ダービーは、1年かけてそれぞれの馬の実力や特徴をつかんできて、それをもとに予想をするので、だいたいの構図が見えていることが多いと思います。そのため大きく荒れることは少なく、特に勝馬であるダービー馬は、その称号にふさわしい馬が毎年勝っていると感じます。
そのため、個人的なダービー予想のスタンスは、どの馬がダービー馬にふさわしいかということを、考えることから始めます。
ところが今年は、本当に難しいダービーだったと思います。
思い返せば、弥生賞が終わったころには、皐月賞はダノンプレミアムが圧勝するものの、そこでいい脚で追い込んできて惜敗したワグネリアンが、ダービーでは逆転して戴冠するというストーリーを、個人的には考えていました。
ダノンプレミアムはもちろん強いものの、先行する脚質とマイルでの圧倒的な強さは、まさに皐月賞向きであり、逆に距離が延びて長い直線でこそ生きる末脚を持つワグネリアンは、ダービーがうってつけという印象だったのです。
しかしそのシナリオが大きく狂ったのは、ダノンプレミアムの怪我による皐月賞回避と、ワグネリアンの思いもよらぬ皐月賞での凡走でした。
怪我は致し方ないものの、弥生賞からの休み明けとなってしまったダノンプレミアム。過去にそんなローテーションでダービーを勝った馬は記憶にありませんし、過去10年を見ても前走が3月という馬の連対は1頭もありません。そもそも弥生賞とダービーはあまり相性がよくない印象もあります。
また皐月賞は前3頭がハイペースで飛ばしたものの、4番手以降はスローという特殊な展開で人気馬は総崩れ。上位3頭はいずれも、明らかに皐月賞を目指してローテーションを組んできた馬たちでした。
1着のエポカドーロは藤原英調教師がそれを明言しており、500万は中山芝2000mを意識して小倉芝2000mを使い、スプリングSを先行惜敗しての2着でした。
2着のサンリヴァルは2戦目の芙蓉Sから、ホープフルS、弥生賞と4戦連続で中山芝2000mを使い、3着ジェネラーレウーノも500万の葉牡丹賞から京成杯と3戦連続で中山芝2000mを使っていたのです。
対する1番人気のワグネリアンは不利があったものの、上り35.2と切れる脚は使えず5 1/2差7着。上り最速は後方から追い込んで4差4着の2番人気ステルヴィオ、同じく追い込んできた4差5着の3番人気キタノコマンドール、同じく4差6着のグレイルの34.8で、いずれもあまりインパクトのある脚ではありませんでした。
こうした状況で、正直どの馬が人気になるのかも、まったくわからなかったのですが、ふたを開けてみるとダノンプレミアムが2.1倍という圧倒的な支持を受けました。2か月半の休み明けでこの倍率は、さすがに買われ過ぎと思いましたが、4戦4勝に加えて朝日杯FSでの先行しながら最速の上りで突き放すという驚異的な走りが、奇跡を期待させた面もあったのかもしれません。
2番人気は3戦3勝の同じく無敗のブラストワンピース。こちらも東京芝2400m500万での4差圧勝と、毎日杯での2差完勝が評価されて4.6倍という支持を受けたのですが、同じく2か月の休み明けに加え皐月賞組と未対戦というネックもありました。
個人的にも、こうした人気馬に惹かれるとともに、ワグネリアンの調教もパドックの様子も良く見えなかったこともあって、かなり狙いを下げてしまいました。
しかしレースが始まって、向こう正面でワグネリアンが6,7番手の外につけて、ブラストワンピースやダノンプレミアムをマークしている様子に気づいてからは、この馬に勝たれるかもと、以降はずっとワグネリアンを注視していました。
そして3コーナーから徐々にポジションを上げて、4コーナーではダノンプレミアムと並ぶ位置まで押し上げるのを見て、それはほぼ確信に変わりました。あとは直線でじりじりと前を追いつめ、最後は内のエポカドーロを交わして、1/2馬身差での戴冠となりました。
福永騎手はダービー初騎乗の2番人気キングヘイローで暴走してから苦節20年。父の洋一元騎手も果たせなかったダービー制覇を、ようやく果たすことができました。ターフビジョンでは感極まっている様子が映し出されていましたが、やはりダービーを勝つということは、それだけ大きいことなのでしょう。
そして驚くべきは、ダービー4勝目をあげた金子真人オーナーです。2004年のキングカメハメハに始まり、2005年ディープインパクト、2016年マカヒキに続いて14年で4勝目です。かつて1国の宰相になるよりも難しいと言われたダービーオーナーですから、まさにとんでもない運の持ち主としか言いようがありません。
しかもワグネリアンの父ディープインパクト、母ミスアンコール、母父キングカメハメハ、母母ブロードアピールと、すべて自分の持ち馬で固めた血統で勝つのですから、驚きを通り越してあきれてしまいます。
来週から、早くも来年のダービーを目指して2歳新馬戦が始まります。どんな馬たちがどんなドラマを見せてくれるのか。またワグネリアンを初めクラシックを目指してきた馬たちも、どんなレースを見せてくれるのか、期待は尽きません。