や、武豊騎手、福永祐一元騎手なども、同じような悔しい思いを何度もして、それを糧にダービージョッキーになったのです。横山武騎手もこの悔しさを胸に、近く訪れるであろうダービー制覇の日に向けて、さらなる研鑽を積んでほしいと思います。

【ソールオリエンス】素軽いキビキビした動きで調子の良さをうかがわせました
【ソールオリエンス】横山武騎手とのコンビで今後に期待です

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