性別 | 牡 | 毛色 | 鹿毛 |
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生年月日 | 2018年3月10日 | 所属 | 美浦・鹿戸雄一厩舎 |
父 | エピファネイア | 母 | ケイティーズハート(母父:ハーツクライ) |
戦績 | 11戦6勝 (6・1・0・4) |
生産者 | 北海道安平 ノーザンファーム |
馬主 | キャロットファーム | 騎手 | 横山武史 |
おもな 勝ち鞍 |
皐月賞(2021),天皇賞(秋)(2021),有馬記念(2021), 共同通信杯(2021) |
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たまに急に成績が落ち込む馬がいる。ケガや病気など原因が明確な場合もあるが、中には理由がわからないまま、なぜか走らなくなることがある。古馬になって走らなくなると、仕方なく早熟だったということで納得しようとすることもあるが、個人的には意外と精神的な面が影響しているのではという気もする。
もっとも本当のところは、馬と話ができない以上、永遠にわからないが。
そんな急に走らなくなった馬の1頭として思い浮かぶのがエフフォーリアである。
2歳(2020年)
エフフォーリアのデビュー戦は、2020年8月23日 札幌芝2000m新馬戦。横山武騎手鞍上で1.4倍の1番人気に支持される。調教で札幌記念に出走するオープン馬に先着するなど評判が高く、それが反映されたオッズだった。レースでは先行して抜け出し3/4差で人気にこたえて勝った。ちなみに横山武騎手は、その後のすべてのエフフォーリアのレースに騎乗することになる。
2戦目は東京芝1800m 百日草特別。3.5倍の2番人気となるが、中団から1番の上りで1 1/4馬身差をつけ、あっさりと連勝を決めた。
3歳(2021年)
3歳初戦はG3 共同通信杯。すでに東京は経験しているが、近年はクラシックに向けた有力なステップレースとなってきており、力関係を把握する意味もあったのかもしれない。1番人気に推されたのは、サウジアラビアRCを勝ち、朝日杯FS2着のステラヴェローチェ。出走メンバー中唯一の重賞勝ち馬であり、世代上位の力の持ち主で、実績的には1番人気にふさわしい戦績ではあるが、3戦すべてマイルを使ってきていることが気になった。
2番人気は、菊花賞当日のよく伝説の新馬戦と呼ばれることになるレースを勝ったシャフリヤール。2017年の皐月賞馬アルアインの全弟で、調教もパドックの様子も良かったが、キャリア1戦がどうかというところ。
3番人気はクイーンCを除外になって回ってきた牝馬のレフトトゥバーズで、エフフォーリアは4番人気だった。
エフフォーリアは2000mの新馬を勝っていることから距離面での不安がなく、またパドックの様子も良かったので、個人的にも注目していた。
スローで流れたレースでエフフォーリアは好位につけ、直線は馬場中央から力強く抜け出してくると、メンバー2位タイの上りで、2着ヴィクティファルスに2 1/2馬身差をつける快勝。
まずは皐月賞の有力候補に躍り出ることになったが、さらに東京実績と距離伸びて良さそうな血統から、ダービーまで期待できるのではと思わせる勝ち方だった。
次走は皐月賞に直行する。近年はこのローテーションで好走する馬が多いこともあり、ホープフルSを勝ったダノンザキッド(3.3倍)に次ぐ2番人気(3.7倍)。2頭で他の馬を引き離しており、2強という情勢だった。
エフフォーリアは中山は初めてだが、先行脚質は合うイメージもあった。調教は、併せた前の馬を抜かせず地味に見えたエフフォーリアよりも、単走でしっかり脚を伸ばしたダノンザキッドの方がよく見えたが、距離にやや不安のあるジャスタウェイ産駒のダノンザキッドよりも、エフフォーリアの方が将来性も含めて期待できるのではと考え、迷った末にエフフォーリアを上にとることにした。
それはパドックでの、のびやかな歩様で適度な気合乗りながら落ち着いて周回するエフフォーリアの姿を見て、間違っていなかったという思いに変わった。
