ルメール騎手×木村厩舎の強さ ~オークス

今年のオークス1番人気は、桜花賞馬のステレンボッシュでした。
個人的にもステレンボッシュが中心と考えたのですが、ただし力は認めても、勝ちきれない可能性は十分あるとも感じていました。その理由は、やや決め手に欠ける面があることでした。

ステレンボッシュは赤松賞を勝った後、ルメール騎手騎乗で8.7倍の5番人気で臨んだ阪神JFで、アスコリピチェーノのクビ差2着に敗れました。この時、十分差し切る勢いで上がってきたのに、勝てなかったのです。
続く桜花賞では、モレイラ騎手に乗り替わったのですが、阪神JFのレースをよく研究したのでしょう。相手と定めたアスコリピチェーノよりも先に抜け出して、3/4馬身差抑えて雪辱しました。しかし最後は詰め寄られて、かろうじて勝ちきったという印象。
この2戦の結果から、力はあるものの抜けているわけではなく、先に抜け出されたり、あるいは後ろから切れる脚を使われれば、2着に敗れる可能性もあると思ったのです。

そしてその危惧は現実のものとなりました。
オークスを勝ったのは2番人気のチェルヴィニア。かつてステレンボッシュとコンビを組んだこともあるルメール騎手を背に、ステレンボッシュを前に見る中団からレースを進めると、直線は外に持ち出します。
内を選択した戸崎騎手のステレンボッシュが馬群の中に進路を取る中、チェルヴィニアは外から脚を伸ばします。残り200mを過ぎて内から抜けたステレンボッシュが先頭に立ちますが、坂を上って一気に外から伸びてきたチェルヴィニアは、ゴール50m手前で離れた外からステレンボッシュを捉えて先頭に立つと、1/2馬身差をつけて見事に樫の女王の称号を手に入れました。

【チェルヴィニア】内のクイーンズウォークや最内のステレンボッシュを交わして先頭にたちます

しかし驚かされたのは、その戦歴です。
チェルヴィニアは2023年6月の新馬戦で2着に敗れたものの、8月の新潟芝1800mの未勝利を1.46.9という古馬並みの時計で6馬身差の圧勝。続くアルテミスSも1.5倍の人気に応えて1 3/4馬身差で楽勝し、一躍クラシック候補に名乗りをあげます。
しかしその後脚部不安で阪神JFやクラシックのトライアルは回避。5か月半ぶりのぶっつけで桜花賞に臨むも、ルメール騎手がケガで乗れずなかったことや、外枠で前に馬を置けず掛かったこともあり、1.2秒差13着に大敗。雪辱を期してオークスに臨んでいたのです。

ところが過去10年で見ても、桜花賞大敗から巻き返した馬はルージュバック(2015年 桜花賞9着から2着)、アドマイヤミヤビ(2017年 桜花賞12着から3着)、ナミュール(2022年 桜花賞10着から3着)、ドゥーラ(2023年 桜花賞14着から3着)と結構いますが、さすがに勝った馬はいません。
調教がとてもよかったので相手候補には入れたものの、2番人気はさすがに人気過剰ではと思っていたのです。
しかし鮮やかに勝つことで、2番人気に推した多くのファンの目の確かさを証明することになりました。

【チェルヴィニア】気合乗りよく伸びやかな歩様で体を大きく見せてとても良い状態に見えました
【チェルヴィニア】ルメール騎手は復帰後G1では2着が続いていましたが、ようやく勝つことができました

そしてそれ以上に印象的だったのは、ルメール騎手と木村師が組んだ時の強さでした。
ルメール騎手はその腕の確かさから多くの有力厩舎の馬に乗っていますが、かつては関東では藤沢和厩舎や国枝厩舎などとの組み合わせが多かったイメージがあります。しかしここ数年は木村厩舎の馬で多く結果を残している印象があります。

木村厩舎の馬で初めてルメール騎手が重賞を勝ったのは、2018年スプリングSのステルヴィオでした。しかしその後、皐月賞、日本ダービーとルメール騎手とのコンビでは結果を残せず、ビュイック騎手に乗り替わったマイルCSで、厩舎に初G1制覇をもたらすという皮肉な結果に終わっています。
その後もオーソリティやファインルージュとのコンビで重賞は勝つものの、なかなかG1には手が届きませんでした。

そしてようやくルメール騎手が木村厩舎の馬でG1を勝ったのが、2022年天皇賞(秋)のイクイノックスだったのです。その後はこのコンビでG1を5勝。さらに昨年のホープフルSをレガレイラで制します。
そこまで木村厩舎はG1を8勝したのですが、そのうち6勝がルメール騎手の手綱によるものでした。
そして今年のオークスで木村厩舎はG1 9勝目となり、そのうち7勝がルメール騎手があげたものとなります。

こうなると注目は来週の日本ダービーでしょう。予定ではルメール騎手は木村厩舎のレガレイラとコンビを組むことになっています。
レガレイラは牝馬ながらルメール騎手の手でホープフルSを勝つと、距離を重視して桜花賞ではなく皐月賞に挑戦することが陣営から発表されます。
しかしドバイで怪我をしたルメール騎手は皐月賞では騎乗できず、調教パートナーを務める北村宏騎手が乗って1番の上りで後方から追いこむも、2 3/4馬身差6着と初めて3着内を外してしまいます。

そのレースぶりから牡馬相手は厳しいのではということで、オークスに行くのではと思われていたのですが、陣営は日本ダービー挑戦を発表しました。
一説には、有力な3歳牡馬がいないサンデーレーシングが、チェルヴィニアとレガレイラの両方でルメール騎手を確保したいために使い分けたとも言われていますが、どうでしょう。
日本ダービーでは、皐月賞で最速の上りを使いながら敗れた馬が逆転することがよくありますが、その意味ではレガレイラも十分に可能性はあると思います。おそらく戸崎騎手が乗るジャスティンミラノに次ぐ2番人気に支持されるでしょうから、オークスとまったく同じ結果に終わる可能性も大いにあり得ます。

2007年ウオッカ以来17年ぶりの牝馬による日本ダービー制覇はなるか。楽しみに当日を待ちたいと思います。

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