今年のチャンピオンズCの1番人気はレモンポップでしたが、そのオッズは3.8倍と決して高いものではありませんでした。レモンポップは今年のフェブラリーSを好位から1 1/2馬身差で勝ってG1初勝利をあげると、UAEでは良いところなく10着に敗れるも、前走の南部杯は逃げて2.0秒差の楽勝。本来ならもっと低いオッズがついてもおかしくないところです。
しかしレモンポップには乗り越えなければいけない、いくつかの壁があったのです。
その1つ目は距離でしょう。
レモンポップはこれまで13戦して、もっとも長い距離が4戦している1600m。1400mが7戦で1300m以下が2戦。1600mを超える距離は1度も走ったことがないのです。血統的にはともかく、馬体は筋肉質でやや胴がつまっており、陣営も短距離向きと判断して、これまで使ってきたのでしょう。G1でいきなり初めての距離を走るというのは、相当なチャレンジです。
実際に過去10年の連対馬を見ると、近2走がともに1600m以下だった馬は、2019年に2着だったゴールドドリームただ1頭。しかしゴールドドリームは2017年の勝ち馬で、1800mにはもちろん実績があったのです。つまり1800m以上に実績がない馬は、過去10年1頭も連対していません。
次に枠順があげられます。
これはいろいろな予想の中でも触れられていましたが、過去10年8枠から3着内に入った馬は1頭もいません。しかもその中にはG1馬や連勝中の馬など人気馬も含まれているのです。
2014年 ⑮インカンテーション 4番人気 10着
2016年 ⑮モーニン 5番人気 7着
2020年 ⑮クリソベリル 1番人気 4着
2021年 ⑯カフェファラオ 4番人気 11着
モーニン、カフェファラオはフェブラリーSとの同一年両ダートG1制覇を、クリソベリルはチャンピオンズC連覇を、インカンテーションは4連勝でのG1制覇を狙ったのですが、いずれも着外に敗れています。
そして展開です。
レース前にはレモンポップが逃げるかどうかはわかりませんでしたが、南部杯で逃げて圧勝しているので、可能性はあると思っていました。しかし坂井騎手は大外から迷いなく押していってハナをとります。
ところが過去10年、逃げ馬は0・0・2・8と1頭も連対できていません。しかも2015年の1番人気コパノリッキーは、逃げて0.8秒差7着と着外に敗れているのです。
他にも過去10年で、1番人気が2勝しかしていないとか、関東馬も2勝のみなど、不利な条件はたくさんあり、それがオッズにも表れたのでしょう。
実際にダートG1馬はレモンポップ以外に4頭(メイショウハリオ、テーオーケインズ、ノットゥルノ、アイコンテーラー)出走しており、他にも無敗のセラフィックコールや、中京に良績の重賞勝ち馬クラウンプライド、ハギノアレグリアスなども人気で、決して楽な相手ではありません。
そんな中、素早い出足でハナを奪ったレモンポップは、ドゥラエレーデやケイアイシェルビーに迫られながらも先頭を譲らず、1000m1.00.8と平均ペースで飛ばしていきます。
絶好の手応えで4コーナーを回って追い出すと、後続をじりじりと離していき、残り200mでは2馬身差抜けます。ドゥラエレーデとテーオーケインズの2着争いをしり目に脚を伸ばすと、最後は後方から一気に12番人気のウィルソンテソーロが追いこんでくるも、1 1/4馬身差つけて余裕の1着。
ウイングアロー(2000年)、トランセンド(2011年)、ゴールドドリーム(2017年)に続く、史上4頭目の同一年両ダートG1制覇を成し遂げました。
これで国内では13戦して10勝で3着以下なし。G1はフェブラリーS、南部杯に続く3勝目という優秀な成績。しかも距離も克服して、将来の選択肢も増える結果となりました。
調教の動きもすばらしく、パドックでも気合乗り十分でクビを使った素軽い動きは目を引くものがありました。また明るい毛色と父親譲りのかわいらしく印象的な名前もあいまって、ますます人気が出てくるでしょう。
今後の活躍にも、ぜひ期待したいと思います。
ところで、ここまで秋のG1は8戦が終わって関東馬が5勝と活躍が目立ちます。残念ながら大将格のイクイノックスとマイル女王のソングラインは引退が発表されましたが、3歳牡馬3冠を分け合った3頭をはじめ、牝馬のブレイディヴェーグにダートのレモンポップと、なかなかの強力な布陣。
すでに現時点で今年の平地G1は関東馬が12勝と全24戦の半分を勝っており、今後どこまで伸ばせるか、2歳G1や有馬記念に期待がかかります。美浦も盛り上がっているのではないでしょうか。