コントレイル

性別 毛色 青鹿毛
生年月日 2017年4月1日 所属 栗東・矢作芳人厩舎
ディープインパクト ロードクロサイト (母父:アンブライドルズソング)
戦績 11戦8勝
(8・2・1・0)
生産者 北海道新冠 ノースヒルズ
馬主 前田晋二 騎手 福永祐一、R.ムーア
おもな
勝ち鞍
ホープフルS(2019),皐月賞(2020),日本ダービー(2020),菊花賞(2020),
ジャパンC(2021),神戸新聞杯(2020),東スポ杯2歳S(2019)

 コントレイル無敗3冠(週刊Gallop臨時増刊)

    競走馬の究極の理想は無敗だろう。
    スピードとその持続、瞬発力、精神力など強い馬を作り上げる要素はいろいろあるが、もし絶対的な能力を持つ馬がいたとしても、セパレートでないコースを走る競馬ではさまざまな不利が起こる可能性があるし、調子の好不調もある。おもに騎手の心理面で左右される展開なども重要であり、すべてが揃わないと勝てないのが競馬である以上、無敗というのは理想ではあるが、続けるのはとてつもなく難しい。

    世界には、少し前に話題になったオーストラリアのブラックキャビア(2009年から2012年に25戦25勝)などのとんでもない馬もいるが、日本の中央競馬では戦中のクリフジの11戦11勝(1943年~44年)が最高。
    戦後はトキノミノル(10戦10勝)、マルゼンスキー(8戦8勝)、さらに近年ではアグネスタキオン、フジキセキ(ともに4戦4勝)などもいるが、4頭はいずれも現3歳で死亡あるいは引退しており、古馬になっても生涯無敗を続けた馬はクリフジのみである。

    そんな中で、デビュー以来無敗を続ける馬というのは、とても魅力を感じる。その双璧は、シンボリルドルフとディープインパクトだろう。いずれもデビューから無敗を継続し、ついにそのまま3冠を制した。
    その時点でシンボリルドルフは8戦8勝、ディープインパクトは7戦7勝。ともに称賛されるべき成績であり、同世代では能力が抜けていたからこそ達成できた記録であった。

    そしてその2頭に続いたのがコントレイルだった。
    2017年世代がデビューし始めた2019年の7月にディープインパクトは死亡しており、この時点で産駒は残り4世代となることが決まっていた。偉大な種牡馬は、晩年の世代から大物を出すことがあり、どんな産駒が現れるか、例年以上の期待が集まっていた。

    2歳(2019年)

    コントレイルのデビューは、2019年9月15日の阪神芝1800m新馬戦。福永騎手騎乗で1.7倍の1番人気に支持され、2 1/2馬身差で初勝利をあげる。

    次走はダービーを意識して、東スポ杯2歳Sに出走。ムーア騎手騎乗で2.5倍の1番人気となるが、中団から抜け出して5馬身差のレコードでの圧勝。これでクラシック候補として大いに注目されることになった。

    そして暮れのG1ホープフルSに向かう。
    前走の5馬身差のレコードという派手な勝ち方を評価され、2.0倍の1番人気。しかし同じく2戦2勝でアイビーSを3馬身差で勝ってきたワーケアも3.7倍と差が少なく、2強のイメージだった。
    再び福永騎手に手が戻ったコントレイルは、2度目の関東ということもありパドックでも落ち着いて集中して歩き、トモの踏み込みも深く、とても良く見えた。

    のちに海外でG1を勝つことになる同厩舎のパンサラッサが、この日は12番人気だったが、ハナを切ると1000mを1.00.9と楽なペースで引っ張る。それをやや掛かり気味に好位で追走したコントレイルは、直線に入って2番手から残り250mすぎにあっさりと先頭。あとは後続を引き離す一方で、途中で福永騎手が1発だけムチを入れるが、最後は流す余裕でヴェルトライゼンデに1 1/2馬身差をつけて1着。
    あっさりと3連勝で無敗のG1馬となった。

    ところがこの年は、無敗で2歳G1を勝った牡馬がもう1頭いた。それがハーツクライ産駒のサリオスだった。
    サリオスは6月に東京マイルの新馬を勝つと、休み明けのサウジアラビアRCをレコードタイムで圧勝。1番人気の朝日杯FSも2 1/2馬身差で勝って3戦3勝。
    コントレイルとは違ってすべてマイル戦での勝利だったが、2戦目のG3をレコードタイムで勝って、そのままG1も優勝と、全く同じ戦歴で甲乙つけがたい成績。
    最優秀2歳牡馬の記者投票は予想外の大差でコントレイルに軍配が上がったが、この2頭の対戦はクラシック前から注目の的だった。

