今年久しぶりに馬産地巡りに行ってきました。前回行ったのが2019年なので、6年ぶりとなります。
6年前に訪れた直後に、いくつかの牧場で見学者が馬のたてがみを切るという事件が発生。さらに2020年には新型コロナウイルスによって、あらゆる施設が利用を停止する事態になり、馬産地の見学も大幅に制限される状態が長く続きました。
それらの影響もあり、馬産地の各施設も運用状況が大幅に変わっており、見学時間の変更や立ち入りできる場所が限定されていたり、SNSへの写真アップ禁止など、条件が厳しくなっているところも多くなっていました。
また見学者側についても、以前と大きく変わったことに気がつきました。それはウマ娘の影響が大きいのでしょうか、いわゆるライトな感じのファンが多いことでした。
以前は一眼レフなど大きなカメラを持って、熱心に写真を撮る人が少なくなかったのですが、今回は手ぶらで回る人が多く目についたのです。そしてその人たちの多くはスマホで写真を撮っていました。
最近のスマホはカメラの性能も良く、きれいな写真が撮れますが、ズームの機能は弱いし、画質もさすがに一眼レフにはかないません。画質はともかくとして、SNS禁止はスマホで写真を撮る人には厳しいのではないかなと思います。やはりインスタグラムなどに写真をあげるのが、目的の一つでしょうから。
まず最初に訪れたのが、日本を代表する種牡馬たちが繋養されている社台スタリオンステーション。社台グループ生産の一流馬はもちろん、他の牧場で生まれたG1馬や海外のG1で活躍したり種牡馬として実績のある外国産馬も暮らしています。
その顔触れは超一流の種牡馬たちばかりで、まさにキラ星のようなスターがそろっています。
しかし立派な見学施設があるにもかかわらず、コロナ禍以降一般公開は行われておらず、わずかに旅行会社やノーザンホースパーク主催のツアーに参加するぐらいしか、繋養されている名馬を見る機会はなかったのです。
ただし社台系クラブの会員になると、その特典として人数は限られるものの見学することができます。今回はその機会を利用して見学してきました。スタッフの方に案内してもらいながら厩舎内を回るのですが、出張している馬以外のほとんどを見せていただくことができました。
外の放牧地にいたのが、2016年のBCスプリントを勝ったアメリカ産のスプリンターであるドレフォン。しまった馬体でフレームがしっかりしているという評価でした。
現在種付け料は500万円ですが、2018年から2021年までは300万円でした(2022年に産駒のジオグリフが皐月賞を勝つなどしたため高騰)。中小ブリーダーにとってはこの300万円というのが、種付けをするうえでひとつのハードルになるとのこと。これを超えると収支を考えた場合厳しいので、その意味で「困ったらドレフォン」と言われてきたそうです。
日本の競馬でレース数が多いのは、地方競馬もあるので圧倒的にダートです。芝の高価な種牡馬をつけてJRAのクラシックを目指すというのは夢ではありますが、リスクが大きく、実際はダートで走ることが期待できる、売れる馬を作るというのが、中小ブリーダーにとっての現実的な選択肢になるのです。そこでドレフォンは人気の種牡馬になったわけです。

つづいて見たのがスワーヴリチャード。ほかの馬はみな厩舎内の馬房にいましたが、唯一厩舎と隣接する放牧地を自由に出入りできるようになっていました。
そのような環境が一番落ち着くため、そうしているとのことですが、それぞれの馬にあわせて、きめ細かい対応をしているということが印象的でした。やはり高価な種牡馬に最高の仕事をしてもらうために、最善を尽くすということなのでしょう。

オルフェーヴルは我々が行くと、柵から顔を出して迎えてくれました。午前中から機嫌がいいのは珍しいそうです。
ちなみにオルフェーヴルの放牧地は柵が電気柵になっているそうです。これは暴れるからではなく、馬体が重いため柵に寄りかかるだけで柵が壊れてしまうので、それを防ぐために寄りかかれないようにしているとのこと。
柵を壊すというと、Yogiboヴェルサイユリゾートファームでは破壊神と呼ばれるタニノギムレットがしょっちゅう柵を壊すため、それを逆手にとって壊した柵をグッズにして売っていますが、うまく考えたと思います。ただし柵を直すのも大変だし費用も掛かるので、内心は穏やかではないのでしょうが。

