前哨戦選びの難しさ ~秋華賞

G1を勝つためには、前哨戦をどうするかはとても重要な選択になります。
「たたき2戦目」という言葉があるように、以前から休み明けを1回使うと、力を出せる状態になるということは、なかば常識のように言われてきましたし、個人的にもそういうものなのだろうと思ってきました。また番組的にも、G1の前にはトライアルのようなレースが組まれていますし、中には優先出走権が設定されているものもあって、JRAとしてもそういう認識なのでしょう。

しかし近年は長期休み明けでG1を使い、実際にそれで勝ってしまう例もあって、調教技術の進歩ともいえるのでしょうが、そもそもの常識とされているものを見直す必要もあるのではないかと思うのです。

そんなことを考えたのは、今年の秋華賞で1.9倍の圧倒的な1番人気に支持されたソダシが、スーパーG2とも呼ばれる札幌記念を勝って参戦してきたためでもありました。
前哨戦を使う理由は、そこを使って仕上げるということのほかに、そもそも賞金が足りないので積み上げる必要があるとか、今の実力を測るとかいろいろ目的があると思います。しかしそこで体力を消耗してしまってダメージを負ってしまうのは逆効果なので、そのあたりのさじ加減は難しいでしょう。

秋華賞の前哨戦としては、紫苑SとロースSという東西のトライアルがあり、そこを使うのが常道ですが、札幌記念を使ったのは、十分な間隔をとることができる、得意な札幌で行われる、3歳牝馬は52kgで出られる、2000mの適性を見ることができるなど、さまざまな理由があったと思います。
結果としてそこでソダシは満点の回答を出し、G1勝ちの古馬を相手に強い勝ち方を見せました。

しかし個人的には若干の不安も感じたのです。
札幌記念でソダシは先行し、3コーナーでは押し上げてきたブラストワンピースに抜かれまいとギアを上げて先頭に立ちます。直線ではそのブラストワンピースがばてて後退する中、ラブズオンリーユー、ペルシアンナイトに後方から詰められ、辛くも3/4馬身差で逃げ切って1着になります。
しかし実力ある古馬によるプレッシャーはかなりのものだったでしょうし、またそこを勝ったことで、3歳牝馬相手なら負けないだろうというファン側の評価も、実際の力以上に上がってしまったのではないでしょうか。

一方ローズSは、過去10年でここを使った馬は最多の8頭が連対するという、王道ともいえるローテーションでしたが、実は過去5年では1頭しか連対していないという事実もあります。しかも中京で行われた昨年は、ローズSからは3着以内に1頭も入っていません。今年も中京で行われており、そのあたりは気になるデータでした。
対する紫苑Sは過去5年で5頭連対と最近のトレンド。さらにオークスからの直行が3連勝中と、かなり傾向が変わってきているのは事実でしょう。

そしてレースでは、逃げたエイシンヒテンをソダシが2番手で追走。そのペースは1000mが1.01.2のスローで、ソダシにとっては絶好の遅めのペースとなります。
しかし異変を感じたのは4コーナーでした。逃げるエイシンヒテンが手綱を持ったままなのに対して、ソダシの吉田隼騎手の手が動きます。それにもかかわらず、ソダシとエイシンヒテンの差が詰まらないのです。そして直線に入ってもソダシの伸びはなく、外のアカイトリノムスメ、内のファインルージュに交わされるとずるずると後退。結局ソダシは10着に終わります。

勝ったのはオークスから直行したアカイトリノムスメ。桜花賞4着、オークス2着と惜敗続きだったのですが、最後にきっちりと勝って、それまでのうっ憤を晴らしました。
国枝厩舎はこれで4年連続秋華賞で連対というのもすごいのですが、ソダシが負けてもアカイトリノムスメが勝つという金子真人オーナーの運の強さも、称賛されるべきでしょう。

終わってみれば、オークスからの直行馬が4連勝で、紫苑Sの勝ち馬ファインルージュが2着と、最近の傾向通りの結果となりました。
前走札幌記念というと、ブエナビスタが2着から秋華賞では2位入線の3着降着、さらに古いところではサンエイサンキューが1着から前身のエリザベス女王杯で5着(間に3戦挟んでいますが)などがありますが、両方勝った馬はいません。
そもそも3歳牝馬で勝ったのは、ほかにハープスター(次走は凱旋門賞6着)しかいないので、札幌記念を勝つこと自体がすごいことではあるのですが、秋華賞の前哨戦としてはハードルが高すぎるのではないかというのが、個人的な感想です。たとえ勝ったとしても、精神的あるいは肉体的に何らかのダメージが残るのではないでしょうか。

ソダシの敗因としては、スタート地点まで行くのを嫌がるなど走る方に気持ちが向いていなかったとか、歯から出血しておりゲートにぶつけたのが原因ではとも言われていますが、前走の負担の重さも個人的には考えられるのではないかと思っています。

前哨戦に絶対的な正解はありませんが、少なくとも傾向は大事なので、今後も予想に当たっては十分に吟味する必要があるでしょう。

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