桜花賞から1.5倍に伸びるオークスの予想においては、どうしても距離適性が気になります。しかし従来この時期の3歳牝馬に関しては、完成度の高さの方が重要で、距離適性はあまり関係ないという説が広く言われていたと思います。
個人的にもその説には賛同していたのですが、その大きな理由の1つがローブデコルテの存在でした。2006年のオークスを制したローブデコルテは、父がマイラーを多く輩出しているコジーン(ほかに朝日杯3歳Sと安田記念を勝ったアドマイヤコジーンが代表産駒)で、母父がマイル以下で活躍する産駒が多いシーキングザゴールド(NHKマイルCを勝ったシーキングザパールやスプリンターズSを勝ったマイネルラヴなどが代表産駒)と血統的にはマイラーで、自身はオークス以後勝てなかったものの、古馬になってからは阪急杯3着など、おもにマイル以下で活躍したのです。
ローブデコルテがオークスを勝てたのだから、血統的にあるいは成績的にマイラーであっても、府中の芝2400mは対応できるという有力な証拠の1つだったのです。
しかし必ずしもそうでもないかもしれないと思わされたのが、2021年の桜花賞馬でオークスでは1.9倍の圧倒的1番人気に支持されたソダシでした。デビュー5連勝でG1 2勝を含む重賞4連勝中。しかも札幌2歳Sを勝って1800mにも実績があり、同世代では圧倒的な完成度の高さを誇っていたのです。
上の説に従って、オークスでも自信をもってソダシを本命にしていたのですが、好位から直線伸びてきて先頭に立つかと思ったのもつかの間、残り200mで手ごたえが悪くなって後退していき0.6秒差8着に敗れてしまいました。
その後ヴィクトリアMを勝ち、マイルCSでも3着に入るなどマイラーだったソダシには、やはり芝2400mは長かったのでしょう。
ということで、ある程度は距離適性を考えて予想する必要があるという反省を踏まえて、今年の出走馬を見てみます。
傾向として桜花賞上位馬が強いのは間違いないので、そうするとまず桜花賞2着のアルマヴェローチェが目につきます。父は昨年のオークス馬チェルヴィニアと同じハービンジャー。ハービンジャー産駒といえばマイルで活躍したノームコア、ナミュールなどもいますが、有馬記念を勝ったブラストワンピースもいて、ある程度距離に融通が効く印象があります。
そして桜花賞3着のリンクスティップ。父は天皇賞(春)も勝っているキタサンブラック。代表産駒のイクイノックスは芝2400mで強い競馬を見せており、距離に心配はありません。桜花賞では上位2頭にやや差を広げられたものの、瞬発力では劣るが長く脚を使えるという意味では、距離伸びて良さが出る可能性が高いと思われます。
それに対して桜花賞馬のエンブロイダリーは父が朝日杯FSやNHKマイルC、香港マイルを勝った名マイラーのアドマイヤマーズ。さらに母父も距離に限界があるクロフネということで、明らかにマイル向き。
桜花賞は瞬発力で抜け出したものの、最後はアルマヴェローチェに詰め寄られており、距離適性という意味では心配な面が多いと思われました。
ただし現時点での完成度という意味では、当然マークしなければならない力の持ち主ではあります。
そして距離適性という意味で、もっとも気になったのがカムニャックでした。
父ブラックタイド、母父サクラバクシンオーとキタサンブラックと全く同じ血統背景を持っており、距離延長は全く問題ありません。ちなみに個人的には、菊花賞においてキタサンブラックを母父サクラバクシンオーということだけで無印にして、痛い思いをしたことを忘れられないのですが。
カムニャックは芝2000mの新馬戦を3 1/2馬身差で快勝したあと、桜花賞を狙ったのでしょう。マイルのアルテミスS、エルフィンSに挑戦するも6,4着に敗退。オークスに照準を変えて臨んだフローラSを1 1/4馬身差で快勝してオークスに出走してきました。
そのフローラSの勝ち方がとても印象的だったのです。中団で進めたカムニャックは直線外に出して、シュタルケ騎手が大きなアクションで懸命に追うものの、じわじわとしか伸びません。ようやく先頭に立ったのは残り100mを切ってから。なんとか勝ったようにも見えるのですが、その切れないけれどもバテない末脚は、まさにステイヤーのものと思われたのです。
そして本番のオークス。パドックでのカムニャックは、落ち着いていながら適度な気合乗りで集中しており、素軽い歩様でトモの踏み込みも力強く、とてもよく見えました。

そしてレースでは好スタートを切ったものの、折り合って中団後方の外を追走。そのまま直線に入ると、馬場の良い外からじわじわと脚を伸ばします。馬群からアルマヴェローチェが抜け出すと、馬体を離して外から追って、少しずつ差を詰めていきます。そしてゴールの瞬間はアタマ差交わしていたのです。
フローラSからオークスを連勝したのは2010年のサンテミリオン以来で2頭目。鞍上のシュタルケ騎手はJRAのG1初制覇で、オークスの最年長優勝記録を更新と、うれしい勝利となりました。
過去10年の桜花賞馬を見てみると、オークスとの2冠馬が4頭(アーモンドアイ、デアリングタクト、スターズオンアース、リバティアイランド)。そのうち3頭は3冠馬で、残るスターズオンアースも大阪杯、有馬記念2着といずれも中長距離で活躍しており、力があったのでマイルもこなしたが、本来は中距離が得意という感じでしょう。
また昨年のステレンボッシュはオークス2着、秋華賞3着と勝てないまでも中距離で実績を残しており、同じパターンといえます。
残る5頭のうち3頭(レッツゴードンキ、レーヌミノル、ソダシ)はオークスに出走したものの着外に敗退。また1頭(グランアレグリア)はNHKマイルCに向かいました。この4頭ともその後はいずれもマイル以下を主戦場としており、純粋にマイルでの能力が高かったので桜花賞を勝ったと言えると思います。
こうしてみると、オークスでは完成度の高さの方が重要で、距離適性はあまり関係ないという説は、必ずしも正しくなく、やはり距離適性をきちんと見ることが大事だと思います。逆にいうと、桜花賞、オークスともに上位の馬は中距離適性があるということがわかり、今年で言うとともに2着アルマヴェローチェは、今後中距離路線での活躍が期待できると言えるでしょう。
逆に9着に敗れたエンブロイダリーは、マイル以下を活躍の場にした方がいいのでしょう。
オークスを走った馬たちの陣営は、今後は秋華賞を狙うか、あるいは結果を見てマイル以下の路線に向かうか、選択することになります。やはり距離適性の分析は、予想に際してはもちろん、関係者にとっても大事だと言えるのではないでしょうか。