主役はサイレンススズカを彷彿とさせる逃げを見せたパンサラッサ!? ~天皇賞(秋)

競馬の主役が勝ち馬であることは間違いありません。その意味では、今日の主役はイクイノックスでした。
春のクラシックはどちらも2着と涙をのんだものの、皐月賞は好位から抜け出すも1馬身差差されて、またダービーは後方から追い上げるもクビ差及ばずと、どちらも負けて強しというレースぶりでした。そしてダービー以来の5か月ぶりで臨んだ天皇賞(秋)。その安定感が買われて、3歳馬でG1勝利がないものの、2.6倍の1番人気に支持されます。

スタートでやや挟まれたイクイノックスは中団外を追走しますが、直線を向いた時には大逃げを打ったパンサラッサは3秒ほど引き離して軽快に飛ばしており、かなり絶望的な状況。それでも残り450mぐらいで外に出したルメール騎手は、懸命にイクイノックスを叱咤激励して前を追います。そして残り200mを切って2番手に上がると、脚の上がったパンサラッサを猛追してゴール直前でかわし、1馬身差をつけてゴール。
春の雪辱を果たし、見事にG1馬の仲間入りをしました。

【イクイノックス】落ち着いていながら適度な気合でよい雰囲気でした
【イクイノックス】ルメール騎手も喜びを爆発させていました

しかもそれだけではなく、これで昨年のホープフルSから続いていたG1での1番人気の連敗記録を、ようやく16でストップさせることができたのです。これにはJRA関係者はじめ一同胸をなでおろしたのではないでしょうか。この不名誉な記録がいつまで続くか多くの人が心配していたでしょうから。
またグレード制導入後、3歳馬で天皇賞(秋)を制したのはイクイノックスで4頭目。しかし前の3頭【バブルガムフェロー(1996年)、シンボリクリスエス(2002年)、エフフォーリア(2021年)】はいずれも3番人気で勝ったものだったので、1番人気での勝利は初めてのこと。これも名誉なことだといえるでしょう。

さらにキタサンブラック産駒として、これが初のG1勝ち。
キタサンブラックの父ブラックタイドはディープインパクトの全兄ですが、ディープインパクト産駒が種牡馬として今一つということもあり、正直キタサンブラックは種牡馬としてどうかと思っていたのですが、菊花賞で1番人気となったガイアフォースとイクイノックスという優秀な産駒を初年度から送り出しており、良い意味で予想を裏切られたと思っています。

しかし個人的には、もう1頭の主役はパンサラッサだと思います。
レース前は、前に行きたい馬がパンサラッサの他にもバビット、ジャックドールと揃ったこともあり、ハイペースになるのは明らかだし、ただでさえ直線の長い東京コースは逃げ馬に不利ということもあって、かなり軽視されて22.8倍の7番人気。ドバイターフ(G1 芝1800m)を逃げて同着1着という実績がありながらも、低い評価となっていました。
個人的にもかろうじて連下には入れたものの、かなり懐疑的だったことは事実です。

【パンサラッサ】適度な気合乗りで素軽い歩様でした

そのパンサラッサ騎乗の吉田豊騎手はスタートから押して出ると、2コーナーで競りかけてきたノースブリッジを突き放してハナをキープ。向こう正面では、ジャックドール以下をどんどん離していきます。そして1000m通過のタイムが57.4。これが表示されたとき、東京競馬場は大きなどよめきに包まれました。
それを見て思い出したのが、1998年の天皇賞(秋)。この年に逃げたサイレンススズカが刻んだラップが、全く同じ57.4。あの時は、この先どんな結果が見られるのだろうとワクワクしたのですが、今年は大丈夫だろうかと、逆に心配になりました。

軽快に逃げるパンサラッサは、淡々と4コーナーを回って直線へ。この時点で後続は3秒以上離れており、完全な一人旅。こうなると普通の逃げ馬は直線でバタバタになって一気に減速して馬群に飲み込まれるものですが、パンサラッサは内ラチぴったりで懸命に脚を伸ばし、離れて先行していたバビットやノースブリッジが後退していく中でも、後続を寄せ付けません。残り200mでも2秒近く引き離して、これはセーフティリードかと思われましたが、最後に矢のように追いこんできたイクイノックスにゴール直前で1馬身かわされます。しかし差してきたダノンベルーガ、ジャックドールは抑えて2着をキープ。見事なレースを見せてくれました。

後続を大きく離して逃げるパンサラッサ
逃げるパンサラッサを追うイクイノックス

実は1998年の天皇賞(秋)でサイレンススズカが競走を中止した後、ずっと気になっていたことがありました。あのまま無事にレースを終えていたら、果たしてサイレンススズカは逃げ切ることができたのだろうかと。
サイレンススズカは常識を超えたスピードの持ち主だったこともあり、残念ながらその結果は想像することすらできなかったのですが、今日のパンサラッサのレースぶりが、一つのヒントになったような気がします。

1998年の天皇賞(秋)は今と馬場状態も違いますが、勝ったオフサイドトラップの上りは36.0。レースのペースが速かったにも関わらずかなり時計が掛かっています。
今日のイクイノックスの上り32.7に対してパンサラッサの上りは36.8。サイレンススズカがあのまま逃げたとして、当然上りは今日のパンサラッサよりもかかったと思いますが、前走の毎日王冠が2番目の35.1で上がったことを考えると、せいぜい1秒遅い38秒ぐらいでしょうか。それでも後続がイクイノックスより1秒遅い34秒前後で上がる可能性は低く、追いつくとは思えません。おそらく逃げ切ったのではないでしょうか。

パンサラッサのレースでとても印象に残っているのが去年の福島記念なのですが、あの時に中継を見ていて、最初の1000mのラップが57秒台と聞いた時に、ああつぶれるなと思ったのです。ところがなんと4馬身差で逃げ切ってしまいました。その時もサイレンススズカみたいだと思ったのですが、まさに今日のレースもそんな印象でした。
パンサラッサとサイレンススズカ。毛色も血統も走る姿もまったく異なる2頭ですが、ハイペースで逃げて粘るという共通点から、思いがけず24年前の疑問を思い出すことになり、思わずほろりとしてしまいました。
こういうこともまた競馬の魅力の1つではないでしょうか。

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