ゼンノロブロイ

性別 毛色 黒鹿毛
生年月日 2000年3月27日 所属 美浦・藤沢和雄厩舎
サンデーサイレンス ローミンレイチェル(母父:マイニング)
戦績 20戦7勝
(7・6・4・3)
生産者 北海道白老 白老ファーム
馬主 大迫忍→大迫久美子 騎手 横山典弘、K.デザーモ、O.ペリエ、
柴田善臣、D.オリヴァー、田中勝春、
岡部幸雄、武豊
おもな
勝ち鞍
天皇賞(秋)(2004),ジャパンC(2004),有馬記念(2004),
青葉賞(2003),神戸新聞杯(2003)

    強い馬の理想は全勝だろう。しかし多頭数でセパレートではないコースを走る競馬では、コースが空かなかったり不利があったりと、さまざまなアクシデントが起こる可能性があり、力があっても常に勝つことは難しい。そのため個人的には名馬の条件として、大敗しない安定感もあげたいと思う。

    ゼンノロブロイは4歳夏まではG1に5回チャレンジして、2着2回、3着1回、4着2回と勝てなかったが、5着以下もないという安定感を誇っていた。しかしG1勝ちの称号がないと、やはり一流とは認められない。ところが4歳秋にいきなり覚醒して、史上2頭目となる秋の古馬中長距離G1 3連勝の偉業を達成する。しかし翌年にはまた善戦マンに戻ってしまうのである。
    そんなつかみどころがないところも、ある意味魅力だと思う。

    サンデーサイレンスの9世代目産駒として白老ファームで生を受けたゼンノロブロイは、当歳時のセレクトセールにおいて9,450万円で落札され、美浦の藤沢和雄厩舎に所属する。

    3歳(2003年)

    しかしそのデビューは遅れ、初戦は3歳2月の中山1600m新馬戦。後方から突き抜けて快勝するが、春のクラシックに間に合わせるためにはギリギリのタイミング。
    そこで2戦目はOPすみれS(阪神芝2200m)に格上挑戦し、2.8倍の2番人気に支持されるが、落鉄もありリンカーンの3着に敗れてしまう。

    そこで陣営は1冠目の皐月賞はあきらめて、その1週間前の500万下山吹賞を2 1/2馬身差で快勝すると、青葉賞で日本ダービーの出走権を狙うことにした。
    その青葉賞でゼンノロブロイは、毎日杯のタカラシャーディーや京成杯のスズカドリームといった重賞勝ち馬を抑えて、2.3倍の1番人気に支持される。
    好位の外から余裕たっぷりに抜け出すと、ムチも入れずに1 1/4馬身差で人気に応えて快勝した。

    青葉賞は楽勝したが、日本ダービーでは皐月賞の上位2頭に人気を譲り、6.4倍の3番人気となる。それは青葉賞の勝ち馬からダービー馬が出ていないということのほかに、馬場悪化が予測される中、やや重のすみれSで唯一の敗戦を喫していたということもあっただろう。個人的にも3番手という評価だった。

    前日の雨により重馬場となったダービー当日、横山典騎手は内枠3番のゼンノロブロイを包まれることを嫌ったのか、いつもより前目のやや離れた2番手につける。直線は思い切って馬場の良い外に出して懸命にゴールを目指す。しかし多くの馬が外目を通る中、空いた内をついて伸びてきた1番人気のネオユニヴァースに残り300mぐらいで交わされると、1/2馬身差2着に惜敗した。だが最後は差し返す場面もあり、決して悲観する内容ではなかった。

    秋初戦はアメリカの名手デザーモ騎手を鞍上に迎えて神戸新聞杯に出走した。中団から直線は外に出すと素晴らしい末脚を見せて後続を突き放し、皐月賞2着で札幌記念勝ちのサクラプレジデントに3 1/2馬身差をつける快勝。3着ネオユニヴァース、4着リンカーン、5着ザッツザプレンティと春の実績馬相手に快勝したことで、次の菊花賞に向けて期待が高まった。

