関東馬の強さは本物か。そして北村宏騎手のこと ~阪神JF

先週のチャンピオンズCをレモンポップが勝って、年間の平地G1 24戦のうち半分の12勝を関東馬があげたと書いたのですが、阪神JFでは先週のワンツーを上回る1~3着を関東馬が独占するという結果になりました。しかも1着アスコリピチェーノ、2着ステレンボッシュ、さらに3着コラソンビートと3頭が抜けて、4着サフィラとは3馬身と決定的な差がつく結果に。

阪神JFといえば、来年の牝馬クラシックを占ううえで重要なレースであることは間違いありませんので、ここで抜けた成績を収めた3頭は、当然中心を担っていくことになるでしょう。
ほかにもこのレースを回避したチェルヴィニア(アルテミスS1着)やボンドガール(サウジアラビアRC2着)と、出ていれば当然上位人気に推された馬もいたのですが、この2頭も関東馬。どうやら来年の3歳牝馬戦線は、関東馬中心に回っていくことになりそうです。

これで年間平地G1での関東馬の勝ち越しが決まったのですが、2021年が12勝ずつの引き分けで、関東馬が勝ち越したのは1998年以来ということなので、25年ぶりということになります。

ではなぜ関東馬が強くなってきたのでしょう。
そもそも関西馬が強くなったのは、1985年の栗東トレセンへの坂路コースの導入が大きいと言われ、美浦トレセンでも遅まきながら1992年に坂路コースができましたが、距離・傾斜とも栗東におよばないこともあり、長らく西高東低の時代が続いてきました。
しかし近年は外厩制度が発達して、特にノーザンファームのような大手馬主は自前で大きな調教施設を構えていて、レースに向けた準備はほぼトレセンへの入厩前に終わっているような状況になっています。そういう意味では、東西トレセンの設備の差は、実質的に意味がなくなってきているのかもしれません。

また以前は大手馬主は、西高東低という傾向を見て、有望な馬は栗東に入厩させるという傾向が強かったと思います。調教師も、G1を多く勝つような名調教師は栗東に多く所属しており、美浦は藤沢和師が孤軍奮闘しているような印象でした。
しかし最近は美浦にも多くの有能な調教師が増えてきた印象があります。堀師や手塚師などは、以前から多くの有力馬を手掛けていましたが、レモンポップの田中博師やイクイノックスの木村師、スターズオンアースの高柳瑞師、ソングラインの林師、そして阪神JFを勝ったアスコリピチェーノの黒岩師と、中堅から若手の調教師の活躍も目立ちます。
これらの活躍が、馬主側の意識を少しずつ変えてきたという面があるのではないでしょうか。

そういう意味では、東西で争うという感覚も、少なくともトレセン関係者以外では、なくなっていくように思います。馬主としては、自分の馬の力をもっとも引き出してくれる厩舎に預けたいでしょうから、実績のある厩舎には、東西関係なくますます有望な馬が集まるということになっていくでしょう。

そしてもう一つ、今日の阪神JFで印象的だったのは、アスコリピチェーノに騎乗した北村宏騎手でした。北村宏騎手といえば、藤沢和厩舎の所属騎手ではあったのですが、有力馬には基本的に岡部騎手やペリエ、デザーモ騎手など、実績のある騎手が乗ることが多く、なかなか騎乗馬に恵まれなかった印象があります。

それでも腐らずに精進してきて、初G1制覇は2006年ヴィクトリアMのダンスインザムード。
この馬も藤沢和厩舎でしたが、クラシックは武豊騎手とコンビを組んで桜花賞を勝ち、その後もルメール、デザーモ、ペリエと有名騎手が乗りますが結果が出ず、大敗が続いていた4歳秋に初めて北村宏騎手が乗ることになります。すると13番人気の天皇賞(秋)で3着と好走して驚かせます。そして翌春のヴィクトリアMで、桜花賞以来の久々の勝利を飾ったのでした。

そしてG1 2勝目は2014年天皇賞(秋)のスピルバーグ。
藤沢和厩舎所属で、デビューから3戦は北村宏騎手(当時はすでにフリー)が手綱を取りますが、3戦目の共同通信杯で3着に敗れると、あっさり乗り替わりに。その後別の騎手でダービー出走にこぎつけますが14着に終わります。そして1000万下(現2勝C)での再出発から再び北村宏騎手に手綱が戻ると、3連勝でOP勝ちをおさめます。さらに毎日王冠3着から臨んだ天皇賞(秋)で、後方からジェンティルドンナを3/4馬身差で差し切って戴冠を果たしたのでした。
これらの2戦とも現地で観戦しましたが、北村宏騎手は勝っても派手に喜ぶわけではなく、インタビューも淡々と答えていたような記憶があります。

G1 3勝目は2015年菊花賞のキタサンブラック。
栗東の清水久厩舎の所属馬でしたが、2戦目からコンビを組むと2連勝でスプリングSを制覇。ところが皐月賞は騎乗停止で乗れず、ダービーはハイペースを先行して14着大敗と春は結果を出せませんでした。
しかし秋になってセントライト記念を快勝すると、距離不安をささやかれた菊花賞も勝ってクラシック初制覇を果たします。
ところが12月にけがをして有馬記念でのキタサンブラックは横山典騎手に乗り替わりとなり、その後は武豊騎手とコンビを組んでG1を勝ち続けて、2度と北村宏騎手に手綱が戻ることはなかったのです。

さらに2019年と2021年にいずれも落馬事故で重傷を負って、それぞれ5か月ほど休むなど近年はやや存在感が薄れてきた印象もありました。そんな中での8年ぶりのG1制覇。
新潟2歳S以来3か月半ぶりのレースでも、アスコリピチェーノをきっちり仕上げた黒岩厩舎やノーザンファームの努力もありましたが、中団から4コーナーは外に出さずにうまく馬群をさばき、ステレンボッシュとコラソンビートとの追い比べも、しぶとく残した騎乗ぶりは、もはやベテランとなった北村宏騎手の確かな経験に裏打ちされたものだったと思います。

これで2歳女王として来年のクラシックに臨むのですが、チェルヴィニアやボンドガールも戻ってくるでしょうから、もちろん楽な戦いではありません。しかしまずは桜花賞制覇を目指して、頑張ってほしいと思います。

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