アパパネ

性別 毛色 鹿毛
生年月日 2007年4月20日 所属 美浦・国枝栄厩舎
キングカメハメハ ソルティビッド (母父:ソルトレイク)
戦績 19戦7勝
(7・1・3・8)
生産者 北海道安平 ノーザンファーム
馬主 金子真人ホールディングス 騎手 蛯名正義、岩田康誠
おもな
勝ち鞍
阪神JF(2009)、桜花賞(2010),オークス(2010),秋華賞(2010),
ヴィクトリアM(2011)

    ハワイに生息する鳥の名前からとったアパパネは、2010年に史上3頭目の牝馬3冠馬となったが、その時に感じたのはオーナー金子真人氏の運の強さだった。2005年に牡馬3冠を制したディープインパクトとあわせて、JRAの歴史上初めて牡牝両方の3冠馬のオーナーとなったのだ。

    その後、サンデーレーシング(オルフェーヴルジェンティルドンナ、リバティアイランド)、ノースヒルズ(コントレイル、スティルインラブ)も牡牝両方の3冠馬を生み出しているが、繁殖を行っていない個人オーナーとしては唯一の存在だ。
    しかもアパパネは父母ともに金子オーナーの持ち馬で、牝馬3冠で2着につけた差の合計が歴代7頭の中で最も少なく、オークスは同着。まさに運の良さを地でいったと言える。

    2歳(2009年)

    アパパネのデビュー戦は7月の福島芝1800m新馬。主戦を務める蛯名騎手鞍上で3番人気となるが3着に敗れてしまう。
    仕切り直して10月末の東京芝1600m未勝利を勝つと、同じく東京マイルの500万下赤松賞を差して2 1/2馬身差で完勝。阪神JFに挑戦することになる。

    関東馬がそこそこ活躍しているとはいえ、2歳牝馬に直前輸送は厳しいこともあり、事前に栗東に入厩したアパパネは、その事前準備も評価されて4.6倍の2番人気となる。1番人気の新潟2歳S勝ちのシンメイフジ、3番人気のファンタジーS勝ちのタガノエリザベートがともに追い込み脚質ということで、個人的には差し脚質のアパパネに期待していた。

    好スタートを切ったアパパネは中団外で折り合うと、直線は内に進路を取り、外のアニメイトバイオと馬体を合わせて伸びてくる。残り200mぐらいで抜け出すと2馬身ほど差をつけて先頭。最後はいったん突き放したアニメイトバイオに迫られるも1/2馬身差で優勝。5年ぶりの関東馬ワンツーとなった。
    この勝利により、JRA賞の最優秀2歳牝馬に選ばれた。

    3歳(2010年)

    3歳初戦は桜花賞トライアルのチューリップ賞に出走。初の重馬場だったが2.2倍の1番人気に支持される。
    しかし好位から抜け出したものの、後ろでマークしていた重馬場得意のショウリュウムーンに差されて、3/4馬身差2着に敗れてしまう。

    それでもアパパネは、本番の桜花賞では2.8倍の1番人気と圧倒的な支持を受けることになった。前走の前から栗東に長期滞在していることもあり、環境にもすっかり慣れたのか調教ではのびのびとした力強い走りで、パドックでも落ち着いていながら適度な気合乗りで、調子の良さをうかがわせた。

    レースはスローで進んだこともあり、アパパネは好位でやや掛かるそぶりを見せ、蛯名騎手は馬の後ろにいれて折り合いに専念する。5番手で直線に向くと、なかなか伸びて来ず心配したが、残り100mぐらいから外目でじりじりと脚を伸ばしてくると、逃げたオウケンサクラをゴール直前で交わして1/2馬身差で1着のゴール。
    見事にクラシック1冠目を奪取し、G1 2勝目を飾った。

    次走はオークスに直行する。
    実力上位であることは間違いないが、母が短距離で活躍したことに加えて桜花賞で掛かったため距離不安が言われたことや、勝つときに着差が少ないことなどもあったのだろう。1番人気ではあったが、桜花賞よりもオッズは上がって3.8倍となった。
    個人的には東京得意ということや調教もパドックも良く見えて、かなり有力とは思っていたが、距離適性よりも桜花賞の直線で見せた反応のにぶさが気になり、最終的にはクイーンC勝ちのアプリコットフィズやフローラS勝ちのサンテミリオンなどとボックスで買うという弱気な結論となった。

    外の17番からスタートしたアパパネは、いつもより後ろの後方集団で折り合って進む。そのまま4コーナーでは外を回すと、すぐ内の前にいたサンテミリオンを追って脚を伸ばす。
    残り200mを過ぎて、2頭で前を行くアグネスワルツをかわすと、馬体を合わせてマッチレースに。並んだままの追い比べは続き、そのまま馬体を合わせてゴール。
    ゴールの瞬間はアタマを上げたサンテミリオンに対して、アパパネはクビを伸ばし、しかしスローで見てもどちらが勝ったかは定かではなかった。そこから長い長い写真判定になったが、最終的に掲示板には同着の文字が表示された。その瞬間、東京競馬場には大きな拍手と歓声が巻き起こった。

