2023年の3冠牝馬リバティアイランドが、予後不良の診断で安楽死となってしまいました。
4/27に出走した香港のクイーンエリザベスⅡ世Cで競走中止したと聞いて心配していたのですが、最悪な結果となってしまったのです。タスティエーラとプログノーシスが1,2着となる快挙だったのですが、残念ながらそれを超える悲しいニュースとなりました。
最後の直線でフットワークが乱れて競走を中止したのですが、診断の結果は左前脚の種子骨靭帯の断裂ということで、球節部が亜脱臼を起こしていたようです。
海外での悲劇というと、ホクトベガやアドマイヤラクティが思い出されますが、再び悲しい事故が起きてしまいました。心からご冥福をお祈りします。
初めてリバティアイランドのレースを見たのは2022年アルテミスSでした。新馬戦を3馬身差で圧勝したことで圧倒的な1番人気になっていたのですが、2着に敗れてしまいます。しかし直線で前が詰まってしまい、勝ったラヴェルに外から一気に前に出られていったんは離されるも、外に出してからはじりじりとクビ差まで詰めるという強いレースを見せたのです。
そのため次走の阪神JFで再び1番人気に支持されると、それにこたえるように中団外からスムーズに末脚を伸ばして後続を突き放し、2 1/2馬身差で快勝しました。そのレースぶりは、次元の違いを感じさせるもので、牝馬として世代No.1の力の持ち主であることを強く印象付けられました。
その評価は3歳になっても変わらず、桜花賞は1.6倍の圧倒的な1番人気で迎えました。
この年の3歳馬は牝馬のレベルが高く、桜花賞出走馬18頭のうち10頭が重賞勝ち馬と過去最多タイ。その中でも阪神JFでのパフォーマンスは強烈で、リバティアイランドは抜けた評価を得ていたのです。そしてレースでは、その評価にたがわぬ走りを見せてくれました。
スタートで立ち遅れて後ろから3~4番手を進むことになり、直線に入った時は前に15頭ほどがひしめく状態。外に出して、追い込みに賭けます。残り200m地点でも、リバティアイランドはようやく脚を伸ばして来たものの9番手。
しかしそこから1頭だけ違う脚色で、一気に先頭争いの2頭に迫ってきます。残り50mを切って2頭を差し切ると、2着コナコーストに3/4馬身差をつけて、見事に1冠目を奪取したのです。
その上りは、唯一33秒を切る32.9。しかも2,3着馬は先行しており、それを後方3番手から差し切ったのですから、1頭だけ次元が違う脚といえるでしょう。まさに着差以上の強さを見せたレースでした。
アクシデントがない限り2冠獲得はかなり濃厚ではと思わされた桜花賞のパフォーマンスで、オークスはさらにオッズが下がって1.4倍の1番人気。調教もすばらしく、パドックでも落ち着いて堂々と力強い歩様で、個人的には負けるシーンが想像できないような出来と映りました。
桜花賞と違ってスタートを決めたリバティアイランドは、中団前目の位置をキープ。4コーナーでうまく外に持ち出すと、軽く促しただけで前の馬たちを交わしていきます。残り200mで先に抜け出したラヴェルをかわすと、あとは独走状態となり、グレード制導入後ではジェンティルドンナの5馬身差を上回る最大着差6馬身差での圧勝となりました。
その勝ちタイムは、1週間後の日本ダービーを2.1秒も上回る2.23.1。日本ダービーに出ていても勝っていたのではないかと言われたほどの、インパクトのある勝ち方でした。



夏を順調に過ごしたリバティアイランドは、3冠を狙って秋華賞に直行します。この年は京都競馬場がリニューアルオープンしたので、その視察もかねて現地観戦に赴きました。
リバティアイランドの評価は、3冠レースでは最も高い1.1倍。2番人気のハーパーが12.9倍なので、完全なる一本かぶり。それもそのはず、夏の上り馬と言えるのはローズSをレコードで制したマスクトディーヴァぐらいで、ほかの有力馬はすべて春までに負かした馬ばかり。どんな勝ち方をするかが焦点という感じでした。パドックでも落ち着いて適度な気合乗りで、素軽い歩様で歩き好調そうに見えました。