    菊花賞ではペリエ騎手騎乗で2.5倍の2番人気。1番人気は僅差ではあったが3冠馬を目指すネオユニヴァース(2.3倍)が支持された。その理由としては、ゼンノロブロイの母がアメリカでおもに短距離レースを使われていたように、血統的にスピードタイプと思われていたこともあった。個人的にも距離不安からやはり3番手評価だった
    レースでは中団につけるも、3コーナーから馬群につつまれて4コーナーでは後方にさがってしまう。それでも直線は鋭い脚で追い込んできたが、先に抜け出したザッツザプレンティ、リンカーン、ネオユニヴァースを捉えられず4着。神戸新聞杯では下した馬たちに先着され、悔しい結果に終わった。しかし個人的には距離を克服したことで、逆に評価は上がった。

    続く有馬記念は柴田善騎手に乗り替わり、3歳では最上位の3番人気となるが、同厩舎の先輩シンボリクリスエスには9 3/4馬身突き放され、同じ3歳のリンカーンも捉えられず3着に終わった。

    ゼンノロブロイ ゼンノロブロイ 2003年12月28日 有馬記念出走時 中山競馬場


    3歳時はG2を2勝したものの、G1は2,4,3着と好走するも勝ちきれず、善戦マン的なキャラクターとなっていった。

    4歳(2004年)

    その善戦マンぶりは古馬になっても変わらず、初戦の日経賞は1.1倍の1番人気に推されたが、逃げたウインジェネラーレをクビ差捉えられず2着。続く天皇賞(春)はオーストラリアの名手オリバー騎手に乗り替わるも、逃げたイングランディーレに7馬身突き放されて再び2着。さらに田中勝騎手が乗った宝塚記念でも3.9倍の2番人気となるが、好位から伸び一息で3馬身差4着。
    残念ながら勝ちきれない馬という評価が定まっていった。

    さらに秋初戦の京都大賞典では岡部騎手騎乗で1.4倍の1番人気となるが、いったん抜け出して久々の勝利かと思ったものの、後方から追いこんできたナリタセンチュリーにクビ差かわされてまたも2着。なかなかトンネルから抜け出せない状況が続いた。

    それでも続く天皇賞(秋)では、その堅実さが評価され、再びペリエ騎手に鞍上が戻ったこともあり、3.4倍の1番人気となる。
    当面の相手は毎日王冠を勝った前年のNHKマイルCの勝ち馬テレグノシスや、その年の安田記念を勝ったツルマルボーイだったが、いずれもマイルが得意な印象で、2000mならゼンノロブロイの方が上という評価もあっただろう。
    パドックで見たゼンノロブロイは堂々と落ち着いて周回しており、締まった馬体でトモの踏み込みも力強く、抜けて良く見えた。そこで個人的にもゼンノロブロイ本命で臨んだ。

    スタートでやや後手を踏んだゼンノロブロイは後方から進めるが、道中は徐々にポジションをあげてゆき4コーナーは中団の内目。直線はやや外目に持ち出すと、直線はすばらしい伸びを見せて先行する内の各馬を抜いていく。
    最後は先に抜け出していた同厩の桜花賞馬ダンスインザムードを1歩ずつ追い詰め、ゴール前で交わすと1 1/4馬身差で初のG1勝利をつかみとった。

    続いてジャパンCに出走する。この年は外国馬にめぼしい馬が不在で、ゼンノロブロイは引き続き2.7倍の1番人気。皐月賞2着の地方馬コスモバルクやダービー2着馬ハーツクライ、菊花賞馬デルタブルースなどの3歳馬が続く人気となった。
    パドックで見たゼンノロブロイは、天皇賞(秋)同様に良く見え、好調を維持している印象だった。

    ペリエ騎手はゼンノロブロイを中団につけ、直線は外目に出して残り400mで追い出すと、じりじりと末脚を繰り出して残り200m手前で先頭に立ち、あとは後続を離す一方の横綱相撲。それまでの惜敗続きが嘘のように、コスモバルクに3馬身差をつける圧勝だった。天皇賞(秋)に続いてペリエ騎手とルメール騎手のワンツーとなり、ゴール後は馬を寄せていってハイタッチでお互いの健闘をたたえあっていた。

