今年の安田記念に香港のロマンチックウォリアーが参戦することが発表されたときは、とても驚きました。香港の競馬にあまり詳しくない身ではありますが、G1を何勝もしている香港の最強馬が日本で見られるということに、驚かされたのです。
ロマンチックウォリアーは2018年アイルランド生まれの6歳騙馬。父はイギリスの短距離をおもに走っていたアクラメイション(Acclamation)で、母はドバイワールドカップを勝ったストリートクライ産駒のフォークメロディという血統。
2021年秋にデビューすると、いきなり5連勝でリステッド競走を制し、8戦目にクイーンエリザベス2世CでG1初制覇。その後G1を7勝し、前走まででG1を5連勝中というすさまじい成績を残していたのです。
もし日本で走ってこんな成績を残していたら、とんでもない大スターになっていたでしょうし、実際に香港でもスターなのですが、いざ競馬の予想をするとなると、いろいろあら捜しをしてしまいます。
G1 7勝はすべて2000mのレースで、マイルのG1は1回だけ走って2着だったこと。また左回りは2回しか経験がないことや、日本の時計の速い馬場に対応できるかということ。調教後の馬体重が前走時より13kg減っていることも大きく取り上げられました。
一応単勝1番人気にはなったのですが、そのオッズは3.6倍。また複勝も馬連もソウルラッシュがらみの方が売れており、ファンの間ではその力を発揮できるかはいささか懐疑的であったことがうかがわれます。
しかしふたを開けてみると、そんな思惑をあざ笑うかのような快勝を見せてくれました。
好スタートを切ったロマンチックウォリアーをマクドナルド騎手は無理せず下げて、馬群の中で5,6番手の好位を進みます。そのままの態勢で直線を向きますが、前も外もふさがっていて出すところがありません。
しかし残り400mで前を走っていたフィアスプライドの坂井騎手が内に進路を変えたことで、ロマンチックウォリアーの前が空いたのです。それをすかさずとらえたマクドナルド騎手が追い出すと、ロマンチックウォリアーはじりじりと脚を伸ばし、残り200mを過ぎて内のフィアスプライドを交わして先頭に立ちます。
そこからマクドナルド騎手の水車ムチにこたえて一気に脚を伸ばすと、最後は外から並んで追いこんできたナミュールとソウルラッシュに1/2馬身差をつけて1着でゴールしました。
着差は少なかったものの、その勝ち方は強いの一言で、まさに着差以上の強さを見せたといえます。
インタビューでロマンチックウォリアーのストロングポイントを聞かれたマクドナルド騎手は、勇気があって勝ちたいという強い気持ちを持っていることだと答えていたのですが、まさにそのとおりだと思いました。
それはパドックを見ていて感じたのですが、初めての場所とは思えないほどリラックスして堂々としており、まさに王者の風格のようなものを感じさせられたのです。これは精神的な強さがないとなかなかできないことであり、逆にそれがあったからこそ、初めて走る競馬場でも平常心で自分の実力を発揮することができたのでしょう。
ロマンチックウォリアーの戦歴を見ると、昨年の秋にオーストラリアのG1コックスプレートに参戦して、アタマ差で勝っているのですが、これも強さの表れと言えるでしょう。
飛行機による長距離輸送を経て、2戦目の左回りで59kgを克服して勝っているのですから、その精神的な強さは半端でないと思います。異なる環境でも自らの力をきちんと出して勝ちきるということは、心が強くないとできないと思うのです。それは馬であっても人間であっても同じことでしょう。
香港調教馬による安田記念制覇は、2000年フェアリーキングプローン、2006年ブリッシュラックに続く3頭目となります。しかしその2頭に比べてロマンチックウォリアーの実績は圧倒的であり、また日本馬も強くなっている中での圧勝ということで、その価値はかなり高いと思います。
残念ながらロマンチックウォリアーは登録のあった宝塚記念は回避するようですが、次はぜひ主戦場である2000mのG1天皇賞(秋)や大阪杯に出走して、日本を代表する中長距離の馬たちとの対戦を見てみたいと思います。