ほぼ互角のスタートを切ったリバティアイランドを、川田騎手は無理なくオークス同様に中団の前につけます。1000m1.01.9のやや遅めのペースながらしっかり折り合って進むと、3,4コーナー中間から外を通って進出し、直線に入った時には早くも先頭に並びかけます。そこから一気に後続を突き放すと、残り100mでは3~4馬身抜けだして独走状態。これは圧勝かと思わせます。
そこに1頭だけ外から差を詰めてきたのが、ローズSを圧勝した3番人気のマスクトディーヴァ。一気に迫りますが、リバティアイランドは1馬身差をつけて史上7頭目の3冠牝馬となるゴールを駆け抜けました。




新装なった京都競馬場には3冠馬メモリアルロードが設けられて、歴代の3冠牡牝馬の像が飾られているのですが、リバティアイランドが3冠馬になった際にはその像が飾られる場所も、すでに確保されていました。
また表彰式の表彰台にリバティアイランドの名前が書かれていたり、出口でリバティアイランドの3冠記念カードが配布されたりと、JRAもリバティアイランドの3冠を確実視していたようですが、それだけの力を持った馬というのも、なかなか珍しい存在だと言えるでしょう。
無事牝馬3冠を達成したリバティアイランドの次走はジャパンCとなりました。それは当時の世界No.1ホースのイクイノックスがこの年最大目標としたレースであり、そこでリバティアイランドがどんな戦いをするのかが注目されました。
それというのも、ジャパンCでは3歳牝馬の斤量が54kg(2022年以前は53kg)と軽いこともあり、しばしば大駆けがあるのです。ジェンティルドンナはオルフェーヴルを下して、アーモンドアイはとんでもないレコードタイムで、ともに牝馬3冠達成後のジャパンCを勝っていますし、ファビラスラフインやデニムアンドルビーの好走も驚きとともに強く印象に残っています。
目標であった牝馬3冠を達成したことで疲労が心配されたリバティアイランドでしたが、調教は相変わらずすばらしく、パドックでも落ち着いて伸びやかな歩様を見せて、見た目には疲れは全く感じさせませんでした。
レースでは先行するイクイノックスを直後でマークするように好位を進みますが、直線に入って馬なりで前に迫るイクイノックスに対して、リバティアイランドは川田騎手の手が激しく動くものの、イクイノックスとの差を詰められません。残り300m過ぎに追い出されたイクイノックスはスピードに乗り、残り200mで先頭に立って後続を引き離していきます。リバティアイランドも懸命に追って残り150mで2番手に上がるものの4馬身差は詰められず、そのまま2着でゴール。
競馬では2強対決の場合、しばしばどちらかが崩れて高配当を生むことがあるのですが、この年のジャパンCは順当に2強で決まりました。その馬連は180円とG1レースでは最低タイの記録。まさに銀行レースでしたが、きっちり勝利をものにしたイクイノックスはもちろん、3冠達成後の初の古馬との対戦でしっかりと2着にきたリバティアイランドもほめられるべきレースだったと思います。

2022年の最優秀2歳牝馬に続けて2023年の最優秀3歳牝馬の称号を得て世代牝馬No.1となったリバティアイランドは、さらなる高みを求めて2024年初戦はドバイシーマクラシックに挑戦します。しかし中団後方から直線は外から鋭い末脚で伸びるも、先に抜け出した2頭はとらえられず3着まで。
その後脚部不安で秋まで休養することが発表されます。
秋初戦は天皇賞(秋)。7か月ぶりの出走でしたが、前年の活躍が印象に残っているファンは2.3倍の1番人気に支持します。
個人的にも1週前追いの5ハロン64.8、最後の1ハロン10.8の猛時計を見て、リバティアイランドが中心と思ったのですが、過去10年で10番から外は勝利がないにもかかわらず12番を引いてしまったことや、7か月の休み明けで前年のジャパンCより22kgも馬体が増えていることなど、不安も多々あったのです。ただし最終追い切りも良く、パドックも素軽い歩様でノビノビと歩き良く見せたので、結局はリバティアイランドから買うことにしました。