    3歳(2020年)

    2頭ともに前哨戦を使わず、暮れのG1から直行するというローテーションになったこともあり、無敗のG1馬対決で2020年の皐月賞は大いに盛り上がるはずだった。ところが、この年の1月ごろから始まった新型コロナウイルスの流行が、競馬界にも影を落とす。
    フェブラリーSの日を最後に、以後は無観客での開催となった中央競馬は、春のクラシックシーズンを迎えても、観客がいない静かな競馬場でレースが行われることになった。

    当初は2強の争いと思われていたが、サトノフラッグが弥生賞を強い勝ち方で制し、さらに皐月賞では過去10年1800m以上に勝ちのない馬は連対していないというデータもあり、コントレイルが1番人気で、2番人気サトノフラッグ、3番人気サリオスという評価になった。

    当日は晴れたものの、前日の激しい雨で馬場はやや重。1000m59.8の流れを、レーン騎手鞍上のサリオスはやや掛かり気味に好位で追走する。対する福永騎手鞍上のコントレイルは12,13番手とかなり後方から進めるが、3コーナーから進出すると4コーナーでは外から先行集団に並びかける。
    直線は内から先に前に出たサリオスに外からコントレイルが並びかけ、残り200mを過ぎると2頭で抜け出してマッチレースに。壮絶な叩き合いになるが、終始外のコントレイルがアタマ差前に出て有利な体勢。ゴール直前でコントレイルがさらに伸びると、サリオスに1/2馬身差をつけて先頭でゴールを駆け抜けた。3着のガロアクリークはサリオスから3 1/2馬身と大きな差がついた。

    これでコントレイルは前年のサートゥルナーリアに続いて、平成以降では5頭目の無敗の皐月賞馬となった。次の関心は無敗のダービー馬誕生なるかということになったが、皐月賞ではサリオス以外には決定的な差をつけており、そのサリオスが距離経験の面で疑問ということもあり、無敗での2冠の可能性はかなり高いのではと思われた。

    残念ながら引き続き無観客で行われることになった2020年の日本ダービー。コントレイルは1.4倍の1番人気で、サリオスは4.4倍の2番人気。単勝1桁はこの2頭だけという2強対決となった。
    皐月賞での2頭の評価は、コントレイルが後方から大外を回して距離ロスがあったので、着差以上の強さを見せたという見方があったのに対して、サリオスは馬場の悪い内を通り、直線で手前を変えず伸びを欠きながら1/2馬身差なら、得意の東京で逆転も可能ではという見方もあった。

    レースでは、好スタートのコントレイルが3番手につけたのに対して、サリオスは中団の外と皐月賞とは逆の位置関係となる。コントレイルは5,6番手で直線に入るが、懸命に追う周りの馬に対して、福永騎手の手綱は動かず追い出しを我慢。そこに外からサリオスが近づいてくる。しかしコントレイルは、残り200m手前で追い出されると一気に加速。先頭に立つとサリオスとの差を広げていく。サリオスもよく伸びたが、最後はコントレイルが3馬身という決定的な差をつけて、見事に父ディープインパクト以来の無敗の2冠馬となった。
    ディープインパクト産駒としてクラシック2冠は初。最後の伸び脚も父を彷彿とさせるもので、正統な後継者であることを、自ら証明したように見えた。

    そしてこの結果、当然のように史上3頭目となる無敗の3冠への期待が大きくなっていった。矢作師もダービー後早々に3冠を目指すと表明する。近年は距離適性を考慮して、秋は菊花賞ではなく、天皇賞(秋)やジャパンCを目指すダービー馬も多い中、その選択はファンを大いに喜ばせた。
    特にこの年は、牝馬も無敗の2冠馬デアリングタクトが誕生しており、史上初めて牡牝で無敗の3冠馬が誕生するのではと、秋に向けての盛り上がりはすごかった。