1000m 1.00.3と遅めのペースながら、折り合って3,4番手の内を進んだエフフォーリアは、各馬が外に出す中、4コーナーで内を突いて直線に入ってすぐに先頭。後続をじりじりと離していくと、残り200mでは2馬身半ほど抜け出してセーフティリード。
最後は、横山武騎手自らの手綱で弥生賞を制し、のちに菊花賞も勝つタイトルホルダーに3馬身差をつける完勝で1冠目を制した。
無敗での皐月賞勝利は3年連続。横山武騎手も5年目にして、これがG1初制覇となった。
続く日本ダービーでは、エフフォーリアは1.7倍と圧倒的な1番人気に支持された。血統的に距離不安はなく、東京コースでは2戦2勝。皐月賞組とはほぼ勝負付けが済んだイメージで、毎日杯から直行するシャフリヤールも共同通信杯で2 1/2馬身差で破っているので、当然の評価だろう。
桜花賞2着の牝馬サトノレイナスが2番人気(5.1倍)になったように、ほかに有力な牡馬がいない状況で、早くも2年連続無敗の3冠馬を期待する声もあったほどだった。
調教も皐月賞よりも良く見え、パドックでも落ち着いてゆったりとリズミカルにクビを使って歩き、トモの踏み込み深く力強かったので、個人的にも中心に考えた。
1番枠から好スタートを切ったエフフォーリアは、やや掛かるそぶりを見せながらも抑えて3,4番手を追走。しかし向こう正面では包まれ気味にポジションを下げていく。4コーナーは中団の最内で回り、直線は外目に持ち出すと力強く伸びて残り300mで早くも先頭。そこからも先頭をキープするが、後方から伸びてきたシャフリヤールが徐々に迫る。TVに向かって懸命に声援を送るが、2頭が並んだところがゴール。写真判定の結果、ハナ差でシャフリヤールが1着となった。
結果として東京の長い直線を考えた時に、追い出しが早かったということはあるだろう。22歳の横山武騎手が戦後最年少のダービージョッキーになれるかが話題になったが、シャフリヤールの福永騎手(日本ダービー3勝目)とのキャリアと精神的な余裕の差が、最後のハナ差になったのかもしれない。
しかしゴールの直前も直後もエフフォーリアの方が前に出ていたので、あの負けは力負けというよりも運だったと思う。のちのインタビューで横山武騎手は、この日本ダービーのVTRは見られていないと語っていたが、やはりその悔しさはとてつもなく大きなものだったと思う。
夏を休養に充てたエフフォーリアの秋初戦は、古馬相手の天皇賞(秋)となった。距離適性や将来を考えて、菊花賞ではなくこちらを選んだのだろう。
この年の天皇賞(秋)は3強対決と言われ、前年の無敗の牡馬3冠馬だがその後2連敗中のコントレイルと、古馬マイルG1を強い勝ち方で全部制覇した上にスプリンターズSも勝ち、距離を伸ばしてきたグランアレグリア、そしてエフフォーリアの決戦という構図だった。
予想に際しては、無敗の3冠達成などの実績を評価して、本命は4歳馬のコントレイルにしたのだが、逆転があるとすれば3歳馬のエフフォーリアだろうと思っていた。その根拠の1つは、この年の3歳世代の強さだった。スプリンターズSをピクシーナイトが勝ったほか、毎日王冠や富士Sも3歳馬が制して、例年以上の実績を残していたのである。その中でクラシック組を代表する1頭には注目せざるを得なかった。
エフフォーリア 2021年10月31日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場
やや掛かり気味に好位を追走するエフフォーリアに対して、グランアレグリアは先行し、コントレイルは中団という隊列になった。4コーナーで外に出したエフフォーリアは、残り400mで先頭に立ったグランアレグリアを目指して追い出す。その後ろから差してきたコントレイルと、残り200mでは3頭で抜け出す。残り100m手前でエフフォーリアはグランアレグリアを交わして先頭に立つと、外から迫るコントレイルを1馬身差で抑えて先頭でゴールを駆け抜けた。
