性別 | 牡 | 毛色 | 鹿毛 |
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生年月日 | 2015年1月20日 | 所属 | 美浦・手塚貴久厩舎 |
父 | ディープインパクト | 母 | リュヌドール(母父:グリーンチューン) |
戦績 | 12戦5勝 (5・3・2・2) |
生産者 | 北海道安平 ノーザンファーム |
馬主 | サンデーレーシング | 騎手 | 石橋脩、C.ルメール、池添謙一、福永祐一 |
おもな 勝ち鞍 |
菊花賞(2018),天皇賞(春)(2019,2020) |
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ディープインパクトは産駒が8大競走をすべて制覇しており、芝の平地G1で勝てなかったのは高松宮記念だけと、芝ではオールマイティの種牡馬と言えるだろう。しかし最初のころは産駒の重賞勝利が芝1600m~2400mに限られており、中距離は得意だが長距離は苦手と言われていた。
それを覆したのが、6世代目の産駒サトノダイヤモンドで、初めて3000m超のG1菊花賞を勝った。それに続いたのが8世代目の産駒となるフィエールマンで、ディープインパクト産駒として初めて天皇賞(春)も制して、名ステイヤーと称されるようになった。
すると不思議なことに、ワールドプレミア、コントレイル、アスクビクターモアと次々と菊花賞を制する産駒が登場。晩年の産駒は適距離の幅が広がった印象があるが、その評価を大きく変えるきっかけとなったのが、フィエールマンと言えるのではないだろうか。
3歳(2018年)
フィエールマンは体質が弱かったため、調教でも強い負荷をかけることが難しく、レース間隔もあける必要があった。それもあってデビューは3歳1月末の東京芝1800m新馬戦となった。登録頭数が多かったため除外されることを前提に登録したという。ところが初回登録でも出られる5頭の抽選に通ってしまったため、当初予定していたルメール騎手から石橋騎手にスイッチして出走することになった。
1.7倍の圧倒的1番人気となったフィエールマンは、先行して粘りクビ差で初勝利をあげる。
2走目は皐月賞前日の中山芝1800m山藤賞(500万下)。後方から1番の上りで差し切り、2 1/2馬身差の完勝。2.0倍の1番人気に応えた。
しかし体質の弱さから間隔をあけて使わざるを得ず、結局春のクラシックとは無縁に終わった。そこで次走に陣営が選んだのは、過去には残念ダービーとも呼ばれた夏の福島の重賞ラジオNIKKEI賞(G3 福島芝1800m)。ここでも2.5倍の1番人気となった。
スタートで出遅れたフィエールマンは後方を追走。道中石橋騎手はポジションをあげようとするが反応が悪く、4コーナーでは最後方。
それでも直線では大外から目の覚めるような末脚を発揮して一気に先頭まで迫るが、のちに日経賞を勝つメイショウテッコンの1/2馬身差2着と初の敗戦を喫する。
結果としては惜敗だったが、そのレースぶりは距離伸びて良さが出ることを示唆したものだったと思う。しかしそれに気づくのは、もっと後のことだった。
重賞2着で賞金を加算できたこともあり、陣営は次走に菊花賞を選択する。ここから主戦騎手はルメール騎手となった。
しかし3走のキャリアはすべて芝1800mで、しかもラジオNIKKEI賞は2着に敗退。過去10年でキャリア5戦以下も関東馬も連対していないということもあって、個人的には自信をもって無印とした。人気も14.5倍の7番人気で、多くの人が同様に考えたのだろう。
ただし調教もパドックも良く見えて、少し気になる存在ではあった。
中団につけたフィエールマンは馬群の中で折り合って進む。直線に入ると馬場中央から内目に進路を取り、先に抜け出したエタリオウを追って内から脚を伸ばす。残り100mで離れた内から並ぶと2頭のたたき合いに。最後は馬体を合わせて並んでゴールするも、ハナ差でフィエールマンが1着となった。