    これでゼンノロブロイはG1連勝。天皇賞(秋)からジャパンCの連勝はスペシャルウィーク(1999年)、テイエムオペラオー(2000年)に続く史上3頭目の快挙となった。またペリエ騎手のジャパンC制覇はジャングルポケット(2001年)以来の2勝目で、藤沢和師は初勝利となった。

    そして次走は秋の古馬G1 3連勝を目指して有馬記念に出走することになり、2.0倍の1番人気となる。コスモバルクや前年のジャパンCとその年の宝塚記念を勝ったタップダンスシチーが続くが、やや離れており1強の評価だった。
    やはり気になるのはG1を連勝した疲れだったが、さすが藤沢和厩舎という感じで、パドックで見たゼンノロブロイはリズミカルな歩様と適度な気合乗り、充実した馬体が印象的で、疲れは感じさせず、抜けて良く見えた。

    レースではタップダンスシチーが押してハナを切り、スタート今一つのゼンノロブロイだったが内から上がっていくと、最初の直線では2番手につけて、逃げるタップダンスシチーをマークする。そのまま2馬身差でタップダンスシチーについていくと、最後の直線では逃げ込みを図るタップダンスシチーにじりじりと迫り、残り100mで捉えると最後は1/2馬身交わして1着でゴール。タイムは2.29.5のコースレコードかつJRAレコードという優秀なものだった。

    これで見事に秋の古馬中長距離G1 3連勝を飾った。これはテイエムオペラオー(2000年)に続く史上2頭目の快挙。またペリエ騎手、藤沢和調教師ともに、シンボリクリスエスによる連覇に続く3連覇となった。

    秋が始まるまではG1未勝利馬だったゼンノロブロイだが、この快挙により満票での最優秀4歳以上牡馬、および圧倒的票数による年度代表馬選出となった。

    5歳(2005年)

    有馬記念の後は放牧に出て、5歳シーズン前半は休養に充てて秋に再びG1を狙う予定もあったようだが、8月にイギリスで行われるインターナショナルSを目指すことになり、その前哨戦としてG1 4連勝をかけて宝塚記念に出走した。

    再びデザーモ騎手が騎乗したゼンノロブロイは、金鯱賞を勝って宝塚記念連覇を目指すタップダンスシチーに続く3.0倍の2番人気。その理由としては前年4着に敗れていることや、基本的に叩き良化型ということもあったのだろう。

    パドックで見たゼンノロブロイは、毛づやや馬体は良いものの、ややトモの踏み込みが甘い感じで集中力を欠く面もあり気になった。
    レースでは中団の内を追走し4コーナーでは内から先団につけるも、前のコスモバルクの手ごたえが早めに悪くなり、それを避けるために外に持ち出すロス。そこから懸命に脚を伸ばすも、スイープトウショウ、ハーツクライには切れで劣って3着まで。連勝は3でストップしてしまう。

    次走は日本馬として初めてG1インターナショナルS(英・ヨーク競馬場 芝2080m)に武豊騎手鞍上で出走する。
    後方6番手から進めたゼンノロブロイは、直線馬群をこじ開けるように伸びてくると、残り100mで4頭横並びながら2番手に上がる。最後までよく伸びたが、ゴール直前で外からエレクトロキューショニストに差されてクビ差2着惜敗に終わった。

    帰国したゼンノロブロイは、天皇賞(秋)に直行し、日本ダービー以来の横山典騎手とのコンビで出走する。実績と安定感が評価されて2.2倍の1番人気。
    超スローペースを中団で追走し、直線は外から伸びてゴール直前で先頭に立つも、内から急追してきたヘヴンリーロマンスにアタマ差かわされて2着に終わった。
    ヘヴンリーロマンスは前走札幌記念を勝っていながら14番人気と人気薄だったが、パドックではとても良い状態に見えた。しかし相手が著しく強化されるので無理だろうと決めつけて、ゼンノロブロイから流していながら切ってしまい、とても悔しい思いをしたことを覚えている。