大きく右手を突き上げる横山武騎手には、日本ダービーの悔しさを少しだけでも晴らしたという感慨もあったのだろう。ウイニングランでも喜びを爆発させていた。
エフフォーリア 2021年10月31日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場
3歳馬による天皇賞(秋)勝利は、3歳馬が出走できるようになった1987年以降、バブルガムフェロー(1996年)、シンボリクリスエス(2002年)に続く3頭目で、19年ぶりとなる快挙。また横山武騎手は祖父横山富雄元騎手、父横山典弘騎手に続く天皇賞3代制覇。本人もインタビューで目標にしていたと言っていたので、うれしさに輪をかけたのではないだろうか。
次走はファン投票で史上最高の26万票を超える得票で1位となり有馬記念に出走する。当日も2.1倍の1番人気だったが、差のない2.9倍の2番人気になったのが、前年の有馬記念を含むグランプリ3連勝中のクロノジェネシス。3番人気のステラヴェローチェは7.9倍とやや離れたオッズで、2強という扱いだった。
エフフォーリアとクロノジェネシスは甲乙つけがたい実績だったが、エフフォーリアの方が人気になったのは、この年の3歳馬の活躍も後押ししたのかもしれない。秋のG1はスプリンターズSと天皇賞(秋)を3歳馬が制し、その後も芝G1ではすべてのレースで3歳馬が3着以内に1頭は入るという快挙。そのせいか有馬記念では上位4番人気の中で3頭を3歳馬が占めるという状況だった。
快速馬パンサラッサが逃げ、菊花賞を逃げ切ったタイトルホルダーが2番手につけたことで1000m59.5と早めの流れとなる中、エフフォーリアは中団を追走。3コーナー過ぎから外を回ってあがっていくと、4,5番手につけて直線へ。そこから外目をぐんぐん伸びると、残り200mで前を捉えて先頭。内のディープボンドと馬体を合わせてたたきあいになるが、最後まで抜かせず、3/4馬身差をつけて先頭でゴール。人気に応えてG1連勝を飾った。
これでエフフォーリアはこの年、G1 3勝を含む5戦4勝2着1回の好成績。JRA賞の年度代表馬と最優秀3歳牡馬の称号を得た。
4歳(2022年)
前年末でコントレイル、クロノジェネシス、ラヴズオンリーユーなどの実績馬が引退したことで、4歳世代、中でも大将格のエフフォーリアにかかる期待は大きかった。この年の初戦は大阪杯となったが、初の関西遠征かつG1昇格後は関東馬の連対がないという状況にもかかわらず、1.5倍と圧倒的な1番人気となった。個人的にもエフフォーリアの勝ちはかなり固いだろうと思っていた。
前走の金鯱賞をレコードで逃げ切ったジャックドール(3.7倍 2番人気)の存在があるので、その逃げ切りを防ぐために、エフフォーリアは好位につけるだろうと思っていた。しかし横山武騎手はスタート後に下げて中団を進む。3コーナーすぎから激しく手を動かして促すが、どんどんポジションを下げていき、4コーナーを回った時は後方の外。そこからもほとんど伸びを見せず、デビュー以来初めて連対を外して0.7秒差9着と大敗。
そのまったくエフフォーリアらしさの見えないレースぶりは、驚きを通り越してショックですらあった。
鹿戸師からは、敗因としてゲート内で突進をして顔が腫れる様な怪我があったためとの説明があったが、それだけでそこまで負けるのかという疑問も感じた。
次走は宝塚記念に出走する。大敗した大阪杯と同じ阪神競馬場ということで、相性面での心配はあった。また1週前追いきりでは不調が伝えられたこともあり、予想オッズでは1番人気を譲るのではとも思われたが、最終追いきりでブリンカーをつけて気迫あふれる動きを見せたこともあって人気も復活。オッズはやや下がって3.3倍ながらも1番人気となった。
しかし道中は中団後方を追走すると、4コーナー手前から横山武騎手の手が激しく動くものの伸び一息。それでも最後は伸びてきて、5着とはハナ差で、勝ったタイトルホルダーとは0.9秒差の6着に入った。大阪杯ほどの負け方ではないものの、前年の活躍を考えると、まだまだ本調子とは言えない状況。しかし復活の兆しは見せたため、秋以降の復活が期待された。