    無事に夏を過ごしたコントレイルの秋初戦は神戸新聞杯。18頭立てながら1.1倍の圧倒的な人気となり、それにこたえて2馬身差の圧勝。いよいよ無敗の3冠に向けて菊花賞に臨む。
    新型コロナウイルスは相変わらず流行を繰り返していたが、10月からは人数は限られたものの、指定席購入者の現地観戦が可能となった。声出しは制限されたが、久々の有観客での競馬開催は、関係者にとってもファンにとっても、競馬の良さを改めて実感させられるものだった。

    夏の上り馬としては、ラジオNIKKEI賞とセントライト記念を逃げて連勝したバビット、春は若駒S、すみれSいずれも2着と涙をのんだものの、夏に1勝C、2勝Cと連勝で臨むアリストテレスなどがいたが、ほかは春の上位馬が多く、ほぼ勝負づけが終わった馬ばかり。1.1倍の圧倒的な1番人気は当然だった。

    コントレイルが万が一負けるとしたら、距離適性の差が最も可能性があると思っていた。母系はスピード色が強く、矢作師も本質はマイラーと言っていたように、決して距離が伸びてよいタイプではない。ダービーは能力の違いで楽勝したものの、3000mという未知の距離では足元をすくわれる可能性もゼロではない。その場合血統的にはヴェルトライゼンデ、ヴァルコスやアリストテレスあたりが候補になると思われた。
    そしてその予感は現実になり、コントレイルは思わぬ苦戦を強いられることになる。

    好スタートを切ったコントレイルは中団内につける。最初は折り合いに問題なかったが、1周目の4コーナーを回って直線に入ると、福永騎手が懸命に抑えて馬の後ろで折り合わせようとしているように見えた。
    そのコントレイルの外にぴったりつけていたのが、ルメール騎手騎乗のアリストテレス。当然ルメール騎手はそのコントレイルの様子を冷静に見ていたのだろう。まるで影のように半馬身ほど後ろの外をついて行く。

    福永騎手がレース後のインタビューで、プレッシャーを掛けられて馬がエキサイトしたと言っていたが、それはおそらくアリストテレスのことだろう。コントレイルに勝つための数少ない方法の一つとして、ルメール騎手がコントレイルに折り合いを失わせるような乗り方をしたのだとすれば、勝負に徹するということで、ある意味プロフェッショナルらしいシビアな戦い方だとも思う。

    スローで流れたこともあり、向こう正面でも福永騎手はコントレイルを抑えっぱなし。2周目4コーナーを回って直線に入り中央に持ち出すと、いったん離したアリストテレスがまた外からぴったりと馬体を合わせくる。そのまま合わせ馬のようになり、残り300mで内の馬を交わして2頭で先頭。
    ここからいつものように引き離して独走状態に入るかと思ったのだが、アリストテレスもしぶとく、残り200mで2頭はほぼ並ぶ。そこからコントレイルが再び半馬身ほど前に出るが、アリストテレスも懸命に食い下がり、そのまま100m以上びっしりと叩き合いが続く。最後はコントレイルがアリストテレスをクビ差抑えて1着でゴールに飛び込んだ。

    ゴール後も、福永騎手はガッツポーズをするわけでもなく、ただ淡々と馬を止める。叩き合いをしたルメール騎手から祝福で背中をたたかれても、反応する余裕もない様子。2000m以上も馬を抑え続けた体力的な疲労もあり、まさに精根尽き果たしたのだろう。またダービー以降にかかった精神的なプレッシャーたるや、我々の想像をはるかに超えるものだったと思うと、それに耐えた陣営と福永騎手の苦労がしのばれた。
    それらを克服して手にした無敗の3冠馬の称号は歴史的な素晴らしいものだったが、それゆえにその称号に恥じない成績を残していかなければいけないという、新たなプレッシャーとの戦いが始まることになる。

    秋2戦目となった菊花賞で、かなり消耗の度合いが高かったこともあり、その後は間をあけるのではと思われたが、陣営はジャパンCへの出走を決断する。
    そのジャパンCは、天皇賞(秋)でG1 8勝を達成したアーモンドアイの引退レースであり、前週に無敗の牝馬3冠を達成したデアリングタクトも参戦を表明。現役最強馬を決める戦いが見たいというファンからの期待も高く、コロナ禍で沈んだ競馬界を盛り上げたいという陣営の思いも強かったのだろう。

