モーリス

性別 毛色 鹿毛
生年月日 2011年3月2日 所属 栗東・吉田直弘厩舎、美浦・堀宣行厩舎
スクリーンヒーロー メジロフランシス (母父:カーネギー)
戦績 18戦11勝
(11・2・1・4)
生産者 北海道日高 戸川牧場
馬主 吉田和美 騎手 内田博幸、R.ムーア、川田将雅、浜中俊、
F.ベリー、戸崎圭太、J.モレイラ、T.ベリー
おもな
勝ち鞍
安田記念(2015),マイルCS(2015),香港マイル(2015),
チャンピオンズマイル(2016)、天皇賞(秋)(2016)、香港カップ(2016)、
ダービー卿CT(2015)
    競馬において3歳クラシックが中心になっているのは、世界的な傾向だと思う。日本でも2歳新馬戦で強い勝ち方をした馬は話題になり、クラシックでの活躍が期待される。逆にクラシック路線に乗れなかった馬たちは、早々に忘れ去られていくことが多い。
    そんな中では、血統的にもいわゆる早熟な馬が重宝され、晩成な血統は自然と淘汰されていってしまう。もちろん古馬のG1も数多くあり、距離や性、芝・ダート別の路線も整備されて、さまざまな可能性が試される環境にはあるが、その中心は3歳から活躍した馬たちが多い。早々に将来性を見限られてしまうのは、その他大勢の馬たちにとっては厳しい環境と言えるだろう。
    そんな流れにあらがうように、古馬になってから頭角を現し、G1馬にまで上り詰めたモーリスの存在は、多くの競馬関係者に望みを与える存在だったと思う。

    父はグラスワンダー産駒のスクリーンヒーローで、母父は長距離得意のカーネギーという地味な血統。ただ母系はメジロモントレーからメジロボサツにさかのぼる由緒正しいメジロ牧場の血を受け継いでおり、オールドファンにはうれしい存在だっただろう。

    2歳(2013年)

    そのモーリス、最初は2013年10月に栗東の吉田直弘厩舎からデビューする。
    京都芝1400mの新馬戦を圧勝すると、期待を込めてG2の京王杯2歳Sに挑戦し、ムーア騎手騎乗もあって1.5倍の1番人気に支持されるが、出遅れて追い込み届かず6着に敗れる。
    しかし年末の阪神芝1400m500万下を勝ってクラシックに望みをつないだ。

    3歳(2014年)

    年が明けて2014年1月にシンザン記念に出走。それまで芝1400mで活躍しており初のマイル挑戦となったが、先行しながら1.1秒差の5着に敗退。
    距離に限界があると見なされたのか、皐月賞トライアルのスプリングSでは5番人気となり4着。さらにダービーを目指した京都新聞杯では7番人気で7着。これで春のクラシックは絶望的となった。

    続いて残念ダービー的な位置づけのOP白百合Sに出るが3/4馬身差3着に惜敗。
    クラシックを目指して押せ押せのスケジュールだったこともあり、背中から腰に痛みがある状況で、長期休養に入る。そしてこの間に、美浦の堀宣行厩舎に転厩することになった。

    4歳(2015年)

    時間をかけてケアされて、復帰したのは4歳となった2015年1月。そこから中山の芝1600m1000万下、芝1800m1600万下で、いずれも1番の上りで連勝する。

    そしてOP入りして最初のレースがG3ダービー卿チャレンジトロフィーだった。個人的にもこのレースからモーリスに注目するようになった。
    前走からコンビを組む戸崎騎手鞍上で3.1倍の1番人気に支持されたモーリスは、スタートであおったこともあり後方を追走。4コーナーでもまだ後方だったが、直線は外から差を詰めてくる。中山の短い直線でどうかと思ったが、残り100m手前で先頭に立つと、そこから一気に引き離し、最後は3 1/2馬身差の楽勝。3連勝で重賞初制覇を飾った。
    ハンデ戦で55kgだったこともあるが、ゴール前で一気に突き放す脚は、ただものではないと思わせるものだった。

    そして次走は、いよいよG1勝利を目指して安田記念に出走する。
    G1馬は前年のマイルCSを勝ったダノンシャークや、NHKマイルCを勝っているミッキーアイル、カレンブラックヒルなど5頭が出走していたが、いずれもピークを過ぎていたり距離が微妙だったりして、新星のモーリスが3.7倍の1番人気。とはいえ東京実績がないことや、一線級との対戦がないことなどが、微妙なオッズに現れていた。
    個人的にも勢いは買うものの、中山で3連勝中という成績や、パドックでのテンションの高さなどからやや評価を下げてしまった。

    3歳時以来の久々のコンビとなった川田騎手を背に、モーリスは好位を追走。4コーナーでは3番手に上り、直線は持ったままで残り300mを切って早くも先頭。残り200mを切って一気に抜け出すが、ゴール直前で3番人気のヴァンセンヌが外から迫ってくる。
    川田騎手も懸命にムチをふるってモーリスを追い、最後はクビ差で振り切って、4連勝で初G1制覇を果たした。着差は少なかったが、抜け出す脚は鮮やかで、最後はソラを使っただけで力の違いは感じられ、あらためてマイルでの強さを印象付ける勝ち方だった。

    夏を経て、秋はマイルCSに直行する。
    当初毎日王冠を目指していたが調子が整わないということで目標を変えたため、5か月ぶりということもあり順調さをやや欠くと見なされたのか、安田記念を勝っていながら当日は5.7倍の4番人気。
    京都実績がないこともありあくまで有力馬の1頭と見ていたが、パドックは安田記念とは一転して落ち着いていてトモの踏み込みも良く、少し狙いをあげて馬券を買ってみた。
    短期免許で来日したムーア騎手を鞍上に中団の外から進めたモーリスは、直線外から差を詰めてきて、残り100mで先頭。そこからぐいぐいと脚を伸ばすと、フィエロに1 1/4馬身差をつけて1着。
    休み明けも関係なく、あっさりと春秋マイルG1制覇を達成して、あらためてマイルでの強さを示して現役No.1マイラーであることを証明した。

