ゼンノロブロイの思い出

先月のタイキシャトルに続いて、同じ藤沢和厩舎に所属したゼンノロブロイが、9/2に余生を送っていた新冠の村上欽哉牧場で亡くなりました。死因はタイキシャトルと同じ老衰による心不全。
9/1に横になって眠り、9/2はそのまま起きることができず、静かに亡くなったとのこと。馬は調子が悪いと、起きられなくなることを恐れて、横になって眠りたがらないそうですが、最後は覚悟を決めたということだったのでしょうか。
最後に会ったのは3年前でしたが、その時はまだ元気で、こんなに早く逝くとは思っていませんでした。やはり馬の時間は早く流れるのだなとあらためて思います。ご冥福をお祈りします。

ゼンノロブロイといえば、やはり秋の中距離G1 3戦を全勝した2004年の活躍が印象的です。サンデーサイレンス産駒でダービー2着などG1をなかなか勝てず、善戦マンで終わるかと思っていたところでいきなりの覚醒。黄色と緑の勝負服を着たペリエ騎手とのコンビも、強く記憶に残っています。

ゼンノロブロイを初めて意識したのは、2003年の青葉賞でした。余裕の脚色で抜け出すと、1 1/4馬身差をつけて重賞初制覇。関東では負けなしということもあり、ダービーでは皐月賞組を相手に3番人気に支持されます。個人的にも3番手の評価でした。
横山典騎手を鞍上に、重馬場で遅めの流れの中2番手を追走。4コーナーは各馬とも馬場の悪い内を避けて外を回しますが、そのすきにぽっかり空いた内を突いた皐月賞馬ネオユニヴァースが後方から一気に前へ。直線は内から抜け出したネオユニヴァース、外から迫るのちの菊花賞馬ザッツザプレンティと3頭でたたき合いになりますが、ネオユニヴァースを1/2馬身とらえられず2着。じりじりとしか伸びない脚は、多少じれったい感じはありましたが、力があるところは示しました。

秋になって神戸新聞杯ではネオユニヴァースを下して1着になり、菊花賞は3冠を目指すネオユニヴァースに次ぐ2番人気となります。個人的には距離不安も感じて3番手評価まででした。
レースでは好位を追走しながら2週目3コーナーで内に入れると、包まれてポジションを下げてしまいます。直線は外に出して鋭く追いこみますが、早めに抜け出したザッツザプレンティには0.5秒届かず4着に終わりました。
しかし敗因は包まれて出られなかったことであり、逆に距離を克服したということで、私の中では評価が上がりました。

そして有馬記念では、その年の3歳馬のレベルが高かったこともあり、パドックでの様子も良かったゼンノロブロイから買ってみたのです。ところが結果は引退レースだった同厩舎のシンボリクリスエスが9馬身差の圧勝。ゼンノロブロイは伸び一息で3着に終わりました。

4歳になった2004年の春は、天皇賞(春)2着、宝塚記念4着と今一つの成績。
特に距離的に合う宝塚記念は期待したのですが、3コーナーで先頭に立つロングスパートをかけたタップダンスシチーに対して、好位から直線懸命に追うも3馬身及ばず。安定した成績ながらG1では勝ちきれず、善戦マンのキャラクターが定着しつつありました。

2004年の秋。初戦の京都大賞典はクビ差の2着に敗れ、ついに1年以上勝利なしという状況になってしまいます。
そんな中で迎えた天皇賞(秋)ですが、古馬のG1馬はマイルが得意なテレグノシス、ツルマルボーイや、長距離得意のヒシミラクル、牝馬のアドマイヤグルーヴと比較的手薄なメンバーということもあり、ゼンノロブロイは1番人気に支持されます。
パドックでも落ち着いていてトモの踏み込みも良く、個人的にも今度こそゼンノロブロイだろうと馬券の中心に据えました。

やや重でスローな流れの中、ペリエ騎手鞍上のゼンノロブロイは中団から進めます。直線は馬場中央からじりじりと長く脚を使うと、最後は早めに抜け出した同厩舎のダンスインザムードをゴール直前でとらえて先頭。1 1/4馬身差で初G1制覇を飾りました。

