| 性別 | 牡 | 毛色 | 鹿毛 |
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| 生年月日 | 2017年3月1日 | 所属 | 栗東・矢作芳人厩舎 |
| 父 | ロードカナロア | 母 | ミスペンバリー (母父:モンジュー) |
| 戦績 | 27戦7勝 (7・6・0・14) |
生産者 | 新ひだか町 木村秀則 |
| 馬主 | 広尾レース | 騎手 | 坂井瑠星、池添謙一、松山弘平、三浦皇成、 藤岡佑介、戸崎圭太、菱田裕二、吉田豊 |
| おもな 勝ち鞍 |
ドバイターフ(2022),サウジC(2023),中山記念(2022), 福島記念(2021) |
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- 卓越したスピードとそれを持続させるスタミナを持った馬なら、逃げという戦法が最も勝利への近道と言えるのかもしれない。逃げれば不利を受けることもないし、ペースもコース取りも自ら決めることができるのだから。
しかし実績ある逃げ馬には周囲からのプレッシャーが厳しくなり、楽に逃げさせてはくれないので、現実はペースに応じて対応できる好位抜け出しが、最も望ましい戦法とされる。
そのため強い逃げ馬というのはなかなか現れないのだが、まれにそういう馬がいると、特にその精神的な大変さが想像できるがゆえに惹かれてしまう。
その代表はサイレンススズカだろう。1998年の天皇賞(秋)で最初の1000mを57.4で通過した時は、どんな結果になるのか期待に胸が膨らんだが、残念ながらその結末を見ることはできなかった。
しかしその24年後に同じラップで逃げる馬が現れたのである。それがパンサラッサだった。ある意味サイレンススズカの夢を引き継いだ存在ともいえるだろう。
逃げ馬の宿命として、好走するか大敗するかのどちらかということになりやすいが、そんな中でパンサラッサが海外でも実績を残すことができたのは、体力はもちろん精神面での強さも持ち合わせたゆえではないだろうか。
2歳(2019年)
栗東の名門矢作芳人厩舎からデビューしたパンサラッサだが、勝ち上がったのはデビュー3戦目の2019年10月12日の京都芝2000m未勝利戦。このころはまだ逃げではなく先行しており、不良を利して2着馬に2.5秒の大差をつけて勝ちあがった。続く1勝Cは6着に敗れるが、暮れのG1ホープフルSに登録する。幸いフルゲートに満たない13頭立てになったこともあり出走は可能になったが、173.4倍の12番人気と全くの人気薄。
このレースで2.0倍の1番人気になったのは、同厩舎のコントレイルだった。前走の東スポ杯2歳Sを5馬身差で圧勝して2戦2勝で臨んでおり、この時点では雲の上のような存在だった。
レースではパンサラッサは好スタートを切ったこともあり、坂井騎手が初めて逃げの手に出る。1000m1.00.9と絶妙なペースを刻み、3コーナーから後続を離して逃げ込みを図るが、直線に入ってコントレイルに交わされると手ごたえが悪くなり、後続にも次々と抜かれて1.3秒差6着に敗れた。
3歳(2020年)
3歳になってクラシックを目指すが、若駒S4着、弥生賞ディープインパクト記念9着と挑戦権を得ることはできなかった。6月に阪神芝2000m1勝Cで逃げて2勝目をあげると、次走は夏のG3ラジオNIKKEI賞に出走。逃げたバビットには5馬身差で逃げ切られたが、2番手から2着に粘り賞金加算に成功する。
しかし菊花賞トライアルの神戸新聞杯は逃げて12着と大敗。
さらに芝2000mのリステッド2戦は逃げ・先行で2着、4着と連敗を喫すると、目先を変えるためか年末にはダートに挑戦。1番人気になるが、先行していったん先頭も11着と大敗。
パンサラッサの3歳シーズンは、適した条件と脚質を探りながら、やや迷走した感じで終わった。
4歳(2021年)
初戦の小倉芝2000mOP関門橋Sこそ先行してクビ差2着に入るが、距離短縮した中山記念は中団のまま7着。さらに距離を縮めてマイラーズCに登録するが、左前肢跛行のため競走除外となってしまう。4歳の上半期も、相変わらず迷走状態だった。
しかし下半期になると風向きが変わってくる。
6か月の休み明けで出走したリステッドのオクトーバーS(東京芝2000m)で初めて吉田豊騎手とコンビを組むと、1000m59.3のペースで逃げて、アタマ差残して1着。1年4か月ぶりに3勝目をあげる。
次走はG3福島記念に出走。9.0倍の5番人気となった。
菱田騎手鞍上で好スタートを切ったパンサラッサは前走に続いて果敢に逃げる。このレースは買わずに見ていたのだが、実況アナウンサーの「最初の1000mは57秒3です。」の声を聞いて、さすがにつぶれるだろうと思った。
3コーナーから一気に後続が差を詰めてきたのだが、直線に入ると逆にパンサラッサが突き放してリードを広げる。そのまま懸命に脚を伸ばすと、なんと4馬身差をつけて逃げ切ってしまった。
