今後3歳馬の出走はますます増えるか ~天皇賞(秋)

天皇賞(秋)は、年齢制限がなかった第1回(1937年)こそ3歳(当時4歳)牡馬のハツピーマイトが勝ったものの、以降は出走条件が4歳(当時5歳)以上になったため、長らく3歳馬は出走できませんでした。
3歳馬が出走できるようになったのが1987年。1988年にはクラシック登録のなかったオグリキャップが出走して1番人気になるものの、タマモクロスに敗れて2着。その後も長らく3歳馬が勝つことはできなかったのです。

その歴史を変えたのが、藤沢和雄元調教師が1996年に送り込んだバブルガムフェローでした。
朝日杯3歳S(現朝日杯FS)を勝ってクラシック有力候補となり、スプリングSも勝つものの、その後故障が判明して春は全休。しかし復帰して3着となった毎日王冠のあとは、距離適性も考慮して天皇賞(秋)に挑戦して、見事に3歳馬として59年ぶりに優勝したのです。蛯名正騎手の派手のガッツポーズもあり、大きな話題となったことを覚えています。

2002年には同じ藤沢和厩舎のシンボリクリスエスが3歳馬として天皇賞(秋)を制するものの、その後は出走する3歳馬はいましたが、なかなか勝てない年が続きました。

その流れが変わったのが、2020年代になってからでした。2021年に皐月賞馬のエフフォーリアが久々に3歳馬として天皇賞(秋)を勝つと、2022年には春の2冠でともに2着だったイクイノックスが天皇賞(秋)で初G1制覇を達成したのです。
どちらも3000mは明らかに長く、2000mが向くというタイプで、かつ古馬にも挑める力の持ち主とみられていたので、天皇賞(秋)への挑戦は自然なものと思われました。

そしてもう一つ大きな理由として、2頭とも春に2冠を取れなかったということもあると思います。
コントレイルは春2冠を取ったため、距離適性がないことがわかっていながら菊花賞で3冠に挑戦しましたし、今年凱旋門賞に挑んだクロワデュノールの斉藤崇師は、皐月賞を勝てなかったことで3冠に挑む必要がなくなったことを、その理由にあげていました。
長距離G1の存在意義低下が言われて久しいですが、やはりクラシック3冠の重みは、今でも失われていないのです。

そして今年、2頭の有力3歳馬が天皇賞(秋)に挑戦してきました。
ルメール騎手騎乗もあり1番人気に支持されたのが、皐月賞は追い込んで3着、日本ダービーは中団から差して2着と惜敗していたマスカレードボール。父ドゥラメンテ、母父ディープインパクトと、血統的には長距離適性が無いとは必ずしも言えないと思いますが、騎手の使い分けなどの事情もあったのかもしれません。菊花賞ではなく、こちらに挑戦してきました。

マスカレードボール 2025年11月2日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場

3番人気になったのが、今週から短期免許で来日したC.デムーロ騎手鞍上の皐月賞馬ミュージアムマイル。皐月賞は中団から差し切る強い競馬を見せましたが、日本ダービーはやや距離が長かったのか、後方から伸び一息で6着。
セントライト記念は強い勝ち方で1着となりましたが、リオンディーズ産駒で朝日杯FS2着という実績もあり、2000mの方が合うのは間違いないでしょう。

ミュージアムマイル 2025年11月2日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場

しかし個人的には今年の3歳世代のレベルには、やや懐疑的でした。
古馬混合重賞で3歳馬はここまで2勝しているものの、52kgの軽量馬マピュースが勝った中京記念と、パンジャタワーが勝った短距離のキーンランドCのみ。新潟記念でエネルジコが2着に入ったりしたものの、マイル以上の重賞では結果が出ていなかったのです。
秋のG1戦線では世代間の実力差が話題になりますが、4,5歳の実績の方が上ではないかと見ていました。

レースの主導権を握ったのは、メイショウタバルとホウオウビスケッツという4,5歳馬。そして直線に入ると外から5歳馬タスティエーラが先頭に立ちます。ここまでは狙い通りだったのですが、残り200mあたりでタスティエーラは失速。代わってマスカレードボールが力強く伸びてきて先頭に立ち、後続を引き離していきます。再度内からメイショウタバルが差し返してくるものの、外から伸びてきたミュージアムマイルが2番手にあがり、結局3歳馬2頭のワンツーで終わりました。
3着は内から伸びてきたジャスティンパレス(牡6)で、4着は大外から31.7の究極の脚で追いこんできたシランケド(牝5)。

マスカレードボール 2025年11月2日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場

これでマスカレードボールは史上6頭目の3歳での天皇賞(秋)制覇となりましたが、3歳馬が1,2着を占めるのは史上初のこと。見込みとは大きく違って、今年の3歳馬のレベルの高さを見せつけられる結果となりました。
これで今後のレース予想においては、3歳世代を重視せざるを得ないことになるでしょう。大将格のクロワデュノールの動向も含めて、3歳馬は要注目です。

そして来年以降ですが、今年の結果を受けてますます3歳馬の天皇賞(秋)へ挑戦は増えていくと思います。
実はこの2年は3歳馬の出走がなく、これで3歳馬は出走機会3連勝となりました。少なくとも春のクラシックで上位を争った力のある馬であれば、十分に古馬と勝負になるケースが近年増えているのです。血統的に1600~2000m得意な馬が求められているという背景もあり、そういう距離適性の馬が増えているという事情もあるでしょう。

そして単純に賞金の差が大きいということもあると思います。菊花賞の1着賞金が2億円であるのに対して、天皇賞(秋)の1着賞金は3億円。さらにジャパンCと有馬記念が5億円ということを考えると、消耗の大きい菊花賞ではなく、牡馬で56kg(牝馬は54kg)で天皇賞(秋)を走った方が、ジャパンCや有馬記念での好走の可能性が高くなり、収支的にもその方が得だと思われるのです。

個人的には長距離レースは好きなので、菊花賞や天皇賞(春)がもっと盛り上がることを期待したいのですが、マイルから2000mが中心という大きな流れには逆らえないのでしょう。
せめてクラシック3冠馬の価値が、今後も維持されていくことを願いたいと思います。

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