    G1での1着同着はグレード制が始まって初めてのことで、その後も例がない。
    表彰式も口取りも2回行われ、サンテミリオンは馬服を、アパパネはレイをかけて、ともに記念撮影に臨んだ。蛯名騎手と横山典騎手が並んで記念撮影に応じていたが、満面の笑みの横山典騎手に対して、蛯名騎手は心なしか笑顔がこわばって見えた。2冠のプレッシャーの重さと、同着とはいえ勝てたことの安ど感を感じていたのかもしれない。


    アパパネアパパネ 2010年5月23日 オークス出走時 東京競馬場
    アパパネ同着を示すターフビジョン
    アパパネ記念撮影に向かうアパパネ
    アパパネアパパネ(上)と同着だったサンテミリオン(下)

    夏を休養に充てたアパパネは、いよいよ史上3頭目の牝馬3冠を目指してトライアルのローズSから始動する。オークスから+24kgと成長した体を見せたが、好位追走から直線はいったん抜け出したものの、ゴール前で追いこんできた3頭にかわされて、1 1/4馬身差4着と初めての着外に敗れてしまう。

    しかしたたき良化型ということもあり、秋華賞では3冠の期待も込めて2.3倍と抜けた1番人気に支持される。調教もかなり良く見えたため、個人的にも中心と考えた。

    オークスで優勝を分け合ったサンテミリオン(3番人気)が大きく出遅れたが、アパパネは中団後方でローズSを勝ったアニメイトバイオ(6番人気)の外につける。3コーナーから外を上がっていくと、直線は大外に出して1頭だけ違う末脚を見せ、残り150mで先頭。最後は内からアニメイトバイオが迫るが、3/4馬身差で抑えて3冠のゴールを駆け抜けた。

    これでアパパネは史上3頭目の3冠牝馬に輝くとともに、阪神JFも含めて初めて同一世代の牝馬G1完全制覇の偉業を達成した。しかもそのすべてで2着馬(オークスは同着)との差が1馬身未満という勝負強さ。
    トライアルは敗れているように、絶対的な強さを持っているわけではなく、本番に合わせて調子を上げて行く厩舎の技術力と、馬自身の精神的な強さが、その源泉と言えるのではないだろうか。

    また金子オーナーは、ディープインパクトに続いて牡牝の3冠馬のオーナーとなる快挙。他にもダートG1 7勝のカネヒキリなど、さまざまなジャンルの強い馬を持っているが、
    カネヒキリやアパパネは、超良血とまではいえない血統で、必ずしも高額馬だけで実現したわけではない。社台グループと違って、自ら配合・生産しているわけでもないので、まさにとんでもなく運がいいとしかいえないだろう。

    続いて初の古馬との対戦となるエリザベス女王杯に出走したアパパネは、2.7倍の1番人気となる。しかしアパパネ陣営としては秋の第1目標は秋華賞での3冠達成だったはずで、その好調がどこまで持続できるかがテーマとなった。
    個人的には調教に覇気があまり感じられず、秋華賞の疲れがあるのではと思って少し狙いを下げたのだが、中団から直線は脚を伸ばしたものの、早めに内から抜け出した英国馬スノーフェアリーには大きく差をつけられ、ゴール直前に後ろからメイショウベルーガに差され、かろうじて3着を確保するのがやっとだった。
    やはり3冠達成に向けて仕上げた影響があったのだろうが、それでも4着リトルアマポーラとの競り合いをハナ差制したのは、勝利への執念だったのだと思う。
    そして3冠を制したことで、前年に引き続きJRA賞最優秀3歳牝馬の称号を得ることになった。

    4歳(2011年)

    アパパネ陣営は上半期の目標をヴィクトリアMにおいて、まずはマイラーズCに出走。桜花賞以来1年ぶりのマイル戦で、初めて牡馬と戦う重賞になったが、中団から3馬身差4着。先行した3頭の牡馬はとらえられなかったが、前哨戦としては悪くない結果だった。

    そしてG1 5勝目を目指してヴィクトリアMに出走する。
    1番人気は前年ヴィクトリアMと天皇賞(秋)を制し、ジャパンC1位入線2着降着、有馬記念2着と、牝馬No.1の実績を誇るブエナビスタ(1.5倍)。アパパネは4.1倍の2番人気という評価だった。個人的にも2頭の実績が抜けており2強対決という構図だと思ったが、こういう場合は1頭が崩れることが多いので、それぞれから広めに流すという気弱な買い方になった。