その勝ち方はなかなかに衝撃的で、少なくともツインターボ、もしかしたらサイレンススズカに匹敵するような逃げ馬かもしれないと、あらためてパンサラッサを見直すきっかけとなった。
その勢いのまま、次はホープフルS以来久々のG1となる有馬記念に挑戦する。
しかし距離に限界のある印象のロードカナロア産駒で、実際に2000m超は神戸新聞杯(中京 芝2200m)12着のみという成績では、45.5倍の8番人気という評価は妥当だろう。
レースでは福島記念同様に逃げるが、4コーナーでタイトルホルダーに捕まると、直線は馬群に沈み、勝ったエフフォーリアから2.4秒差13着と大敗に終わった。
さすがに2000m超のG1では荷が重い印象だった。
5歳(2022年)
この年の初戦は前年7着に負けている中山記念。鞍上は2度目の騎乗となる吉田豊騎手だったが、ここから引退まで主戦を務めることになる。4.4倍の2番人気に支持されると、押してハナに立ち、1000m57.6のハイペースで逃げる。向こう正面からどんどん離していき、直線に入った時は大きな差がついている。結局2 1/2馬身差で危なげなく逃げ切って、重賞2勝目をあげた。
ペース配分や突き放していくタイミング、最後までもたせる追い方などは見事で、吉田豊騎手との相性の良さを感じさせるレースぶりだった。
そしてその勢いのまま、次走は海を越えて同じ芝1800mのドバイターフに挑戦する。
適距離や馬場との相性、海外遠征にも耐えられる精神的な強さなどの要素を、矢作師なりに評価した結果の選択だったのだろう。
国内発売でシュネルマイスターに次ぐ2番人気の評価を得たパンサラッサを、吉田豊騎手は押していつも通りハナを切らせる。直線に入ると後続を突き放し、残り200mでも2馬身差をつけて先頭。
しかしそこから連覇を狙うデットーリ騎手騎乗の英国馬ロードノースがじりじりと差を詰めてきて、並んだところがゴール。写真判定の結果は2頭の同着優勝となった。
パンサラッサはG1初勝利で、吉田豊騎手も海外G1初制覇となった。デットーリ騎手と並んでトロフィーを掲げる吉田豊騎手は表情も硬く、慣れない場所での勝利ということもあり初々しさを感じてほほえましかった。
国内ではG1未勝利のパンサラッサが見せたパフォーマンスはすばらしく、レース選びの柔軟さと的確さは、さすが世界の矢作と呼ばれるだけあると、強く印象に残った。
帰国初戦は宝塚記念に出走するが、2000m超での不振と阪神コースでの実績不足もあり6番人気。レースでは逃げるが、4コーナーでタイトルホルダーにつかまり、2000m過ぎると大きく後退して1.1秒差8着に終わった。
続いて夏のスーパーG2札幌記念に参戦。ソダシに次ぐ2番人気に支持される。
1000m59.5と絶好のペースで逃げると、直線は2,3番手で進めたジャックドールとのデッドヒートになる。しかしゴール直前でクビ差抜け出したジャックドールに軍配が上り、パンサラッサは惜しい2着に終わった。
そして天皇賞(秋)に挑戦する。ここでの主役は、皐月賞、ダービーともに2着と好走した3歳馬イクイノックスで、2.6倍の1番人気。
以下前年のダービー馬シャフリヤール、ジャックドールと続き、パンサラッサは国内G1実績がない上に、バビット、ジャックドールと強力な先行馬が揃っており、さらに逃げ馬には不利な東京コースということもあって、22.8倍の7番人気と伏兵扱いだった。
個人的には、福島記念など2000m以下での強さや東京実績などから、イクイノックスの相手として押さえる必要があるとは思っていたが、かなり懐疑的ではあった。
吉田豊騎手はパンサラッサをスタートから押して出ると、2コーナーで競りかけてきたノースブリッジを突き放してハナをキープ。向こう正面では、ジャックドール以下をどんどん引き離していく。そして1000m通過のタイムが57.4。これが表示されたとき、東京競馬場は大きなどよめきに包まれた。
オールドファンなら忘れもしないだろう。1998年の天皇賞(秋)で逃げたサイレンススズカが刻んだラップが、全く同じ57.4。あの時は、この先どんな結果が見られるのだろうとワクワクしたことを覚えている。
今回は大丈夫だろうかと心配になったが、軽快に逃げるパンサラッサは、淡々と4コーナーを回って直線へ。この時点で後続は3秒以上離れており、完全な一人旅。
こうなると普通の逃げ馬は直線でバタバタになって一気に減速して馬群に飲み込まれるものだが、パンサラッサは内ラチぴったりで懸命に脚を伸ばし、離れて先行していたバビットやノースブリッジが逆に後退していく。
残り200mでも2秒近く引き離して、これはセーフティリードかと思われたが、最後に矢のように追いこんできたイクイノックスにゴール直前で1馬身かわされてしまう。しかし差してきたダノンベルーガ、ジャックドールは抑えて2着をキープ。見事なレースを見せてくれた。

