1番人気の不思議 ~安田記念

1番人気といえば、普通は最も勝つ可能性が高い馬がなるものでしょう。特にG1のように売れる票数が多い場合は、それなりに納得のいく馬が1番人気に支持されることが多いと思います。
ところが、今年の安田記念では、ちょっと不思議なことになりました。

前日販売から1番人気になったのは4歳馬のシュネルマイスター。昨年のNHKマイルCを制して、続く安田記念では1/2馬身差3着に好走。秋には毎日王冠を勝ってマイルCSでも3/4馬身差2着に入ります。
前走遠征したドバイターフではなぜか8着に敗れてしまいますが、国内では3着を外していないという堅実な成績。しかも得意な東京のマイル戦ということで、誰もが納得する人気だったでしょう。

常に2番人気とは1倍以上の差があり、当然そのまま1番人気だろうと思っていました。ところがレース直前でそれが入れ替わったのです。代わって1番人気になったのは、ずっと2番人気だったイルーシヴパンサー。昨年6月の1勝Cから東京の1600mと1800mのレースを4連勝し、ついに2月の東京新聞杯で重賞制覇した馬です。その差し脚は素晴らしく、東京でこそというレースぶりから、ある程度の人気にはなると思いましたが、まさか1番人気になるとは思いませんでした。
重賞を勝ったとはいっても56kgを背負ったG3で、しかも1勝だけ。G1で勝ちも含め何度も好走しているシュネルマイスターとは、正直格が違うと言えるぐらいの差があります。

なぜそんなことになったのでしょう。それはやはり、今年のG1で1番人気が勝てていないということが大きいのではないでしょうか。
単勝馬券は単純な人気投票ではなく、やはり皆儲けたいと思って買うので、ジンクスは気になるでしょう。最近話題の「粗品の呪い」(今回解けたようですが)や、1番人気の連敗から、該当する馬を買うのは避けたいという心理が働くのは仕方ないことで、それが1番人気濃厚のシュネルマイスター以外の単勝馬券を買わせたのではないでしょうか。
これは先週のダービーでも気になったのですが、1番人気が当然と思われたイクイノックスやドウデュースではなく、ダノンベルーガが支持されたのです。実際に複勝ではイクイノックスが1番売れていましたし、3連単も必ずしもダノンベルーガから売れていたわけではありませんでした。
安田記念では単勝も複勝もイルーシヴパンサーが1番人気でしたが、3連単はシュネルマイスター1着で2着イルーシヴパンサー、3着ファインルージュの組み合わせが1番人気だったので、単複の人気が本当の人気とは異なったのではないかと思われるのです。

そして実際にレースを勝ったのは、4番人気の4歳牝馬ソングラインでした。サウジアラビアで1351mのG3を勝って参戦した前走ヴィクトリアMでは、2番人気に支持されたものの、位置取りを下げてしまい、3コーナーでつまずくなどして不完全燃焼の5着。
その巻き返しに燃える池添騎手は、好スタートから中団後方の外につけると、4コーナーは大外を回して直線は外からじりじりと脚を伸ばします。すぐ前のサリオスとの追い比べを制すると、内から伸びてきたシュネルマイスターをクビ差押さえて1着。
昨年のNHKマイルCでハナ差競り負けた相手にその借りを返すとともに、初のG1制覇を成し遂げました。上りもシュネルマイスターと並んでメンバー4番の32.9と立派なもの。アーモンドアイやグランアレグリアといった名牝たちに勝るとも劣らないパフォーマンスで、強い牝馬の系譜を引き継いだともいえるでしょう。今後の活躍を期待したいと思います。

【ソングライン】ややテンション高めでしたが良い雰囲気でした
【ソングライン】内のサリオスとの追い比べを制します
【ソングライン】池添騎手は2年前のグランアレグリア以来久々のG1制覇でした

ただし、一番強いパフォーマンスを見せたのは、2着のシュネルマイスターだと個人的には思います。
4コーナーでソングラインとほぼ同じ位置にいたシュネルマイスターのルメール騎手は、直線で内を突きます。前のサリオスとレシステンシアの間を狙ったものの、レシステンシアが内からはじかれるなどしてなかなか前が開きません。ようやく前が開いたのは、残り200mを切ってから。そこからサリオスの内に切れ込んで脚を伸ばし、サリオスには競り勝ったものの、クビ差2着まで。
ただしスムーズに運べていたら、逆転もあったかもしれません。ドバイで大敗したダメージも少なからずあったと思いますが、そこから立て直した陣営の努力はたたえられるべきでしょう。

そして最終的に1番人気になったイルーシヴパンサー。実は個人的にも中心に考えていたのですが、それは調教の出来の良さに加えて、パドックでの素軽く力強い歩様も後押しとなりました。
田辺騎手は、G1だからある程度流れるだろうと、東京新聞杯同様に後方につけて末脚勝負を狙ったのでしょう。ところが600m34.7と落ち着いた流れになってしまいます。
それを4コーナー後方2番手から外を追いこみ、究極ともいえる32.6の脚を繰り出すものの、勝ち馬に32.9の脚を使われては、0.2秒差の8着まで詰めるのが精いっぱい。とはいえ勝ち馬との着差は2馬身ほどで力負けと言えるものではありません。流れが違えば結果も変わったでしょう。
今回は残念でしたが、これをいい経験にして、いつか巻き返すことを期待したいと思います。

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