    揃ったスタートからアパパネは中団後方の外につけ、それをマークするようにさらに後方にブエナビスタという態勢。逃げたオウケンサクラの作るペースは3ハロン33.5のハイペースで後方の馬に有利な展開になった。
    直線に入って先頭に立ったレディアルバローザを追って、先に抜け出したアパパネに対して、追うブエナビスタは2馬身ほどの差がなかなか詰まらない。坂を上ってゴール前で先頭に立ったアパパネに、ブエナビスタが一気にクビ差まで詰め寄る。しかしアパパネはブエナビスタを堂々と振り切って、秋華賞以来のG1奪取となった。
    これでアパパネは4歳5月の時点でG1 5勝目。これは牝馬としては史上最速の記録となった(後にアーモンドアイが4歳3月にG1 5勝目を達成)。


    アパパネアパパネアパパネアパパネ 2011年5月15日 ヴィクトリアM出走時 東京競馬場

    続いて3週間後に行われる安田記念に参戦。前年のマイルCSで2着になったダノンヨーヨーや東京新聞杯を勝ったスマイルジャックなどを抑えて1番人気になる。
    中団の内ラチ沿い追走から、直線は外目に持ち出して懸命に前を追うが、最後は脚色が悪くなり勝ったリアルインパクトから0.2秒差の6着に終わった。
    中2週でのG1連戦は牡馬でも厳しいものがあり、やはりヴィクトリアMでブエナビスタに勝つために精一杯の走りをした反動があったのではないだろうか。前走の粘りのようなものが、まったく見られなかった。


    アパパネアパパネ 2011年6月5日 安田記念出走時 東京競馬場

    秋はエリザベス女王杯が最大目標になるが、その前哨戦として府中牝Sに出走。実績から2.3倍の抜けた1番人気となる。しかし中団からまったく伸びず、1.0秒差14着と初めて2桁着順に沈む大敗を喫してしまった。

    この年のエリザベス女王杯は前年の覇者で4歳馬のスノーフェアリーが2年連続でイギリスから参戦し、3連勝で秋華賞を制して底を見せていない3歳馬アヴェンチュラとの対決が話題になった。個人的にはアパパネの前走はさすがに負けすぎだろうと無印だったが、叩き良化型ということもあり4番人気に支持される。
    先行したアパパネは最後まで良く伸びたが、スノーフェアリー、アヴェンチュラに最後にかわされて3着。しかし予想外にがんばって、さすが3冠馬というレースを見せてくれた。
    そして結果的には、これがアパパネが馬券圏内に入った最後のレースとなった。

    年末の香港マイルに出走するが、中団から直線は手応えなく13着と大敗してしまう。

    5歳(2012年)

    初戦の阪神牝馬Sは不得意な休み明けということもあり、後方から伸びを欠き7着。
    続くヴィクトリアMは変わり身を見せる休み明け2戦目で、前年も勝っているため1番人気に支持されたが、中団から伸び一息で5着に終わる。

    アパパネアパパネ 2012年5月13日 ヴィクトリアM出走時 東京競馬場

    さらに安田記念では16着と大敗。年齢もあるのか調子が上がらず、3冠を達成した3歳時の勢いは、すっかり影をひそめてしまっていた。

    アパパネアパパネ 2012年6月3日 安田記念出走時 東京競馬場


    それでも秋はエリザベス女王杯を目指していたが、9月に浅屈腱炎を発症していることが判明。そのまま引退となった。

    競走生活の総括

    2歳から4歳までJRAの牝馬限定G1を5勝。これはメジロドーベルと並ぶ1位タイだが、牡馬混合では未勝利しか勝てなかった。また古馬になってからはヴィクトリアMの1勝にとどまり、どうしても尻すぼみな印象の競走生活となってしまった。
    しかし牝馬3冠を取った価値は変わらず、特にトライアルは落としながらも本番はきっちりと勝ちきる勝負強さは印象的だった。それは同着となったオークスに最も現れているだろう。

    繁殖牝馬として

    2013年から安平のノーザンファームで繁殖生活をスタートさせたアパパネは、6年連続でディープインパクトと交配され、2018年までに4頭の産駒を生んだ。当時は12冠ベビーと話題になったが、その4頭とも4勝以上をあげている。そして4番仔のアカイトリノムスメがクイーンCに続いて秋華賞を勝ってG1馬となり、母子制覇を果たしたのである。

    さらに2019年からはブラックタイドと3年連続交配され、3頭とも勝ち上がり、2024年にはマカヒキの仔を生んでいる。

    デビューした7頭はすべて1勝以上をあげ、うち4頭はオープン馬となり、そのうち1頭はG1馬と、繁殖牝馬としてはとても優秀な成績を上げていると言えるだろう。
    そして掛け合わされている種牡馬が、すべて金子オーナーの持ち馬というのも、すごいことだと思う。今後も金子ブランドの種牡馬との交配が続くと思うが、今後も活躍馬を生み出すことをオーナーも期待しているだろう。