デュランダル

性別 毛色 栗毛
生年月日 1999年5月25日 所属 栗東・坂口正大厩舎
サンデーサイレンス サワヤカプリンセス(母父:ノーザンテースト)
戦績 18戦8勝
(8・4・1・5)
生産者 北海道千歳 社台ファーム
馬主 吉田照哉 騎手 武豊、福永祐一、河内洋、四位洋文、
蛯名正義、柴田善臣、池添謙一
おもな
勝ち鞍
スプリンターズS(2003),マイルCS(2003,2004)

    競馬の格言の一つに「長距離の逃げ馬、短距離の差し馬」というものがある。どちらも盲点になりやすいので気をつけろということだと理解しているが、長距離の逃げ馬はともかく、短距離の差し馬、特に追い込み馬は、そもそも上り時計に差がつきにくく、進路がふさがることもあり、あまりお目にかかることは多くない。その意味でも短距離戦を追い込みで勝つと印象に残りやすいが、個人的にはデュランダルがその代表的な馬の1頭である。

    2歳(2001年)

    フランスの詩に登場する英雄が持つ聖剣の名前(ファイナルファンタジーなどのRPGでも使われている)からとられたというデュランダルがデビューしたのは、2001年12月8日阪神芝1200m 2歳新馬戦。武豊騎手鞍上で、中団から1番の上り34.7で1 1/2馬身突き抜け、1.4倍の圧倒的な人気に応えた。

    3歳(2002年)

    脚部不安(骨瘤)もあり復帰したのは翌年の8月。復帰戦こそ2着に敗れるが、そこから条件戦を3連勝して10月の終わりにはオープン入りする。ここまでの4勝は、1000万下がマイルのほかは、すべて芝1200mで、血統的なイメージとは異なりスプリント適性を見せる。しかし陣営は血統面から別の期待もあったのだろう。しばらくは距離延長を試みていく。

    その能力的な期待は大きかったと思われ、オープン初戦はいきなりG1のマイルCSとなった。
    しかし重賞実績はなく、4勝中3勝は1200mということで、マイル重賞の常連たちと勝負になるのかという懸念も大きく、18頭立ての7番人気。個人的にもここでは無理だろうと無印だった。
    四位騎手鞍上で最後方を進んだデュランダルは、直線大外からメンバー1位タイの末脚を繰り出すも、上位も止まらず勝ったトウカイポイントから0.5秒差の10着に終わった。

    次走は距離を伸ばして初の芝1800mOPディセンバーSに出走。上りは1番も伸びきれず4着に敗れる。

    4歳(2003年)

    年が明けて中山芝1600mOPニューイヤーSでは、4コーナー最後方から1番の上り34.3で追い込んで、1/2馬身差1着。マイル戦での適性を感じさせる結果だった。

    しかし次走で陣営は再び距離延長を試み、中山芝1800m G2中山記念に出走する。
    柴田善騎手鞍上で後方から進めたデュランダルだったが、直線はまったく伸びず、逃げ切ったローエングリンから2.6秒差9着の大敗だった。これで陣営はデュランダルの距離延長をあきらめたのだろう。以降は芝1200mと芝1600mに限ったレース選択をしていく。

    半年の休み明けで出走したのが、阪神芝1200m G3セントウルS。ここで初めて池添騎手とコンビを組んだが、以後引退するまでこのコンビは継続することになる。
    4番人気ながら15.4倍と上位3頭とはやや離れた人気だったが、後方から1番の上りで追い込んで、先行した人気のテンシノキセキ、ビリーヴには1 1/4馬身及ばなかったものの3着と好走。あらためて短距離適性を示した。

    そして次走はG1スプリンターズSに挑戦する。これは池添騎手からの進言もあったといい、初めて騎乗して高いスプリント能力を感じ取ったのだろう。
    重賞未勝利の身ながら8.1倍の5番人気と高い支持を得たのは、セントウルSの末脚が目立っていたことに加えて、人気のビリーヴ、テンシノキセキや快速馬カルストンライトオなど比較的前に行く馬が多かったこともあった。
    パドックで見たデュランダルは落ち着いていてトモの踏み込みも深く、とても良く見えた。しかし実績不足は否めず、個人的にはあくまでビリーヴの相手の1頭という評価だった。

