キタサンブラック産駒の特異性を感じました ~皐月賞

今年の牡馬クラシックは、リバティアイランドという強い存在がいる牝馬とは違って、混戦だと言われてきました。
個人的にも中心となる馬がいないというイメージは持っていました。共同通信杯について書いた際も、その時点で最も印象的な勝ち方をしたのは、京成杯のソールオリエンスということは言及していましたが、皐月賞が近づくにつれて、そのイメージはどんどん薄くなっていってしまったのです。

その大きな要因は、やはり勝ったレースが京成杯だったということがあるでしょう。
京成杯は1月に中山芝2000mで行われますが、極寒の季節ということもあり、本気でクラシックを狙う馬が使うことは稀です。実際に過去10年で前走京成杯から皐月賞に臨んだ馬は、2018年にジェネラーレウーノが3着に入っただけ。
また今年の京成杯は9頭立てで、2 1/2馬身差2着のオメガリッチマンは次走毎日杯で6着、1番人気で3 3/4馬身差3着だったセブンマジシャンは次走スプリングS6着で皐月賞は除外。要するに下した相手は決して強くなかったのです。

さらにソールオリエンスが引き当てた枠は最内の1番。馬場の悪い内を通らされて、さらに重馬場ではあの最後の脚も使えるか疑問ということもあったのか、事前には1番人気になるかという予想もあったものの、最終的には5.2倍の2番人気となりました。

ただし追いきりでは、2頭合わせの内で躍動感のある素晴らしい動きを見せ、最後の1ハロンを11.2でまとめてクビ差先着。さらにパドックでは、落ち着いた中でも適度な気合乗りで集中しており、素軽い歩様でトモの踏み込みも深く、調子の良さをうかがわせる動きでした。

【ソールオリエンス】落ち着いて集中しながら、素軽い歩様でとてもよく見せました

レースでは好スタートを切ったものの、横山武騎手は他の馬を行かせて後ろに下げます。そして後方から4番手で、外目の馬場の良いところに出して追走。3コーナーから後方の馬が進出しても後方をキープして、4コーナー手前では後ろから2番手。さらに4コーナーでは、京成杯同様に大きく外に膨れてしまいます。
重馬場ということを考えると絶望的な位置取りでしたが、大外をじりじりと伸びてくると、残り100mぐらいから一気に加速。あっという間に前を捉えると、先に抜け出したタスティエーラに1 1/4馬身差をつけて、3勝無敗の皐月賞馬に輝きました。

【ソールオリエンス】記念撮影でも落ち着いておりキャリアの少なさを感じさせません

キャリア2戦で勝ったことや、前走京成杯から勝ったことなど、かなりの常識破りな皐月賞馬となったわけですが、そこで思い出されるのが、昨年の皐月賞で2着に入ったイクイノックスです。
イクイノックスもキャリア2戦無敗で皐月賞に臨み、前走は前年の東スポ杯2歳S。残念ながらジオグリフに差されて敗れたものの、その常識破りのローテーションには大いに驚かされました。

そしてこの2頭の共通点が、父キタサンブラック。
キタサンブラックは、種牡馬としてはとても不思議なタイプで、ディープインパクトのような強い馬を多く出すのではなく、少数のとんでもなく強い馬を出す傾向があるように見えます。
まだ2世代しかいないので確かなことは言えませんが、2022年は124頭が出走して勝ったのは38頭。その内重賞勝ちはわずかに3頭で4勝。ただし2勝はイクイノックスの天皇賞(秋)と有馬記念だったのです。

これを同世代のドゥラメンテと比べてみると、2022年は289頭が出走して勝ったのは101頭。重賞勝ちは6頭で9勝。そのうちG1は4頭で6勝しています。
勝ち上がり率や重賞勝ちの頭数を見ると、キタサンブラックがいかに少数精鋭を生み出す種牡馬かということがわかります。

イクイノックスは今年ドバイシーマクラシックを逃げ切って、世界最強の呼び声も高い中、今日の皐月賞で、同じキタサンブラック産駒にもう1頭のスター候補が誕生したと言えるのではないでしょうか。
安藤勝己氏も皐月賞を見て、「牡馬にも怪物がおった感じやね」とツイートしていましたが、まさにその通りの衝撃を受けました。

血統的に距離に不安はありませんし、あの末脚を見るとダービーもかなりの確率で勝つのではないかと思わせました。手塚師もクラシック完全制覇にはダービーを残すだけとのことですし、横山武騎手も2年前のエフフォーリアでの悔しさは忘れられないでしょうから、全力で勝ちに来るでしょう。
一気に3歳牡馬の勢力図を書き換えるような皐月賞のパフォーマンスだったと言えると思います。

そして横山武騎手は、昨年のうっ憤を晴らす勝ちだったのでしょう。その喜びようは、今まで見たことのないようなものでした。
思い返してみれば、2021年は横山武騎手にとって飛躍の年でした。ダービーこそハナ差で悔しさを味わったものの、エフフォーリアで皐月賞、天皇賞(秋)、有馬記念、タイトルホルダーで菊花賞、さらにキラーアビリティでホープフルSを勝って、G1を5勝。
ところが活躍が期待された2022年はG1で1番人気を裏切ることが続き、エフフォーリアの不振もあってG1勝ちがゼロに。まさに天国から地獄というような落ち込みでした。

【ソールオリエンス】横山武騎手は久々のG1勝利で満面の笑みでした

そのG1連敗記録がようやく終わったことも、爆発的な喜びにつながったのでしょう。
次はぜひダービーを勝って、さらなる喜びを味わってほしいと思わせられました。

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