    2020年を代表する3頭の、最初で最後の戦いの場となったジャパンC。1番人気はアーモンドアイで2.2倍。コントレイルが2.8倍で続き、デアリングタクトが3.7倍。4番人気のグローリーヴェイズが17.2倍で、8番人気以降は3桁と、オッズ上も3頭のマッチレースという感が強かった。
    デビュー以来初で、生涯唯一の2番人気となったレースで、コントレイルは2頭を前に見る中団を追走。直線は外に出して、前を行くアーモンドアイを懸命に追う。メンバー1の34.3の末脚を繰り出すが、アーモンドアイに1 1/4馬身差2着と、初の敗戦を喫する。
    3着となったデアリングタクトともども、先輩3冠馬にはかなわなかったが、その偉業を受け継いでいくということを象徴するようなレース結果は、多くのファンや関係者の心に残るものだった。
    またシンボリルドルフ、ディープインパクトはともに3冠達成後の初戦で敗れているが、コントレイルも同じ道をたどることとなり、無敗3冠の厳しさを改めて実感させられた。

    4歳(2021年)

    秋の激戦の日々をいやすための休養を取ったコントレイルは、2021年の大阪杯から始動する。
    クラシックで好勝負を繰り広げながら、秋はマイル路線を歩んだサリオスとの再戦も注目されたが、何といっても話題はマイル以下で圧倒的な強さを見せながら、路線を変えて2000mに挑戦してきたグランアレグリアとの対戦だった。
    しかし距離経験の差はいかんともしがたく、コントレイルは1.8倍の圧倒的1番人気に支持される。前年のジャパンCで初黒星を喫しても、ファンの支持は変わらなかった。オッズ上は3頭が1桁の支持を受けて3強となったが、実質的には1強だった。

    ところが雨で重馬場となった影響は予想以上に大きかった。
    ここまでデビューから負けなしの5連勝で来た4歳牝馬のレイパパレ。秋華賞は抽選で除外となったが、出られていればデアリングタクトの無敗3冠を阻止できたのではと言われた素質馬だったが、前走チャレンジCでG3を勝っただけの身だった。
    やや離れた4番人気という評価だったが、重馬場も味方にスイスイと逃げる。4コーナーでは3強に迫られるが、直線に入って突き放すと、重馬場に苦しむ人気馬をしり目に4馬身差の圧勝。逃げながらメンバー1位タイの上りを見せる強い勝ち方だった。
    2着にも重馬場得意のモズベッロが最後に上り、コントレイルは初めて連対を外す3着。後方から向こう正面で進出開始し長く脚を使ったが、最後は脚が上がってしまった。

    その後、宝塚記念に向けて調整していたが、大阪杯の疲れが抜けないということで回避。ぶっつけで天皇賞(秋)に向かうことになる。その後のジャパンCが引退レースとなることも発表された。
    過去の無敗の3冠馬シンボリルドルフ、ディープインパクトは、古馬になってもG1勝ちを重ねて、最終的にはG1 7勝という記録を達成している。それに対してコントレイルはここまで2連敗を喫しており、無敗の3冠馬としては、残り2戦は何としても勝つことが求められた。

    天皇賞(秋)では、再び2000mのG1制覇を目指して出走してきたグランアレグリアの他に、その年の皐月賞を無敗で制しながら、ダービーはハナ差で敗れた3歳代表のエフフォーリアとの対戦が注目された。
    コントレイルは2.5倍の1番人気となったが、春はヴィクトリアMを勝ち安田記念2着と好走してきたグランアレグリアが2.8倍の2番人気。さらにエフフォーリアが3.4倍の3番人気で、4番人気以下は大きく離れて、3強の争いとなった。

    3頭とも春からの休み明けだったが、休養期間はコントレイルが一番長く、その影響か行きたがるのを福永騎手が懸命に抑えて中団を追走。マイルを使ってきたグランアレグリアが先行し、エフフォーリアはコントレイルのすぐ前という順で進む。
    残り400mでグランアレグリアが先頭に立つと、追い出したエフフォーリアが外から徐々に迫り、さらに後方からコントレイルも差を詰める。残り200mで3頭が抜け出し3強の争いが明確に。
    その3頭の争いから抜け出したのはエフフォーリア。グランアレグリアを外から交わして先頭に立つと、外から迫るコントレイルを寄せ付けず先頭でゴール。2着コントレイルとは1馬身差だったが、差が詰まる感じはなく、着差以上の完勝だった。

    コントレイル

    コントレイル
    コントレイル(ゼッケン1番) 2021年10月31日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場

