武豊騎手の逃げ馬には逆らえない ~宝塚記念

武豊騎手といえば、言うまでもなく日本を代表する騎手であるのですが、個人的にはその騎乗姿勢の美しさと、馬を御して正確なラップタイムを刻む能力に特に感心させられます。

騎乗姿勢はレースを見ていても、その姿勢の良さからどれが武豊騎手なのかすぐにわかるぐらい特徴的なのですが、特に印象的なのは頭の位置が動かないことです。
当然馬の走りに合わせて騎手の体も常に上下に動いているのですが、武豊騎手の場合、ひざなどの動きでそれを吸収して、見事なまでに頭の位置が一定なのです。これは2年前から導入されたジョッキーカメラでもよくわかるのですが、武豊騎手のジョッキーカメラは上下動が少なく、とても見やすいことに感心させられます。

また正確なラップタイムで馬を走らせることは、特に調教においては大切で、調教師の指示通りのタイムで走ることを求められるので、たいていの騎手はできるのですが、特に武豊騎手の正確性はすばらしいと聞いたことがあります。
そしてそれが如実にわかるのが、逃げ馬に乗った場合でしょう。逃げ馬はその馬に合った、速すぎず遅すぎないラップで折り合って走り、勝負どころでは後続を突き放して、なおかつ最後までソラを使わせずにしっかりと走り切ることが求められます。
そして武豊騎手はそれらのすべてにおいて、高いレベルで対応できる技術を持っていると思うのです。

武豊騎手の逃げ馬といえば、真っ先に思い浮かぶのはサイレンススズカでしょう。ただしサイレンススズカの場合は、特に武豊騎手が乗るようになってからはスピードの絶対能力が違うために先頭を走っていたという感じで、いわゆる逃げ馬とは違うイメージであまり参考にはなりません。

そしてもう1頭、武豊騎手で逃げ馬といえばキタサンブラックがあげられるでしょう。こちらはスタミナに絶対的な自信を持っていることから、好スタートから堂々とハナに立ち、後続の馬の騎手には競りかけると自分がつぶれるのではという懸念を抱かせるような、絶妙のペースで逃げます。
そして直線では突き放してセーフティリードを奪い、追い込み馬には詰め寄られても抜かせない形でゴールするのです。
ただしこちらも力が抜けているからこそのレースぶりと言えるでしょう。

そういった意味では、武豊騎手ならではの逃げ切り勝ちで印象的だったのは、2023年大阪杯でのジャックドールのレースがあげられると思います。
前走の香港カップで初めてコンビを組んだものの、中団で見せ場なく7着に敗れてしまいます。
そこから4か月ぶりのレースとなった大阪杯で、ジャックドールは3.6倍の2番人気。好スタートからハナを切ると、1000m58.9の絶妙のペースで逃げます。そして4コーナーで後続を突き放すと直線はその差をキープ。最後は1番人気のスターズオンアースがすごい末脚で追い込んできたものの、ハナ差で残しました。

そして今年の宝塚記念で武豊騎手がコンビを組んだのが、3歳の昨年毎日杯と神戸新聞杯を逃げ切って重賞2勝をあげているメイショウタバルでした。しかし菊花賞は2番手から進めて16着。さらに今年の日経新春杯はハイペースで逃げて11着とその後は不振に陥っていたのです。
今年のドバイターフで武豊騎手と初めてコンビを組んだメイショウタバルでしたが、ハナを切ったものの直線半ばで交わされると後退していき5着に終わっていました。

毎日杯は重馬場で6馬身差の圧勝。神戸新聞杯はやや重で1/2馬身差と、ともに逃げ切っており、馬場が悪くなれば注意が必要なものの、近走の不振を見ると中心で買うのはどうかというのが、個人的な見方でした。それは11.7倍の7番人気という評価にも表れていると思います。

また最終追い切りは実質最後の直線だけ気合をつけた形で、伸び脚は良かったものの評価は難しいと感じました。ただしパドックは適度な気合で、リズミカルかつ伸びやかな歩様でなかなか良く見せたので、武豊騎手の腕とやや重までの回復となった馬場も考えて、押さえは必要とは思いました。

スタートでややよれたメイショウタバルでしたが、立て直すと無理なくハナに立ちます。向こう正面では後続を2馬身離した軽快な逃げで、1000mは59.1とやや重馬場を考えると絶妙なペース。
さすがにまずいと思ったのでしょう。1番人気ベラジオオペラの横山和騎手は、3コーナー手前でポジションを上げてメイショウタバルを捉えに行きます。そして4コーナーでは外から並びかけ、1/2馬身差で2頭が並んで直線に向きます。
直線は内ラチ沿いに進路を取ったメイショウタバルに対して、ベラジオオペラは馬場中央へ。2頭は内外離れて追い比べとなりますが、メイショウタバルの方が手応えがよく、外によれ気味のベラジオオペラとの差が開いていきます。
最後はメイショウタバルがベラジオオペラに3馬身差をつけてゴール。見事な逃げ切り勝ちとなりました。

結果的に両馬の馬場への適性が大きく勝敗を分けたと思われますが、武豊騎手のペース配分や直線のコース取り、追い出しのタイミングなども、圧勝の大きな要因になったと思われます。
これで武豊騎手は今年のG1初制覇となり、宝塚記念は5勝目で自らの最多勝記録を更新。さらに懇意の石橋守調教師のG1初勝利を演出と、とてもうれしそうだったのが印象的でした。

すでに大ベテランではありますが、まだまだ衰えるどころか、そのいぶし銀的なテクニックにはますます磨きがかかっているような印象もあります。日本を代表するレジェンドとして、これからも頑張ってほしいと思います。

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