距離適性を越えた2頭の「異能」の戦い ~安田記念

今年の安田記念は、例年以上にさまざまな路線から有力馬が参戦したイメージがあり、かなりの混戦模様になりました。特に高松宮記念を圧勝したロードカナロアの取捨は、迷った人も多かったのではないでしょうか。

実際に高松宮記念が芝1200mのG1に昇格(当初は高松宮杯)してから、その勝ち馬が安田記念を制したことはありません。この10年を見ても、5頭が高松宮記念を勝って参戦し、そのうち2頭は1番人気に支持されたものの、最高着順は2007年スズカフェニックスの7着と、すべて着外に沈んでいます。
しかもロードカナロアは、1600mへの出走は3歳1月の1戦のみで、その後はほとんど1200m戦を使われています。
東京のマイルは1800m以上に実績がある馬が有利といわれるように、中距離戦でも戦えるスタミナが必要とされており、スプリンターにはつらい舞台と言えるのです。

しかし、ロードカナロアは追い切り後の岩田騎手の強気の発言や、2走前に1400mの阪急杯を58kgで圧勝した実績などから、単勝4.0倍という微妙な評価ながら、1番人気に支持されました。
レースはシルポートが早めのペースで逃げ、ヴィルシーナやカレンブラックヒルというG1馬が先行する厳しい流れを、ロードカナロアは中団外で追走。直線は外に出すと、じりじりと伸びて、残り100mで先頭に立つと、追い込んできたショウナンマイティをクビ差抑えて、4つ目でかつ初のマイルでのG1勝利をつかみました。

勝因はいろいろあげられるとは思いますが、高松宮記念の時にも書いたようにロードカナロアは世界トップクラスのスプリンターであるということが、やはり一番大きいのではないでしょうか。
日本馬が一度も勝ったことがない香港スプリントを2 1/2馬身という決定的な着差で制し、さらに58kgで帰国初戦の阪急杯を勝つと、高松宮記念もコースレコードで圧勝。過去のスプリントG1の覇者たちとは、ちょっとレベルが違う実力の持ち主だといえます。
それが2ハロン(400m)の距離延長を、難なくこなせた要因ではないでしょうか。

そして異なる路線といえば、2着のショウナンマイティも2000m前後を主戦場として戦ってきた馬で、こちらは2ハロンの距離短縮がどうかというのがテーマでした。
しかも追い込み脚質ということで、前半はスピードについていけず、最後は脚を余すのではないかという不安があったと思います。

しかし個人的には、実はあまり心配していませんでした。それは、ショウナンマイティの栗東坂路における調教時計を見たからです。1週前に一杯に追って出したのが、4ハロン50.0。最終追いきりも51.8という優秀なものでした。
中長距離に出走する馬は、G1を勝つ馬でも栗東坂路では53~54秒台が一般的です。それに対してスプリントG1に出走する馬は、速いと50秒を切ってくる馬もいます。
それを考えると、ショウナンマイティのスピードは十分にマイル戦に対応できるものだと思われたのです。

レースではショウナンマイティは出遅れ気味に出ると後方を追走。直線は外に出されると究極の上がり32.8で追い込んできて、あわや差しきるかというクビ差2着に入りました。
産経大阪杯でオルフェーヴルの1/2差まで追い込んだ脚も見事でしたが、それ以上のすばらしい追い込みをマイル戦で見せた、その柔軟性には、やはり驚かされました。

こうして本職のマイラーを抑えて、2頭の異能によるワンツーとなったわけですが、実はこれこそマイル戦の醍醐味といえるのかもしれません。短距離馬も中距離馬も参戦できるという意味では、出走馬のバリエーションが豊富になるわけで、予想は大変ですが、その分楽しみでもあります。
今後も、こんなおもしろさを味わわせてくれるような、高いレベルのマイル戦を期待したいものです。

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