2019年にロジャーバローズが12番人気で日本ダービーを勝った時は、2桁人気のダービー制覇は53年ぶりということで話題になりましたが、今年はそれ以来の荒れた結果となりました。
勝ったのは9番人気のダノンデサイル。6番人気以下でのダービー馬となると、ロジャーバローズ以外に2010年に7番人気のエイシンフラッシュが勝っていますが、21世紀になってからはその2頭だけ。さらにさかのぼっても、記憶にあるのは1996年のフサイチコンコルド(7番人気)ぐらいで、それだけレアなことになるのです。
ダービーといえば生まれた時から多くの牡のサラブレッドが目指すものであり、そのための振るい分けが1年前から行われているのです。少しでも強い勝ち方をすればダービー馬候補と言われ、それぞれのレースも極端に言えばダービーに向けてスケジュールされており、それを生き残ってきた馬の中から18頭が選ばれ、最終的にその中の1頭がダービー馬の称号を得るわけです。
しかも舞台は言い訳の効かない東京芝2400mで、実力がなければ勝ちきることはできません。そういったこともあり、基本的には”実績馬=人気馬”が勝つ可能性が高いと言えるのだと思います。
今年の1番人気は、皐月賞をレコードで勝ったジャスティンミラノでした。デビューから3戦負けなしという成績はすばらしいものであり、もっともダービー馬にふさわしい馬として支持されたのは当然のことだと思います。
共同通信杯からの3戦を競馬場で見てきたのですが、当初は頼りなく見えたのが、落ち着いてしっかりと歩いており、トモの踏み込みも深く力強くなって、成長を感じました。
しかし危うさも指摘されていました。個人的に最も説得力があると感じたのは、1分57秒台で皐月賞を勝った馬は、1頭もダービー馬になっていないという事実でした。過去にアルアインとディーマジェスティが1分57秒台で皐月賞を制していますが、アルアインは5着、ディーマジェスティは3着に敗れています。
これだけだとサンプルが少ないのですが、1分58秒台で皐月賞を勝った馬となると6頭いて、その中でダービーを勝ったのはドゥラメンテただ1頭。ほかのメンバーを見てみると、ロゴタイプ、ダイワメジャーなど2000m以下がベストという馬が多く、スピードに勝るタイプが皐月賞を好タイムで優勝している傾向があります。
そう考えると、ジャスティンミラノは2000mまでは得意だが、2400mはどうかという疑問もわいてきます。たしかに母のマーゴットディドは1000mのG1勝ち馬で、血統的には距離がもたない可能性は十分にあり得るのです。
実際にレースでは、直線に向いてから残り400mぐらいでは脚色が悪く、内からダノンデサイルが抜け出しても、じりじりとしか伸びません。地力で2番手には上がるものの、最後は勝ち馬に突き放されて、2馬身差の2着に終わりました。
そして2番人気は、牝馬ながらホープフルSを勝ち、皐月賞は1番人気に支持されて1番の上りで追いこむも6着に終わったレガレイラでした。皐月賞で脚を余した馬がダービーで逆転することはよくあり、ルメール騎手に手が戻る今回は期待できるのではないかと、個人的にはこちらを中心に考えました。距離も血統的には十分にこなす素地があると思ったのです。
またパドックでも落ち着いて深い踏み込みで周回しており、気を使ってか最後方を歩いていた皐月賞の時よりも、さらに良くなっているように見えました。
スタートが悪いのは毎度のことですが、今回は五分のスタートを切ったにも関わらず、ルメール騎手は後方に下げます。しかし逃げたエコロヴァルツのペースは、1000m1.02.2のスローペース。
この日の8Rに同じ芝2400mの青嵐賞があり、そこで1番人気のコスタレイに騎乗したルメール騎手は、スローペースを見て向こう正面で一気に押し上げていき、場内ではレイデオロしているとざわめいたのですが、本番の日本ダービーではサンライズアースが押し上げていっても動かず。そのまま後方から3頭目の最内で直線を向きます。
そして案の定前が詰まり、外に進路を取っていくのですが、大外まで行って、ようやく前が空いて追い込み態勢に入ったのは、残り300m地点。すでに先頭とは7,8馬身差がついています。メンバー1の33.2の脚で追い込むも、脚を余した形で2馬身差5着まで。
どこかで外に出していればとも思いましたが、残念な結果に終わりました。
そして勝ったダノンデサイルですが、個人的にはほぼノーマークでした。京成杯は勝っていたものの、その前の京都2歳Sはシンエンペラーの4着に負けており、皐月賞は跛行で直前に除外。その皐月賞でも高く評価していなかったこともあり、今回も買えませんでした。
結果論で考えると、レコード決着だった皐月賞を走らなかったことで消耗を防げたことが大きかったでしょうし、京成杯からここまでの成長が著しかったということなのでしょう。また先行させた横山典騎手の判断も良かったと思います。
これで横山典騎手はロジユニヴァース(2009年)、ワンアンドオンリー(2014年)に続く日本ダービー3勝目。武豊騎手の6勝に続き、福永祐一元騎手と並んで史上2位タイとなりました。また56歳3ヶ月での勝利は日本ダービー優勝の最年長記録となり、同じくG1最年長勝利も武豊騎手の記録を抜いたことになります。
皐月賞では出走直前に横山典騎手の申告により除外になったとのことですが、その判断もさすがベテランというものでした。またこれがG1初制覇となった安田翔伍調教師は、史上最年少のダービートレーナーとなったのですが、短期間でここまで立て直した手腕は見事だと思います。
レースでは、ダノンデサイルの横山典騎手は押して積極的に位置を取りに行くと、道中はジャスティンミラノの内の3,4番手を進みます。そのまま内ピッタリで4コーナーを回ると、早めに押して内ラチ沿いから逃げたエコロヴァルツを交わして残り300mで先頭。坂でやや手ごたえが悪かったジャスティンミラノが残り200mぐらいから迫りますが、残り100mぐらいからは逆に突き放して、最後は2馬身差をつける完勝でした。京成杯はアーバンシックに3/4馬身差の辛勝だったのですが、距離が伸びてさらに良さが出たという印象でした。
ダービー馬をつかまえられなかった反省から、何か来年以降に生かせることはないか、ダノンデサイルの戦歴を見て考えていたのですが、1つ気になったのは京成杯を勝っていたことでした。これは昨年の皐月賞馬でダービー2着のソールオリエンスとも共通しており、新たなトレンドと言えるのかもしれません。
かつて京成杯といえば、極寒の1月に行われることや、クラシックまで微妙に間隔があくため、有力馬の出走がほとんどなく、皐月賞やダービーの予想では、ほぼ無視されていました。しかし最近はいかに本番までに負担をかけずに出走させるかが重視されるようになり、年末の朝日杯FSやホープフルS、あるいは2月の共同通信杯から直行する馬が良績を残すようになってきています。その意味では京成杯からの直行も十分にあり得るわけです。
来年はぜひ京成杯の上位馬にも注目して、クラシックの勝ち馬を取り逃さないようにしたいと思います。