    その後、年末には香港遠征を敢行。ムーア騎手とのコンビでG1香港マイルに出走すると、マイルCS同様に中団外から脚を伸ばし、3/4馬身差で優勝。海外G1もあっさりと制して、ワールドレベルのNo.1マイラーであることを示した。

    これでG1は3勝となり、しかもこの年は負けなしの6戦6勝と完ぺきな成績。見事に年度代表馬に選ばれた。年初めには1000万下(現2勝C)にいた馬が年度代表馬になるのだから、まさにシンデレラストーリだった。
    マイル以下を主戦場にする馬としては、タイキシャトルロードカナロアに続く快挙。マイラーの地位向上にも大きく貢献することになった。

    5歳(2016年)

    そして5歳となった2016年。初戦は再び香港に渡り、G1チャンピオンズマイルに出走。
    新たに香港のトップジョッキーモレイラ騎手とコンビを組み、中団内を追走すると、4コーナーではうまく外に出して前を追う。残り200mで先頭に立つと後続を突き放し、2馬身差での勝利。
    安定したレースぶりで、レベルの高い香港のマイルG1を連勝したことで、すでにマイルでは世界に敵はいないのではと思わせた。

    しかし帰国初戦の安田記念では、一転して期待を裏切ってしまう。
    短期免許で来日していたT.ベリー騎手を鞍上に1.7倍の1番人気に支持されるが、珍しく折り合いを欠いて激しく行きたがる。ベリー騎手は大きく背中を丸めて懸命に抑えるが逃げるロゴタイプの2番手まで進出。抑えたまま4コーナーを回り、残り400mでようやく追い出すが、大きく抜け出したロゴタイプとの差はなかなか縮まらない。後続は何とか抑えたものの、1 1/4馬身差の2着に敗れ、転厩後続いていた連続勝利も7でストップしてしまった。
    初めての騎手ということで慣れていない面もあったと思うが、結果として逃げたロゴタイプを捕まえられなかった展開を見ると、必要以上に抑えすぎたのではないかと、大いに疑問の残るレースとなってしまった。

    モーリス
    モーリス 2016年6月5日 安田記念出走時 東京競馬場

    その後、馬主サイドの意向もあり、モーリスは2000mのレースに挑戦していくことになる。
    手始めに選ばれたのが、夏のスーパーG2とも呼ばれる札幌記念。
    再びモレイラ騎手とコンビを組むモーリスの底力に期待して、1.6倍の1番人気となるが、同厩舎のネオリアリズムの逃げをとらえきれず、2馬身差の2着に敗れる。しかし距離へのめどが立った一戦ともなった。

    そして次走は最大の目標となる天皇賞(秋)。
    仏G1イスパーン賞を2番手から10馬身差で快勝した快速馬エイシンヒカリ、エプソムC、毎日王冠を連勝中の牝馬ルージュバック、産経大阪杯でキタサンブラックを下したアンビシャス、前年の覇者ラブリーデイなどを相手に、やや距離の懸念もあったか3.6倍の1番人気に支持される。

    再びムーア騎手鞍上に好スタートから中団外を追走。直線は外に出すと残り400mで早くも前を行くエイシンヒカリ、ラブリーデイを射程圏にとらえる。そこから大外を伸びると、残り200mで内から伸びるロゴタイプ、アンビシャスをとらえて先頭。最後は内から差してきたリアルスティールを1 1/2馬身抑えて、初めて2000mの、しかもG1を勝利。
    距離延長を克服し、中距離馬としても能力が高いことを証明した。

    しかし個人的にはヤマニンゼファーの例などもあり、東京のマイルで強い勝ち方をする馬は、2000mでも好勝負できるという確信があったので、モーリスについては距離の心配はなく、中心と考えていた。血統的にも、距離に限界があるイメージがなかったことが大きかったと思う。

    モーリス
    モーリス 2016年10月30日 天皇賞(秋)出走時 東京競馬場

    2016年限りで引退が既定路線だったモーリスにとって、国内では目標になるレースがなく、最後は12月のG1香港カップ(芝2000m)に出走する。そしてこのレースも3馬身差で快勝し、あらためて2000mでの強さを見せることで、自身の種牡馬価値をさらにあげることに成功した。

    G1は香港での3勝を含めて6勝となり、転厩後は11戦して9勝2着2回で3着以下はなしという抜群の安定感。3歳までと古馬になってからの成績がこれだけ違う馬も、珍しいと思う。

    種牡馬として

    翌2017年1月15日に中山競馬場で引退式を行ったモーリスは、社台スタリオンステーションで種牡馬入りした。
    残念ながらコロナ禍もあり会いに行けていないが、種牡馬としては順調に走る産駒を送り出している。G1勝利はピクシーナイトの2021年スプリンターズSと、ジェラルディーナの2022年エリザベス女王杯、ジャックドールの2023年大阪杯の3勝。ほかにもノースブリッジ、ディヴィーナ、マテンロウスカイが古馬G2を勝つなど、有力馬を何頭も送り出している。

    サンデーサイレンスが父系の3代前に入っているだけで比較的地味な血統ということもあり、ディープインパクト産駒の牝馬ともつけられるなど、幅広い血統の牝馬と交配できるということもモーリスの特長の一つであり、今後も人気が高まっていくことが予想できる。
    ぜひ自身が出られなかったクラシックを制するような産駒の誕生を期待したい。