ルヴァンスレーヴも顔を出して迎えてくれました。自身の成績は素晴らしかったものの、現状では産駒の成績は満足できるものではありません。ただしまだこれからでしょうし、エピファネイアとともに、シンボリクリスエスの後継種牡馬としてがんばってほしいと思います。
顔を出してくれたのはオルフェーヴルとルヴァンスレーヴぐらいで、ほとんどの馬は見学で前を通っても我関せずという感じで、ぼーっとしているか、うつらうつらしている状況でした。やはり元気で愛想のよい馬は、つい応援したくなります。

イクイノックスとキタサンブラックは向かい合わせの馬房にいましたが、2頭ともほとんど動きません。イクイノックスはこの位置が定位置らしいですが、写真映えがまったくしないので、できれば少し動いてもらえればと思います。ただ無駄な動きをしないということが、賢さの表れなのかもしれません。
そしてイクイノックスとキタサンブラックは、親子ですが全く違うそうです。馬体やレースぶりだけでなく、血統的な特徴も。そのためキタサンブラックの代わりにイクイノックスをつけるというような選択にはならないだろうとのことでした。


グレナディアガーズは期待の1頭だそうです。中内田調教師が社台SSで種牡馬入りさせることを目標に作り上げてきたということで、構想通り朝日杯FSを勝ち、その後も重賞で好走を繰り返し、見事に目標をかなえました。仔出しも良く注目しているとのことでした。

ドウデュースは父母の良いところを受け継いでおり、スタミナがすごいのが特徴。5歳で活躍しましたが2歳でもG1を勝っており、じっくりと成長を待ったのが良かったとのこと。それができるのが友道厩舎だそうです。
ただし乗り難しい面があって、4歳の天皇賞(秋)で武豊騎手負傷のために乗り替わって惨敗しましたが、テン乗りでうまく乗れるような馬ではないので、あれは仕方ないそうです。
おそらくハーツクライの後継種牡馬になるだろうと、高い評価を受けているようでした。

レイデオロはかなり期待を裏切るような産駒が多く、ネットでも辛辣な意見を目にすることがあります。高額な出資馬が走らなければ、不満を吐き出したくなる気持ちもわかります。
しかし徐々に良い馬が出てくるようになってきたとのことで、実際に今年は産駒がすでに重賞を4勝。昨年の菊花賞3着で今年目黒記念を制したアドマイヤテラは長距離重賞の常連になってきており、代表産駒としてますます活躍することが期待されています。
コントレイルに関しては、とにかく賢いとのこと。母ロードクロサイト産駒のほかの兄弟馬とはまったく違うそうです。無敗の3冠馬になるだけあって、やはり天賦の才があるのでしょうか。
馬房の中では微動だにせず、見学者から見ると面白みがないのですが、無駄なことには力を使わないという意味ではたしかに賢いのかもしれません。

最後の馬房にいたのがキズナ。産駒は途中で一段成長して変わってくる馬が多く、成長力が豊かという特徴があるとのことです。キズナは最後に厩舎から顔を出して見送ってくれました。

日本一のスタリオンステーションということで、環境も馬の顔ぶれも素晴らしく、あまり見ることができないのは残念でもあります。競馬ファンとして、もし機会があればぜひ訪れてほしい場所です。

社台スタリオンステーションで会えた馬たち
サリオス、イスラボニータ、シスキン、ドレフォン、スワーヴリチャード、オルフェーヴル、マインドユアビスケッツ、ルヴァンスレーヴ、イクイノックス、キタサンブラック、ホットロッドチャーリー、クリソベリル、グレナディアガーズ、ダノンキングリー、アドマイヤマーズ、ドウデュース、レイデオロ、エピファネイア、コントレイル、キズナ
上記の情報は、2025年9月26日時点のものです。
訪問する際は事前に必ず「競走馬のふるさと案内所」のホームページ( https://uma-furusato.com/ )を確認してください。またそこにある「牧場見学ガイド」を参考に、ルールを守って見学していただけるようお願いします。