    続いてジャパンCに出走したゼンノロブロイは、安定感を買われて、引き続き2.1倍の1番人気。パドックで見た状態もとても良さそうで、個人的にも本命とした。
    タップダンスシチーが速いペースで逃げる展開の中、デザーモ騎手鞍上のゼンノロブロイは後方から進め、直線は外から追いこんで、内から抜けてきたデットーリ騎手騎乗のアルカセットと馬体を合わせて伸びるが、残り100mで失速し、ハーツクライにもかわされて3着に終わった。

    この年、未勝利のまま最後のレースである有馬記念に臨むことになったゼンノロブロイ。前年のG1 3連勝には及ばないものの、G1を4戦してすべて3着以内は立派な成績ではあった。しかし勝ちきれないのは事実で、ファンはその評価に大いに悩むことになった。

    ここで1.3倍の圧倒的1番人気に支持されたのは、この年無敗の3冠馬になったディープインパクト。初の古馬との対戦ではあったが、その圧倒的な勝ちっぷりが評価された結果だった。そしてゼンノロブロイはやや離されたものの6.8倍の2番人気。最後に前年の年度代表馬の意地を見せてくれることを期待したファンも多かったのだろう。

    しかし中団の内を進むゼンノロブロイの手応えはあまり良くない。4コーナーからデザーモ騎手が必至にムチを入れて追うものの、いつもの伸びは見られない。
    先行して抜け出したハーツクライにディープインパクトの末脚及ばず2着に敗れるという衝撃の結果の中、ゼンノロブロイは初めて掲示板を外す8着だった。スタートでぶつけられた影響もあったようだが、最終戦は残念でさみしい結果に終わった。

    その後、正式にJRAから登録抹消の発表があり、有馬記念を最後に引退することとなった。

    競走馬としての総括および種牡馬として

    ゼンノロブロイは4歳秋に史上2頭目となる古馬中長距離G1 3連勝を達成し、その偉業はたたえられるべきだと思う。それは馬自身力がある上にタフであったこともあるが、陣営の調教技術の高さの証明でもあるだろう。
    現在ではイクイノックスのように実力馬は厳しいローテーションを避ける傾向が強く、凱旋門賞など海外に目を向ける陣営が多いこともあり、今後達成する馬はなかなか現れないかもしれない。
    しかし3歳時も5歳時も、基本的に勝ちきれないというイメージからは脱却できなかった。G1で3・4・3・3という成績は立派で、安定感はすばらしいが、もう少し勝てたのではというもどかしさも感じさせる

    ゼンノロブロイは社台スタリオンステーションで種牡馬入りし、その後ニュージーランドとのシャトル種牡馬になったりもしたが、2016年にはブリーダーズスタリオンステーションに移動した。
    初年度産駒からはサンテミリオン(2010年オークス)、マグニフィカ(2010年ジャパンダートダービー)と2頭のG1馬を含み、ペルーサ(2010年青葉賞)、アニメイトバイオ(2010年ローズS)、マカニビスティー(2010年東京ダービー)など中央地方あわせて7頭の重賞勝ち馬を輩出。
    サンデーサイレンス後継として将来が期待されたが、結局その後にG1勝ち馬を出すことはなかった。サンデーサイレンス産駒のライバルが多い中、やや地味で短距離血統の母系も影響したのかもしれない。徐々に種付け頭数も減って、2021年からはプライベート種牡馬として村上欽哉牧場で繋養。2023年9月2日に老衰による心不全で死亡した。

    ゼンノロブロイには、2019年に馬産地巡りをしたときにブリーダーズスタリオンステーションで会っている。ほかの馬たちが厩舎内にいるなか、なぜか1頭だけ放牧地にいて、うつらうつらとしていた。その後見学者が集まってくると、動じずに堂々とポーズをとって、さすがG1馬という貫録を感じさせられたことを覚えている。

    ゼンノロブロイゼンノロブロイゼンノロブロイ ゼンノロブロイ 2019年8月25日 ブリーダーズスタリオンステーション


    残念ながら後継種牡馬は生み出せず、ブルードメアサイアーとしての実績も今一つで、血統的には消えていく運命かもしれない。しかし4歳秋に見せた強さと、生涯の安定感は語り継いでいきたい。