    激しい先行争いとは無縁に、いつものように最後方から進めたデュランダルは、4コーナーで大外に持ち出し追込みに賭ける。対するスプリントG1 3連勝を狙う1番人気のビリーヴは、好位から4コーナーでは余裕たっぷりに先頭に並びかけ、直線は外から先頭に立ってゴールを目指す。
    残り100mでも2頭の差は4馬身以上あったが、そこからデュランダルはまさに他馬が止まったような鋭い末脚で一気に差を詰め、ビリーヴと並んだところがゴール。写真判定の結果、ハナ差でデュランダルが差し切って1着。初重賞制覇がG1という快挙となった。

    その勢いのまま、次走はマイルCSに出走する。
    G1馬として臨みながら、やはりデュランダルは8.1倍の5番人気のままだった。その理由としてマイル重賞での実績がないことに加えて、スプリンターズSが秋口に移ってからマイルCSと連勝した馬がいないということもあった。距離適性がより厳格に分かれるようになっていったのである。
    パドックで見たデュランダルは、前走と変わらずすばらしい状態に見えたが、個人的にはやはり3,4番手評価だった。

    後方から2,3番手で進めたデュランダルは、4コーナーで大きく外に持ち出し、長い直線を使って追いこんでくる。逃げるギャラントアローにファインモーションやバランスオブゲームなどが迫る中、大外から1頭だけ33秒台の上りという違う脚で伸びてきたデュランダルがゴール前でまとめて差し切り、ファインモーションに3/4馬身差をつけてG1連勝を飾った。

    秋の短距離G1をともに勝ったことで、デュランダルはJRA賞の最優秀短距離馬を受賞した。9月まで重賞未勝利だったことを考えれば、大変な出世と言えるだろう。

    5歳(2004年)

    裂蹄の影響もあり、この年の初戦はいきなりG1の高松宮記念となった。前年の実績もあり3.6倍の1番人気に支持される。重賞で1番人気となるのは、これが初めてのことだった。しかし単勝1桁の馬が5頭いて、2番人気サニングデールは4.3倍と僅差で、決して抜けた人気ではなかった。
    その理由としては、4か月の休み明けと初めての左回りに加えて、追い込み脚質には不利な平坦で短い直線(中京競馬場の直線に坂ができたのは2012年の改修後)ということがあったと思う。

    そしてその懸念は当たってしまう。デュランダルはいつもどおり後方2番手から4コーナーは大外を回って、直線は鋭い末脚で差してくるも、中団から先に抜け出したサニングデールを交わせずクビ差2着に終わる。

    その後再び裂蹄を発症したデュランダルはまたも休養を余儀なくされ、次走は半年の休み明けで、連覇を狙うスプリンターズSとなった。休み明けにあまり良績がないこともあり、サニングデールに次ぐ4.6倍の2番人気。
    ここでも後方から進め、池添騎手は意識的に早めに動いたが、アイビスSDをレコード勝ちした好調なカルストンライトオの逃げを捉えられず、辛うじて2着にはあがったものの4馬身差をつけられた。

    続いてやはり連覇を狙ってマイルCSに出走。スプリンターズSは休み明けながら2着と格好はつけており、前年強い勝ち方を見せていることや、先行馬が多く流れが速くなるため脚質的に向くのではということもあり、2.7倍の1番人気となった。
    パドックでは相変わらず落ち着きがあってトモの踏み込みも深く、とても良く見せていることもあり、個人的にも1番手の評価だった。

    いつもどおり後方2,3番手から進めたデュランダルは、4コーナーで大きく外を回すと、直線は一気の追い込みを見せ、1頭だけ33秒台の上りで突き抜ける。ダンスインザムードに2馬身差をつける圧勝で連覇を達成。脚色には余裕があり、マイルでは敵なしという印象を与えた。

    その余勢を駆って香港マイルに遠征し、現地でも1番人気に支持される。
    いつもどおり最後方から進め、直線は外から追い込みに賭けるが、いつもの脚が見られない。それでも残り200mからようやく火が付くと、ゴール前では一気に差を詰めてくるが、1 1/4馬身ほど離れた5着に終わった。

    この年は4戦1勝に終わったが、国内G1では1勝2着2回と連対を外さず、その安定感も買われて2年連続でJRA賞最優秀短距離馬に選ばれた。

    6歳(2005年)

    たびたび裂蹄で休養を余儀なくされるなど、デュランダルは蹄が弱く、装蹄も釘ではなく樹脂素材を使って接着していた。ところがこの年、蹄の血流が悪くなって腐る病気、蹄葉炎を発症してしまう。これは不治の病と言われて多くの競走馬の命を奪ってきた恐ろしい病気だった。
    しかし懸命の治療により病気を克服。競走に復帰できるまでになった。