続くジャパンCもゼンノロブロイは1番人気に支持されます。パドックの様子も天皇賞(秋)と同じぐらい良かったので、個人的にも再度期待しました。
前走同様に中団につけると、残り200mで先頭に立ち、あとは後続を離す一方の横綱相撲。それまでの惜敗続きが嘘のような3馬身差の圧勝で、G1連勝を果たします。

そして勢いのままに挑戦した有馬記念。G1を2勝した疲れが心配されましたが、秋のG1 3走中で最も支持を集めて2.0倍の1番人気。パドックではリズミカルな歩様と適度な気合、充実した馬体で抜けてよく見え、心配ないだろうとの確信を持つことができました。

レースでは、宝塚記念に続きグランプリ連勝を狙うタップダンスシチーが逃げて、ゼンノロブロイは2番手でそれをマーク。タップダンスシチーはいつものように向こう正面で早めにスパートをかけて後続を離そうとしますが、ゼンノロブロイもついていきます。
直線に入って2馬身差を懸命に追うゼンノロブロイ。なかなかその差は詰まりませんでしたが、残り200mを切ってじりじりと外から迫ると、残り100mでタップダンスシチーをとらえて先頭。タップダンスシチーも懸命に粘りますが、1/2馬身差で見事にゼンノロブロイが勝ちきって、秋のG1 3連勝を達成。
これはテイエムオペラオーに続く史上2頭目の快挙で、これにより2004年の年度代表馬にも選ばれました。

翌2005年、ゼンノロブロイは5歳のシーズンも現役を続けますが、休み明けの宝塚記念は1 1/2馬身差の3着。続いてイギリスに遠征して出走したインターナショナルSは、勝ったと思ったところをクビ差かわされて2着。
さらに帰国して連覇を狙った天皇賞(秋)2着、ジャパンC3着と、ともに1番人気に推されて好走しながらも勝ちきれず、4歳春までのゼンノロブロイに戻ってしまったような歯がゆい成績を繰り返します。

そして最後のレースとなった有馬記念。1番人気はその年の無敗の3冠馬ディープインパクトに譲ったものの、オグリキャップのような奇跡の復活を願うファンは、ゼンノロブロイを2番人気に支持します。
レースはいつもと違って先行したハーツクライを、ディープインパクトが捉えられずに初の敗戦を喫するという衝撃的な結末で終わったのですが、一方でゼンノロブロイは中団から全く伸びずに、初めて掲示板を外す8着と惨敗。
世代交代を象徴するような結果を残して、ゼンノロブロイは静かに競馬場を去っていきました。

引退後は2006年から社台スタリオンステーションで種牡馬入りしましたが、2007年に訪れた際には残念ながら会うことはできませんでした。
その後ブリーダーズスタリオンステーションに移動し、2019年に馬産地巡りをしたときに会っています。ほかの馬たちが厩舎内にいるなか、なぜか1頭だけ放牧地にいて、うつらうつらとしていました。その後見学者が集まってくると、動じずに堂々とポーズをとって、さすがG1馬という貫録を感じさせられたことを覚えています。

2019年8月25日 ブリーダーズスタリオンステーション
2019年8月25日 ブリーダーズスタリオンステーション
2019年8月25日 ブリーダーズスタリオンステーション

種牡馬としては、初年度産駒からサンテミリオン(2010年オークス)を出して、いきなりG1制覇を果たし、さらにペルーサ(2010年青葉賞)、アニメイトバイオ(2010年ローズS)とクラシック戦線をにぎわす馬を送り込み期待されます。
しかしその後も重賞勝ち馬を生み出しますが、産駒のG1勝利は1勝のみと、残念ながら物足りない結果に終わっています。サンデーサイレンス産駒のライバルが多い中、やや地味な母系も影響したのでしょうか。

ゼンノロブロイの後、秋の古馬中長距離G1全勝を達成した馬はおらず、最近では凱旋門賞などの海外遠征が重視される傾向もあり、挑戦する馬自体が減ってきています。JRAでは達成した馬に報奨金を出していますが、有名無実と化していくのかなと、少し残念な気もします。
そんな中でも、過去に達成した偉大な馬がいたという記憶が残っていってくれればと、願わずにはおれません。

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