デビュー4戦目での菊花賞制覇は史上最少キャリアで、関東馬の菊花賞制覇は17年ぶりの快挙だった。
スローな展開で勝ちタイムは3.06.1と平凡だったが、上位7頭中フィエールマン含む5頭が上り33.9を記録するという末脚比べを制したことは、大いに価値があったと思う。
4歳(2019年)
約3ヶ月の間隔をあけて使ってこられたフィエールマンは、菊花賞から3か月後のAJCCで古馬との初戦を迎え、1.7倍の1番人気に支持される。しかし中団から1番の上りで差すも、好位から伸びたシャケトラにアタマ差およばず2着に敗れた。
次走は天皇賞(春)に出走する。13頭立てと頭数も少なかったが、有力どころが菊花賞で下しているエタリオウ、ユーキャンスマイル、グローリーヴェイズあたりだったこともあり、2.8倍の1番人気となった。
調教はよく、パドックでも堂々と落ち着いて素軽い歩様で調子がよさそうに見えたこともあり、個人的にも有力と見ていた。
ややダッシュがきかず後方となったフィエールマンだが、ルメール騎手は少しずつポジションを上げて行って、1コーナーでは中団。さらに2周目3コーナーから進出を開始して、4コーナーでは絶好の手応えで早くも先頭。直線は外のグローリーヴェイズと併せ馬で2頭で抜け出すと、クビ差前に出たまま最後まで先頭は譲らず、G1 2勝目を獲得した。
折り合いに問題ない上に、騎手の指示どおりに動く操作性の良さと勝負根性は、まさに長距離向きということを強く印象付ける結果になった。
秋は凱旋門賞を目指すことになり、その前哨戦として札幌記念に出走する。
2.3倍の1番人気となるが、内から先に抜け出したブラストワンピースの1 1/4馬身差3着と敗れた。しかし外から1番の上りで伸びており、本番に向けて悪くない仕上がりに見えた。
そしてブラストワンピース、1つ上の菊花賞馬キセキと、凱旋門賞制覇を目指して渡仏するのだが、個人的には3頭の中では一番可能性が低いのではと見ていた。スタミナはあるが、重馬場への対応力が未知数だったからだ。
キセキは不良の菊花賞を勝っていたし、ブラストワンピースもやや重で時計のかかる有馬記念を優勝。しかしフィエールマンは道悪の経験がなく、父ディープインパクト譲りの切れで勝負するタイプ。残念ながら適性があるとは思えなかった。
重馬場となった凱旋門賞で、フィエールマンはスタート直後にハナに立ち、道中は果敢に3番手を追走。しかしフォルスストレートで早々に手ごたえが悪くなると、直線はルメール騎手が追うことなく後退していき、大差の最下位に敗れた。
残念ながら予想は当たってしまったが、良いチャレンジだったと思う。
帰国初戦は有馬記念に出走。ルメール騎手がアーモンドアイに騎乗するため、池添騎手が代打を務めた。大敗後の帰国初戦ということで18.4倍の6番人気と大きく人気を落としてしまう。
しかし道中後方から3コーナー過ぎに進出開始すると、直線はいったん先頭に躍り出る勢い。最後はリスグラシューに突き放され、後続にもかわされて4着に終わったが、見せ場のあるレースぶりだった。
5歳(2020年)
5歳の初戦は、連覇を狙ってぶっつけで天皇賞(春)となった。4か月半ぶりではあったが、鉄砲実績はあり、圧倒的な長距離実績もあって2.0倍の1番人気に支持された。調教の動きは抜群に良く、パドックでも適度な気合と集中を見せて良い感じだったので、個人的にも中心と考えた。
大外から出たフィエールマンは、中団の外を折り合って進む。4コーナーで追い出すと外から脚を伸ばし、最後は内のスティッフェリオと馬体を合わせてたたき合いになって、並んだままゴール。写真判定の結果、ハナ差でフィエールマンが1着となった。
スローを後方からただ1頭34秒台の上りで差し切り、長く脚を使えて、勝負根性も兼ね備えることを証明した1戦だった。これでキタサンブラック以来、史上5頭目となる天皇賞(春)連覇を達成。一流ステイヤーとしての名声をさらに高めることになった。
