距離適性をどう考えるか ~フェブラリーS

フェブラリーSでは、毎年のように距離適性に関する話題が上がります。今年も上位人気となった4頭は、多かれ少なかれ予想においては距離について触れた記事が多かったように感じます。

まず1番人気になったレモンポップ。ダート1400mで2勝CからOPまで4連勝し、初重賞挑戦となった昨年の武蔵野S(ダート1600m)では差されてハナ差2着。その後前走の根岸Sを勝ったことで、適距離はダート1400mということが定着してしまいました。
武蔵野Sは34.8とすばらしい差し脚を見せたギルデッドミラーに敗れましたが、レモンポップ自身も35.0と遜色ない上りでしかもハナ差。これでマイルは長いと決めつけるのは、酷な気もするのですが。

【レモンポップ】落ち着いていながら元気でしっかりした歩様はよく見せました

そして巷では2強ともいわれた2番人気のドライスタウト。こちらも近2走はダート1400mOPで1,2着と短距離得意な印象ですが、2年前の川崎ダート1600m全日本2歳優駿で2 1/2馬身差と強い勝ち方をしていることもあり、あまり距離適性に触れた記事は見なかったように思います。もっとも個人的には、JRAの重賞実績がないことの方が気になったのですが。

3番人気は昨年1番人気で6着に敗れたレッドルゼルですが、こちらは距離適性という意味では、レモンポップ以上に厳しい立場でした。この1年で出走した3戦はすべてダート1200mで、それ以前も良績は1400m以下。1600mは2戦して3着以内が1度もないという成績なのです。ただレッドルゼルの場合は追い込み脚質なので、距離の融通は利くのではという見立てが多かったようです。

4番人気のメイショウハリオは、ダート1800mのマーチSや2000mの帝王賞を勝っていることで、逆に1600mは短すぎるのではということもあり、4番人気に甘んじることになったのでしょう。

しかしこの距離適性というのは、なかなか曲者という気がします。
まずJRAのダート重賞を見てみると、1600mのレースがかなり少ないのです。現在行われている15レースのうち、1600mのレースはわずか3つ。いずれも東京で行われているフェブラリーS、ユニコーンS、武蔵野Sしかないのです。もちろん地方の交流重賞には南部杯やかしわ記念などがありますが、ダートの質が異なることもあり、距離適性を論じるにはちょっと少なすぎるのではないでしょうか。

また芝だと、いわゆるスプリンターとマイラーはかなり適性に違いがあり、前者はスピード重視で、後者はスピードにプラスしてある程度のスタミナも必要とされる面が強いと思われます。
今年からJRA賞でも最優秀短距離馬は、最優秀スプリンターと最優秀マイラーに分けられるそうですが、両方をこなす馬というのは、タイキシャトルやデュランダル、グランアレグリアなどのごく限られた名馬のみでした。これらの馬も得意なのはどちらかというとマイルで、スプリント戦もこなしたというのが実情だったと思います。

それに対して、ダートでは短距離とはいっても、そこまでスピードは要求されないので、ある程度距離の融通は利いてしまうのではないでしょうか。
実際に今年の1,2着レモンポップとレッドルゼルは、どちらもマイルは長いと言われながらも、末脚が衰えることなく、力強い走りで見事なレースを見せてくれましたし、3着のメイショウハリオはスタートでつまずいて落馬寸前となり大きく出遅れながら、得意な距離より短いなかで鋭い末脚を見せて、3着まで追いこんできました。
また昨年も根岸Sを勝ったテイエムサウスダンが、マイルは長いと言われながら、逃げて2着に粘った場面も記憶に新しいところです。

ただし、やはり騎手としては当然そのあたりには気を使うようです。レモンポップの坂井瑠星騎手も、勝利インタビューの中で、ぎりぎりまで追い出しを我慢して、距離を持たせようと工夫したと言っていました。
実際に道中は先団のすぐ後ろで我慢させ、直線に入って前が開いてもしばらくは馬なりのままで行って、残り300mぐらいで追い出すと一気に後ろを突き放しました。そして最後は追いこんできたレッドルゼルにじりじりと距離を詰められるものの、1 1/2馬身差で勝利。初のG1制覇となったのです。

【レモンポップ】一気に抜け出すと危なげなく勝ちきりました

ところで今回レモンポップは、それまでの主戦の戸崎騎手から坂井騎手に乗り替わったのですが、G1で1番人気が確実な馬に直前で乗り替わるというのは、どんな心境なのでしょうか。ここで負ければ当然大きな批判を受けるわけで、そのプレッシャーたるや半端なものではなかったと思われます。
しかし輪乗りからスタート地点に移動するところをターフビジョンに大写しされていたのですが、その中でレモンポップの坂井騎手が、オーヴェルニュの福永騎手(騎手引退にともない今回が最後のG1騎乗)と馬上でにこやかに談笑している場面が映ったのです。
プレッシャーを微塵も感じさせない坂井騎手の振る舞いに、本当に驚かされるとともに、これなら大丈夫だろうという安心感も感じました。

坂井騎手といえば、その大胆な騎乗にも定評がありますが、昨年ドバイでバスラットレオンに騎乗してゴドルフィンマイルを逃げ切ったり、秋華賞でJRAのG1を初制覇するなど、さまざまな経験を積んできたことが、大きな自信になっているように感じます。
今後の競馬界を背負っていく若手の一人として、その活躍を大いに期待したいと思います。

レモンポップと坂井騎手

そしてデイモン・ラニアンの小説から名前を取ったレモンドロップキッドの産駒として、JRAで初の重賞そしてG1勝ち馬となったレモンポップ。明るい栗毛と恵まれた雄大な馬体が印象的です。
父はダート2400mのベルモントSを勝っており、距離に融通が利く可能性はあると思うのですが。今後は世界に目を向けるのか、あるいは交流重賞を使っていくのか興味深いものがあります。馬主がゴドルフィンなので、おそらく前者になるのではないでしょうか。
父親が生まれ育ったダートの本場アメリカで、活躍する姿をぜひ見てみたいものです。

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