    コントレイルは力を出しきっての2着で、相手が悪かったという印象だったが、3冠達成後は勝てずにこれで3連敗。次走が現役最後のジャパンCで、まさに後がないという状況に追い込まれた。さらにジャパンC後にそのまま東京競馬場で引退式を行うことが決まる。
    矢作調教師からは、かなり自信があるようなコメントも出ていた。自らや陣営を鼓舞する意図もあったのかもしれないが、その分重圧もより一層強まっただろう。
    それは福永騎手も同じだったと思う。コントレイルにデビューから乗って、我々からは想像もできないようなプレッシャーの中で無敗の3冠を成し遂げ、このまま終われないという気持ちは、とてつもなく大きかったのではないだろうか。

    ジャパンCにはエフフォーリアの名前はなく、3歳代表としては、そのエフフォーリアをダービーでハナ差下したシャフリヤールが出走してきた。ほかに目につくのはアルゼンチン共和国杯で強い勝ち方をしたオーソリティぐらいで、かなり戦いやすいメンバーという印象だった。

    コントレイルは、天皇賞(秋)でやや失敗した課題のスタートを難なくこなし、絶好の出足を見せる。そのまま外の各馬を前に行かせると、中団を折り合って進む。
    3コーナー過ぎから外目に誘導し、直線に入ると外から進出開始。残り300mで先団に取り付くと残り200m過ぎに前を行くオーソリティをとらえて先頭。そのまま一気に突き放し、最後は2馬身差をつける強い勝ち方で、見事に自らの花道を勝利で飾った。
    ここまで3連敗となかなか勝てなかったうっ憤を、ようやく晴らしたのだった。

    鞍上の福永騎手も、喜びと安堵と、これが最後という悲しみと、いろいろな感情が押し寄せたのだろう。馬を止めた後は、天を仰いで涙をぬぐうしぐさを繰り返していた。
    皐月賞、ダービーは無観客で実施され、3冠を達成した菊花賞こそ観客が入ったものの、ごく限られた人数しか現地で見ることはできなかった。それを思えば、ジャパンCも制限されていたとはいえ、それよりもかなり多くの観客が入っており、その前で強いレースを見せられたという満足感と感謝の気持ちもあったのだろう。
    そのためか、戻ってきたスタンド前では、ヘルメットを取って助手とともにスタンドに向かって頭を下げていた。コントレイル自身も頭を下げているように見えて、感動的なシーンだった。

    コントレイル

    コントレイル

    コントレイル
    コントレイル 2021年11月28日 ジャパンC出走時 東京競馬場

    そして日が落ちて、夕方5時過ぎからパドックで引退式が行われた。
    初めてまたがったという矢作調教師を背にコントレイルが入場すると、寒い中たくさん残っていた観客から、一斉にシャッターの音が響く。その後は、コントレイルがライトに照らされて周回する中、デビューからジャパンCまでのコントレイルの軌跡を紹介するビデオが流され、関係者のインタビューと続いた。
    その中で、矢作調教師は感極まって最初は言葉が出ず、喜びと悔しさと大きなプレッシャーと、この2年間味わったであろうさまざまな感情や経験の大きさや重さを、あらためて感じさせられた。無敗の3冠馬を管理するという歓喜と重圧は、常人にはとても理解できないものだっただろう。
    福永騎手は、コントレイルは誰がやっても無敗の3冠馬になれるというような馬ではなく、生産牧場と厩舎と騎手のきちんとした技術と信頼と連携の賜物だと言っていた。馬の才能を引き出す人々の努力と経験・技術があって、初めて完成された馬だということが、あらためて実感させられる言葉だった。

    コントレイル
    コントレイル 2021年11月28日 引退式 東京競馬場

    種牡馬として

    引退後は社台スタリオンステーションで種牡馬入り。種付け料は1,200万円と初年度としては当時の最高額で、期待の大きさが現れていた。
    初年度産駒は2023年生まれで、2025年夏からデビューする。中でもセレクトセールでノースヒルズによって5億2000万円で落札された「コンヴィクション2の23」は、コントレイルの主戦騎手で調教師に転身した福永祐一厩舎に所属することになり、大きな話題となった。

    果たしてコントレイルは祖父、父に続くような大種牡馬になり、親子3代無敗の3冠馬を輩出するような活躍を見せることができるだろうか。これから真価が問われることになる。まずは健康で、種牡馬として末永く活躍してほしい。