その後じっくりと間隔をあけて立て直しを図り、復帰戦となったのは連覇を狙う有馬記念だった。しかし人気を分け合ったのは、前年のエフフォーリアに続いて3歳で天皇賞(秋)を勝ったイクイノックス(1番人気 2.3倍)と、春は天皇賞(春)と宝塚記念を勝ち、凱旋門賞は大敗したものの現役最強古馬と目されたタイトルホルダー(2番人気 3.6倍)。エフフォーリアは生涯最低の5番人気(10.1倍)という評価にとどまった。前年の年度代表馬も、この年2戦未勝利では仕方ないだろう。
それでも一縷の望みをかけてエフフォーリアの馬券を買ってみた。好スタートから好位の外につけ、4コーナーでは2,3番手まで上がるも、外から並んできたイクイノックスとの手応えの差は明らか。直線は次々と後続にかわされるが、なんとか粘って5馬身差5着と掲示板は確保した。
この時点でのイクイノックスとの力の差は大きい印象だったが、前2走よりは見せ場は作っており、復活への期待を抱かせる内容ではあった。
5歳(2023年)
この年も現役を続行したエフフォーリアは、自身初となるG2の京都記念に出走した。凱旋門賞で大敗して以来のドウデュースが1番人気で、エフフォーリアは差のない2番人気と復活を期待するファンは多かった。横山武騎手はエフフォーリアを促して前に行くと、道中は2番手を折り合って追走。良い手ごたえを見せていたが、3コーナー過ぎから後退し始めると直線に入って手応えを無くして最後方まで下がる。そしてゴール手前で競走を中止した。
診断の結果は心房細動ということで、馬体に故障などはなかったものの、関係者で協議した結果、引退と種牡馬入りが発表された。
競走馬としての総括および種牡馬として
エフフォーリアの2,3歳時の成績は、7戦6勝2着1回でG1を3勝とすばらしいものだった。特に天皇賞(秋)を3歳馬としては初めて1番人気で制した後、有馬記念も勝利と古馬G1を連勝。これは史上初の快挙であった(シンボリクリスエスは3歳時に天皇賞(秋)を勝った後、ジャパンC3着を挟んで有馬記念優勝)。しかしこうなると、日本ダービーのハナ差2着がなんとも悔やまれる。もし勝っていれば、無敗での変則3冠を達成しただけでなく、シンボリルドルフもディープインパクトもコントレイルも負けてしまった3冠達成後のG1を勝ったことで、3歳時の実績では3頭を上回ることになっていたのである。もっとも無敗の2冠馬になっていたら、秋は菊花賞に出ていたかもしれないが。
しかし4歳になってのいきなりの不振は、なんとも不可解であった。
そこで出てきたのが、エピファネイア産駒の成長力への疑問、いわゆる早熟説だった。エピファネイアの代表産駒はほかに2020年の3冠牝馬デアリングタクトや、同じく2020年の菊花賞でコントレイルを最後まで苦しめたアリストテレス、2021年の阪神JFを勝ったサークルオブライフなどが思い浮かぶが、どの馬も古馬になってからは活躍できていなかった。そのためそのような説がまことしやかにささやかれたのだ。
しかしその後、テンハッピーローズ(2024年 ヴィクトリアM)、ブローザホーン(2024年 宝塚記念)などが古馬G1を制したことでやや説得力を失っている。
とはいえ、3歳時から古馬になっても一線級で活躍し続ける産駒がいないのも事実で、ステレンボッシュやダノンデサイルの活躍ぶりが注目される。
ただディープインパクト産駒も、コントレイルやシャフリヤールなどの晩年の産駒が活躍するまでは、古馬になってから走らなくなる馬が、特に牡馬に多かった印象がある(マカヒキ、ワグネリアン、サトノダイヤモンドなど)。偉大な種牡馬でも若いころの産駒はそういうことがあるのかもしれない。
エフフォーリアは2023年から社台スタリオンステーションで種牡馬入りした。初年度の種付け料は300万円(2年目は400万円)と、イクイノックスや父エピファネイアとは大きな差がついている。しかしその分、種付け頭数は多く、人気種牡馬の一角を占めている。
初年度産駒は2026年にデビューする予定であり、ぜひ父を上回るような活躍を期待したい。