その後、宝塚記念を目指していたが、疲れが抜けず球節の腫れもあったということで、5月末に回避して秋競馬に備えることが発表された。
さらに復帰初戦に予定していたオールカマーの直前に熱発があって再び回避。結局天皇賞(秋)で復帰することになった。
ルメール騎手がアーモンドアイの手綱をとるため、今回は福永騎手が代打を務めることになった。そして順調さを欠いたことや、距離が短いのではないかという懸念もあり、17.4倍の5番人気と、大きく人気を落とすことになった。
しかし天皇賞(秋)は意外と長距離得意な馬が活躍することが多いこともあり、個人的には侮れないと思っていた。それに加えてフィエールマンがどうしても純粋なステイヤーとは思えず、距離短縮は意外と追い風になるのではとも感じていた。
スタートでごちゃつき後方からになったフィエールマンは、後方から3番手を追走すると、直線は外に出して前を追う。残り200mを過ぎてから鋭い末脚を発揮し、究極の上り32.7で追い込んでくるが、先に抜け出したアーモンドアイの1/2馬身差2着まで。
それでも距離が短いのではという懸念を払しょくする走りで、2000mにも対応してみせた。
次走好メンバーの揃ったジャパンCは見送り、有馬記念に出走する。再びルメール騎手に手綱が戻り、3.5倍の2番人気に支持される。
スタートは後方からになったが、徐々にポジションを上げて行き、2周目3コーナーでは2番手。さらに直線に入るとすぐに先頭に立つ。しかし残り100mで外からクロノジェネシスに交わされ、さらにゴール直前で追いこんできたサラキアにも抜かれて3着に終わった。
ところがレース後に右前脚の筋に熱と腫れが見られ、精密検査の結果、繋靭帯炎であることが判明。2021年1月6日に引退と種牡馬入りが発表された。
なおこの年国内の芝G1を勝った4歳以上牡馬はフィエールマンだけだったこともあり、JRA賞の最優秀4歳以上牡馬に選出された。ほかの古馬国内G1はすべて牝馬が制したという、ある意味歴史的な年だったこともあるが、フィエールマン自身は天皇賞(秋)2着、有馬記念3着と安定して好走しており、受賞にふさわしい成績を残したと思う。
競走馬としての総括
戦績を見ると重賞は3勝で、すべて3000m以上のG1。これだけ見るとステイヤーと言われても仕方ないだろう。しかし勝てなかったとはいえ、5歳の天皇賞(秋)では、32.7と究極の上りでアーモンドアイの1/2馬身差2着に追いこんでいる。そのタイムは1.57.9と速いもので、相手がアーモンドアイでなければ勝っていただろう。つまり中距離の特性は十分にあったと思われる。また国内では11戦して着外は4歳時有馬記念の4着のみと、その安定感は特筆すべきものだろう。ただし勝ちきれないレースが多かったのは事実で、勝ちきるためには距離の助けが必要だったということなのかもしれない。そういう意味では現代的なステイヤーという表現があっているかもしれない。
種牡馬として
2021年から日高のブリーダーズスタリオンステーションで種牡馬生活をスタートさせた。初年度の種付け料は200万円。2025年度からは150万円と、同じディープインパクト産駒のキズナやコントレイルとは1桁違う待遇だが、やはりG1勝ちが長距離に偏っていることが大きく影響しているのだろう。また体質が弱くコンスタントに使えなかったことも、生産者に不安を与えているのかもしれない。初年度産駒は2024年から出走している。残念ながら重賞勝ち馬は出ておらず、2025年の弥生賞ディープインパクト記念で、13番人気のガンバルマンが後方から鋭い脚で追い込んで0.2秒差5着に入ったのが目立つぐらい。
しかし種牡馬としてのフィエールマンのキャリアは始まったばかりで、自身が活躍し始めたのも3歳秋以降。そのため逆の意味で期待を裏切るような、晩成の産駒の活躍を待ち望んでいる。