2000年代に入って芝のG1レースでは牝馬の活躍が徐々に目立つようになりましたが、ダートでは強い牝馬が現れることは、ほとんどありませんでした。それはやはりダートでは、スピードや切れという牝馬でも牡馬に対抗できる特徴よりは、スタミナやしぶとく勝負にこだわる精神力のようなものが、より必要だからなのではないかと、個人的には思います。
日本のダート競走は、1997年4月よりダートグレードの格付けが行われるようになって重賞はG1~G3に分けられ、さらに2007年に日本が国際セリ名簿基準委員会パート1国に昇格することにより、国際的に承認された競走はG1~G3、それ以外はJpn1~Jpn3となりました。
この格付け前のダートにおける牝馬の代表はホクトベガでしょう。
芝でも1993年のエリザベス女王杯を勝ってG1馬となっていましたが、6歳(当時7歳)の1996年に本格的にダート競走に参戦すると、ダートでは1年間負け知らずの8連勝。その中にはのちにG1(Jpn1)に昇格する川崎記念、フェブラリーS、帝王賞、南部杯も含まれていました。翌年も川崎記念を連覇するので、今ならダートG1を5勝したことになります。
さらに2000年にはファストフレンドが帝王賞と東京大賞典、ゴールドティアラが南部杯を勝ってダートG1馬となります。この2頭はかなり強く、ファストフレンドは2000年のフェブラリーSで3着、ジャパンCダートで1番人気5着、ゴールドティアラもフェブラリーSで2番人気2着と好走しますが、JRAのダートG1は勝てませんでした。
しかしその後は、牡馬混合の古馬中距離ダートG1を制する牝馬は、なかなか現れなくなります。
そんな中、初めてJRAのダートG1を牝馬として勝ったのが、2015年にチャンピオンズCを勝ったサンビスタでした。前年に4着と好走し、それまでに牝馬ダート重賞を5勝していたのですが、牝馬はふるわないことから無印にして1点も買わなかったことを覚えています。
ところが12番人気の低評価に反発するように、直線ではM.デムーロ騎手のムチにこたえて抜け出し、1 1/2馬身差で1着となり驚かされました。
しかしその後はダートG1に参戦する牝馬はあまりなく、馬券内も2022年にソダシがフェブラリーSで3着に入ったぐらいだったのです。
そこに10年ぶりの勝利を目指して今年参戦してきたのが2頭の牝馬でした。
ダブルハートボンドはデビューからダート1800mで5連勝して一気にオープン競走を勝つと、初重賞制覇を目指したブリーダーズゴールドC(牝馬Jpn3)は2着に敗れたものの、前走みやこSは途中から先頭に立ってクビ差押し切り1着。6戦5勝という成績で臨んできたのです。
中京ダ1800mは3戦負けなしと得意なコースでしたが、みやこSは不良馬場でレコード勝ちしており、その反動が心配されたことと、過去10年前走みやこSからの馬が2着1回と勝てていないことも懸念されました。
もう1頭のテンカジョウは牝馬重賞を3勝しているほか、デビュー以来6・2・4・0と4着以下が1度もないという安定感。全6勝中ダート1800mで4勝をあげている得意距離でもあったのです。
ただし出走した重賞はすべて牝馬限定戦で、牡馬相手に勝ったのは1勝Cまでというところが気になりました。
レースは、前走JDCを3馬身差で逃げ切った1番人気ナルカミが逃げると思われたのですが、スタートが決まらずに4番手。ウィリアムバローズ(13番人気)とシックスペンス(5番人気)が2頭で引っ張る中、ダブルハートボンド(3番人気)はやや離れた3番手につけます。1000mは1.00.3と平均ペース。
直線に入っても余裕の手応えのダブルハートボンドは、残り300mを切って追い出すと先頭に立ちます。残り200mでは1馬身ほど抜け出すも、内から追ってきたのが2年連続2着と涙を呑んできた6歳馬のウィルソンテソーロ(2番人気)。残り100mで並ぶと、いったんはウィルソンテソーロが前に出るシーンもありましたが、ダブルハートボンドが差し返し、馬体を合わせたままゴール。
クビの上げ下げの勝負となりましたが、写真判定の結果ハナ差でダブルハートボンドが1着。ウィルソンテソーロは3年連続2着と、またもや悔しい決着となりました。
テンカジョウ(10番人気)は後方から追い込むものの、牡馬の壁は厚く7着と初の着外。また期待されたナルカミは直線で伸びがなく、13着とデビュー2戦目以来の着外に終わり、連勝も4でストップしました。
ダブルハートボンドの鞍上坂井騎手は、デビュー以来の7戦すべてに騎乗しているのですが、その特徴をよくつかんでいるのでしょう。先行・好位勢が軒並み着外に敗れる中、1頭だけ残るという強い勝ち方を見せてくれました。その勝ち方は、ある意味フォーエバーヤングにも通じるものもあったと思います。
そしてこれで坂井騎手はレモンポップでの連覇に続いて、チャンピオンズC3連覇を達成。中京ダ1800mの勝ち方を知っている騎手と言えるのかもしれません。
ダブルハートボンドはまだ底を見せていないという意味でも、今後の活躍が大いに期待できると思います。今後の活躍の場は地方交流G1ということになるでしょうし、その先は海外も視野に入ってくるでしょう。精神面も強そうなので、どんな環境でも力を出せることが期待できると思います。
ゆくゆくはホクトベガを超えるような活躍を夢見たい逸材の登場だと思いました。