ダービー馬にふさわしい馬とは ~日本ダービー

毎年ダービーを予想するときは、どの馬がもっともダービー馬にふさわしいかということを、よく考えます。
世界の競馬が開催される国では、それぞれのダービーに相当するレースがあるそうですが、どこにおいてもやはりダービーを勝つということは特別なことなのだと思います。そして日本でもJRAをはじめ各地方競馬にもダービーを冠するレースがありますが、それぞれの勝ち馬はダービー馬として一目置かれる存在になるのです。

ただし特別な存在であるということは、それなりの責任も生じるわけで、その後の競走生活、そして種牡馬になってもダービー馬という称号は一生ついて回るのです。そこでやはりダービーを勝つ馬には、ダービー馬を名乗るにふさわしい馬であってほしいと思いますし、それはほかのG1にはない条件でしょう。
そのため他のレースでは、あわよくば穴馬券をとも考えるのですが、ダービーにおいてはほぼ人気馬を中心にすることになります。それは多くの人がダービー馬にふさわしいと考えている証拠でもあるからです。

ところが過去10年の結果を見てみると、1番人気は2・3・2・3とわずか2頭しか勝っていません。
その2頭とは2015年のドゥラメンテと、2020年のコントレイル。前者は2冠馬で生涯連対を外さず、後者は無敗の3冠馬で生涯3着を外さなかったのですが、ダービー前もドゥラメンテは連対を外さず、コントレイルは無敗で皐月賞を制して、まさにダービー馬にふさわしい成績をあげていたのです。
逆に残りの8頭は勝つことができず、そのうち5頭は連対も外すという結果に終わっています。

では1番人気でなかったダービー馬が、ふさわしくなかったかというと、決してそんなことはないのです。特にコントレイル以降はシャフリヤール(4番人気)、ドウデュース(3番人気)、タスティエーラ(4番人気)、ダノンデサイル(9番人気)と、やや人気が落ちる馬たちがダービー馬になったのですが、その後シャフリヤールはドバイシーマクラシックを勝ちジャパンCや有馬記念で2着、ドウデュースは国内G1 3勝、タスティエーラは今年香港のクイーンエリザベス2世Cを勝ち、ダノンデサイルも今年のドバイシーマクラシックを勝つなど、それぞれダービー馬にふさわしい活躍を見せています。
要するにダービーの時点で、多くの人がその実力を見抜けなかったということなのでしょう。

そして今年のダービーで1番人気になったのはクロワデュノールでした。
2歳時は新馬、東スポ杯2歳S、ホープフルSを3連勝で、最優秀2歳牡馬に選ばれます。そしてそれらのレースで破った馬たちが、その後の3歳重賞で活躍したため、クロワデュノール自身はぶっつけで皐月賞に臨んだのにも関わらず、相対的に1番強いということで、皐月賞では1.5倍の圧倒的な1番人気に支持されたのです。
ところが先行して押し切りを図ったクロワデュノールでしたが、最後に差してきたミュージアムマイルに1 1/2馬身突き放され2着に敗れてしまいます。しかも3着マスカレードボールにはクビ差まで詰め寄られ、案外強くないのではという意見も多く聞かれるようになりました。

しかしその敗戦は、実はそれほど悲観するものではなかったと個人的には思います。
まずファウストラーゼンが向こう正面でまくったことで途中からペースが上り、それをクロワデュノールは積極的にとらえに行ったことで、3コーナー過ぎから脚を使うことになったのです。それが最後に響いたのでしょう。実際に皐月賞上位5頭のうち、道中で真ん中より前にいたのはクロワデュノールだけで、負けて強しという競馬だったのです。
またクロワデュノールにとって皐月賞は3歳初戦でほぼ4か月ぶりのレースだったのですが、ほかの上位4頭はすべて2月か3月にレースを走って皐月賞に臨んでいました。そのためクロワデュノールがダービーにおいては、最もたたいた変わり身が期待できる状況だったのです。

実際にクロワデュノールの調教は派手さはないものの、反応よくすっと伸びて申し分ない出来に見えましたし、パドックでも落ち着いて伸びやかな歩様で、クビを使って外目を歩き、トモの踏み込みも力強く、とてもよく見せていました。
実はクロワデュノールとマスカレードボールと、どちらがダービー馬にふさわしいか迷いました。皐月賞で脚を余して負けた馬は絶好のねらい目ですが、マスカレードボールは不利がありながら2番の上りでクロワデュノールとはクビ差の3着。しかもアイビーS、共同通信杯と東京で強い勝ち方をしているのです。
ただホープフルS11着と連対を外していることと、調教とパドックのどちらもクロワデュノールの方が良く見えたこともあり、最終的にやはりクロワデュノールだろうという結論になりました。

好スタートを切ったクロワデュノールは、外から前に行ったサトノシャイニングを追って、前の位置を取りに行きます。向こう正面ではハナを切ったホウオウアートマンが離して逃げますが、2番手の武豊騎手のサトノシャイニングのすぐ外で3番手を折り合って追走。
直線に入るとすぐに北村友騎手の手が動いて追い出します。残り300mでサトノシャイニングを捉えて先頭に立つも、内のサトノシャイニングも粘って離れません。徐々にサトノシャイニングとの差を広げるものの、今度は後方からショウヘイとマスカレードボールが差を詰めてきます。
残り100mを切ってマスカレードボールがじりじりと迫りますが、最後は3/4馬身差で振り切ってクロワデュノールが栄光のゴールを駆け抜けました。

クロワデュノール 2025年6月1日 東京競馬場

キタサンブラック産駒としては、ソールオリエンス(2023年皐月賞)に続く2頭目のクラシックホースですが、ダービー制覇は初めて。キタサンブラック自身はダービーは14着に敗れており、ソールオリエンス、イクイノックスと産駒は惜しい2着続きだったので、ようやくその悲願を達成した形になります。
また北村友騎手、斉藤崇調教師ともダービー制覇は初。ともに皐月賞で負けたことはかなりショックだったでしょうから、その借りを返したと言えるでしょう。

秋は凱旋門賞に登録しているということで、順調ならロンシャンに向かうことになるのでしょうか。距離はもちろん大丈夫ですが、問題は馬場への適性でしょう。クロワデュノール自身は重馬場の経験はないですが、キタサンブラックは不良の天皇賞(秋)を勝っているので、こなす可能性はあるでしょう。
日本の代表であるダービー馬として、ぜひ正々堂々と戦ってほしいと思います。

なおダービーを1番人気で勝った馬ですが、過去10年の上記2頭に加えて、それ以前ではキズナ(2013年)、オルフェーヴル(2011年)、ディープスカイ(2008年)、メイショウサムソン(2006年)、ディープインパクト(2005年)、キングカメハメハ(2004年)などと名馬たちが並びます。
こうしてみると、クロワデュノールの将来の活躍はほぼ約束されたようにも思えます。くれぐれも怪我のないことを祈って、見守りたいと思います。

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