パンサラッサ 2022年10月30日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場
当日の観戦記にも書いたのだが、この日のパンサラッサのレースが一つのヒントになったような気がする。少なくともサイレンススズカはパンサラッサと同等以上の走りをしただろうし、イクイノックス級の馬もいなかったので、結果としてサイレンススズカが逃げ切った公算が強いだろうと思われた。
その後、ジャパンC、有馬記念は距離が長いこともあったのだろう。招待を受けた香港C(シャティン 芝2000m)に出走。3番人気に支持される。
出遅れ気味に出て、押してハナを切るが、直線の残り300m手前で後続に交わされると後退していき、10着と大敗に終わった。
6歳(2023年)
この年の初戦は、招待を受けたサウジカップに出走する。サウジCは2020年に創設され、1着賞金が1000万米ドルの世界最高賞金レースで、キングアブドゥルアジーズ競馬場のダート1800mで実施される。日本馬は第1回から毎年参戦していたが、いずれもダートを主戦場とする馬たちで、第1回のゴールドドリームの5着が最高だった。
パンサラッサはここまでダートは1戦のみで11着と大敗しており、13頭中6番人気という評価。日本馬は6頭と大挙して参戦していたが、その中でもカフェファラオと並んで3番目の人気だった。
最内枠で好スタートを切ったパンサラッサは、いつも通り逃げの手に出る。折り合って進み、直線に入るとジオグリフに2馬身差で先頭。そのまま脚を伸ばすと、最後はデットーリ騎手騎乗のアメリカ馬カントリーグラマーに迫られるも、3/4馬身差で振り切って、日本調教馬として初のサウジC制覇を成し遂げた。
その優勝賞金額は当時のレートで13億1865万円と破格のもので、騎手や調教師はいくらぐらいもらったのか話題になった。
パンサラッサ自身はG1 2勝目だが、いずれも国際G1で、芝とダートの両方の国際G1を制した初の日本調教馬となった。
ダートで勝ったことで、次走は前年勝った芝のドバイターフではなく、ダートのドバイWCへの参戦を決める。そしてサウジアラビアからそのままUAEへ移動した。
前走勝っていることもあり、2番人気と高評価を得たパンサラッサは、大外枠で出遅れながらも、懸命に吉田豊騎手が押して前に行く。しかし地元の人気薄リモースが譲らず、2頭でハナ争いとなる。そのためか3コーナーで早くも手応えが怪しくなり、勝ったウシュバテソーロからは大きく離れた10着に終わった。
その後はイギリスに渡ってサセックスSへの出走が予定されていたが、怪我により断念して帰国することになる。
そして秋はジャパンCに出走。大敗しての9か月ぶりの実戦と、実績のない2000m超のレースということもあり、46.4倍の7番人気という評価。それでも押してハナを切り、向こう正面では後続を大きく離す大逃げで、1000m57.6で飛ばす。そのまま2秒ほど離して直線に入り、残り200m手前まで先頭で粘るが、追い出したイクイノックスに交わされると失速し、2.2秒差の12着に終わった。
パンサラッサ 2023年11月26日 ジャパンC出走時 東京競馬場
ジャパンC翌日に引退が発表され、翌2024年1月8日に中山競馬場で引退式が行われた。
競走馬としての総括
4歳の春までは、先行脚質でときどき逃げて、好走と大敗を繰り返すという普通の先行馬だった。ラジオNIKKEI賞2着によりOP入りはしたが、なかなか勝ちきれない状況だった。それが大きく変わったのが、4歳10月にオクトーバS(L)を逃げ切った後、福島記念をハイペースで逃げて圧勝したころからだった。その後はハイペースでの逃げを信条とし、大敗することもあったがドバイターフ、サウジCと2つの海外G1を逃げて制することになった。一見無謀な逃げに見えながらも、大きなレースを逃げ切るためにはスピードを持続させる体力と、強い精神力が必要であり、その両方を兼ね備えた馬だったと言える。
また4歳秋以降の強さをもたらせた成長力も非凡なものがあり、並のオープン馬が短期間でG1を勝つまでになったという意味でも、稀有な例と言えるのではないだろうか。
種牡馬として
2024年から静内のアロースタッドで種牡馬生活をスタートさせた。初年度の種付け料は300万円で、54頭に種付けを行い、33頭が血統登録を行っている。さらにシャトル種牡馬として、夏以降はオーストラリアに渡って種付けを行っている。そのため2025年9月にアロースタッドを訪れた際も、出張中ということで残念ながら会うことはできなかった。
初年度産駒は順調なら2027年から走り始める。
ロードカナロア産駒の種牡馬といえば、ステルヴィオやダノンスマッシュ、ファストフォースなどの短距離系が多いが、サートゥルナーリアやベラジオオペラなど中距離向きの種牡馬も増えている。その中でパンサラッサなりの特徴を出していく必要があり、種牡馬生活は決して安泰とは言えないだろう。
それでもスピードを持続させられるような産駒の誕生を期待したいと思う。