    10か月ぶりにデュランダルが姿を見せたのが、中山競馬場で行われるスプリンターズS。3年連続の出走となったが、過去1,2着と実績があったこともあり、3.8倍の2番人気となる。
    個人的にも実力は評価していたが、休み明けに勝利がないことから対抗の位置づけだった。

    最後方から進めたデュランダルは、前年と同じように4コーナー大外から、直線は休み明けを感じさせない脚で一気に追いこんでくる。しかし先に抜け出した香港の実力馬サイレントウィットネスには届かず1 1/4馬身差2着まで。とはいえ10か月ぶりのレースで健在ぶりをアピールしたことで、次走3連覇がかかるマイルCSへの期待が盛り上がった。

    G1連覇は何頭もいるが、3連覇を果たした馬はまだなく、達成できれば史上初の快挙となる。しかもデュランダルはスプリンターズSで負けたものの強い競馬を見せたことで、マイルCSでは期待も込めて1.5倍の圧倒的な1番人気に推された。
    パドックで見たデュランダルは落ち着いて大外を回り、馬体もトモの踏み込みも申し分なく、3連覇の可能性はかなり高いのではと思わせた。

    逃げたローエングリンは1000m57.1のハイペースを刻む。そんな中デュランダルは定位置の後方から2番手をゆったりと進み、絶好の展開に思われた。そしていつもどおり4コーナー大外から、直線は外を追いこんでくるが、意外と伸びがない。それでも1番の上り33.2を使うが、後方から豪快に伸びたハットトリックにははるかに及ばず、0.4秒差の8着に終わった。
    これまでデュランダルは、3歳のマイルCSと4歳の中山記念の2回しか掲示板を外したことがなかったが、本格化して初めての大敗となった。とはいえ1番の上りで差は詰めてきており、力負けという印象はなかった。
    しかしレースの5日後にJRAから引退と翌年からの種牡馬入りが発表された。

    競走馬としての総括および種牡馬として

    デュランダルは、スプリンターズSとマイルCS2勝のG1 3勝をあげ、他にもスプリンターズS2着2回、高松宮記念2着と、短距離での安定感は素晴らしいものがあった。また常に後方から進めて、直線は後方から大外を一気に追いこむという特徴的なレースぶりで、その鮮やかな末脚は爽快で、ファンも多い馬だった。

    しかし蹄の弱さから長期休養もたびたびあり、安定して使えていれば、もっと成績を伸ばすこともできたかもしれない。

    また血統的には社台グループが誇る2頭の大種牡馬サンデーサイレンスとノーザンテーストの組み合わせではあったが、実はこの血統(父サンデーサイレンス、母父ノーザンテースト)で大成功した馬は意外と多くない。
    JRAの平地G1を勝ったのは、ダイワメジャー(2004年皐月賞、2006年 天皇賞(秋)、2006,2007年 マイルCS、2007年 安田記念)、アドマイヤマックス(2005年 高松宮記念)、エアメサイア(2005年 秋華賞)とデュランダルだけ。
    サンデーサイレンスもノーザンテーストも、長距離から短距離までさまざまな優秀な産駒を送り出し、万能型のイメージだが、それとは少し異なりマイル以下に適性を示す産駒が多いのも意外だった。デュランダル陣営も当初は距離を伸ばそうとしたことが伺えるが、結局1200mから1600mが最も力を発揮できる舞台だったのだろう。

    ただ脚質的には直線の長い東京が合うイメージで、個人的には安田記念での走りを見てみたかったし、本格化したあとなら毎日王冠あたりでも好走したのではないかと考えてしまう。

    デュランダルは2006年から社台スタリオンステーションで種牡馬入り。2011年からはブリーダーズスタリオンステーションに移動した。
    初年度産駒からはジュエルオブナイルが小倉2歳Sを勝って重賞初制覇。また2年目の産駒エリンコートがオークスを勝ってG1初制覇となったが、その後はあまり活躍馬を出すことができなかった。
    2013年7月7日に馬房内で死亡しているのが発見された。享年14歳と早すぎる死だった。死因は心臓麻痺と思われる。

    残念ながら後継種牡馬は生み出せなかったが、ブルードメアサイアーとしてはチュウワウィザード(2020年 チャンピオンズC、2019年 JBCクラシック)やブローザホーン(2024年 宝塚記念)、トーセンスーリヤ(2020年 新潟大賞典、2021年 函館記念)などを送り出しており、自身とはまったく異なるキャラクターの馬たちだが、確実にその能力の高さは伝えている。やはり大種牡馬の血というのは、連綿と着実に受け継がれていくのだということを、あらためて感じさせる。