好スタートを切ったリバティアイランドは向こう正面でポジションを上げて行って4番手。そのまま絶好の手応えで直線を向くも、残り200m手前で手応えが悪くなって失速。結局0.8秒差の13着とキャリアで初めての大敗となってしまいました。
陣営も明確な敗因はつかめないようでしたが、久々ということと大幅な馬体増が影響したのではないでしょうか。

次走はジャパンCは回避して香港Cに出走します。474kgと大幅に馬体を絞って臨んだリバティアイランドは、後方から直線はいつもの末脚を見せて追い込むも、地元の雄ロマンチックウォリアーには追い付けず1 1/2馬身差2着。
しかし久々にリバティアイランドらしいレースを見せて復活を印象付けたことで、5歳も現役続行という判断につながったのでしょう。
芝中距離を主戦場とするG1勝ちの古馬牝馬には、上半期は牡馬と大阪杯、宝塚記念を目指すか、距離を短縮してヴィクトリアMや安田記念に出るぐらいしか選択肢がないのですが、そうなると賞金が高い海外レースに挑戦するという道を選ぶのもありでしょう。
そしてリバティアイランドの陣営は今年、ドバイターフからクイーンエリザベスⅡ世Cという路線を選択しました。
ドバイターフは日本のソウルラッシュが香港のロマンチックウォリアーを僅差で差し切るという劇的な結果となったのですが、リバティアイランドは直線伸びずに8着で終わり、再び期待を裏切る結果となってしまいました。
しかし調子は悪くないという陣営の判断もあり、1か月半という短い間隔ながら、招待を受けた香港のクイーンエリザベスⅡ世Cに出走したのです。
短い間隔で海外を転戦することになり、前走のレースぶりから調子が落ちていたのだろうから回避させるべきだったのではという意見もありました。しかし陣営としては調子落ちはないという判断をしていたのでしょうし、休み明け2走目の香港Cで復活した事例もあるので、期待をもって臨んでいたと思います。
残念ながら悲しい事故でリバティアイランドの命は失われることになりましたが、それによって誰かを責めるのは違うのではないかと思います。もっともショックを受けているのは馬主や調教師をはじめとした厩舎関係者、そして「お嬢さん」と愛情をこめて呼んでいた川田騎手です。
願わくば、今回の教訓が生かされて、少しでも同様の事故が防げるようになればと思います。
リバティアイランドの成績を振り返ってみると、3歳までは順風満帆だったものの、古馬になってからはG1での好走はあったものの、大敗もあり勝ちきれないレースが続きました。
牝馬3冠馬を見てみると、古馬になってからもG1を勝ったアパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイに対して、尻すぼみに成績が落ち結局古馬ではG1に手が届かなかったスティルインラブ、デアリングタクト、リバティアイランドと2つに分かれます(メジロラモーヌは3歳[当時4歳]で引退)。
しかし後者でもデアリングタクトは宝塚記念3着、リバティアイランドは香港C2着と牡馬相手にG1で好走があり、能力が高かったことは間違いありません。
G1を勝ったり高額賞金を得ている古馬牝馬となると、どうしても選択肢が限られ、牡馬を凌駕するような力の持ち主でないと、結果を残していけないのが現実です。そのためディアドラのように長期にわたって海外を転戦したり、リスグラシューのように海外と国内を行き来する馬も増えていくでしょう。
リバティアイランドもそんな1頭になりつつあったわけですが、その負担は国内に滞在しているよりもはるかに大きいと思います。ぜひノウハウを積み上げて、少しでも遠征の負担軽減を図れるよう関係者の工夫をお願いしたいと思います。