今年のG1を締めくくる2歳中距離G1のホープフルS。出走馬の顔ぶれを見ていて気になったのは、有力馬にキタサンブラック産駒が目立ったことでした。出走頭数でみると18頭中3頭とドゥラメンテと並んで最多タイではあるのですが、ドゥラメンテ産駒が4,8,12番人気なのに対して、キタサンブラック産駒は1,3,5番人気と上位を占めていたのです。
キタサンブラック産駒と言えば、2019年生まれの世代からはイクイノックス、2020年生まれの世代からはソールオリエンスと、2頭のG1馬をそれぞれの世代で輩出しているものの、ディープインパクト産駒のように数多くの優秀馬を生み出すのではなく、少数の強い馬が引っ張っていくという印象があります。
つまり当たり外れが大きい種牡馬ともいえるでしょう。
実際に2021年生まれの世代からは、重賞勝ちはクリスマスパレードの紫苑Sのみ(2024年12月22日時点)と、前2世代とは差がついているように思えます。
そして今年の2歳世代(2022年生まれ)の種付けが行われた2021年春には、まだ初年度産駒は走り出していなかったので、生産者も様子見という感じだったのではないでしょうか。そんな中でも有力馬をG1に複数送り出してきたのですから、キタサンブラックの種牡馬としての期待は、ますます上がっていくのではないかと思います。
1番人気になったのは、6月の東京芝1800m新馬戦で、新馬戦史上最速タイムで勝ち上がり、2戦目の東スポ杯2歳Sも快勝して2戦2勝のクロワデュノールでした。
東スポ杯は実際に見に行ったのですが、先行して1番の上りで逃げ馬を交わして勝つという、ある意味優等生的な勝ち方でした。しかし逃げた2着馬との着差が3/4馬身差ということで、物足りなさも感じたのです。ただし新馬戦から5か月の休み明けで、それもあって+24kgと余裕残しでありながら、きっちりと勝ちきったことは価値が高いと思います。実際に今回は-8kgと絞ってきて、調教の様子も上々でした。
またパドックでも落ち着いて素軽い歩様で、トモの踏み込みも力強く、とても良く見せていました。
3番人気は、7月に福島芝2000m新馬戦を逃げて1番の上りで7馬身突き放すという派手なデビューを飾り、2戦目のアイビーSは最後に競り負けたものの1 1/2馬身差2着に入ったピコチャンブラック。
やや外枠になったことが心配ではありましたが、こちらも調教がよく、鞍上に川田騎手を配してきたことからも、勝負気配が感じられました。
5番人気になったのは、武豊騎手のJRA平地G1完全制覇を託されたヤマニンブークリエ。前走京都芝2000m1勝C黄菊賞で逃げて、朝日杯FS2着のミュージアムマイルには交わされたものの2着に粘りました。
個人的には黄菊賞の走りが評価できなかったのですが、パドックでは引き締まった馬体で、トモの踏み込みも力強く、よく見せていました。
この中で注目はやはりクロワデュノールでしょう。最終的に1.8倍と圧倒的な人気となり、さすがにちょっと見込まれすぎではとも思いましたが、素晴らしいレースを見せてくれました。
1番の好スタートをきったクロワデュノールですが、抑えて馬場の良い外目の中団を進みます。1000m1.01.4とやや遅めの流れで行きたがる馬も多い中、折り合って淡々と進みますが、向こう正面でファウストラーゼンが外を通って一気に先団まで押し上げていくと、つれて外からポジションを上げて行きます。
4コーナーでは前を行く2頭を追って3番手に上がると、直線は馬場中央で末脚を発揮。残り200m過ぎでジュンアサヒソラ、ファウストラーゼンを交わして先頭に立つと、北村友騎手はムチを入れずに追うだけで、後続を突き放していきます。
最後は外から差してきたジョバンニに2馬身差をつける圧勝。無敗の3連勝でのG1制覇となりました。
残念ながらピコチャンブラック13着、ヤマニンブークリエ14着と、あとの2頭は良い成績を残すことができませんでした。このあたり、1頭だけ突出した馬を出すという、キタサンブラックの特徴が出ているのでしょうか。
12月22日時点のJRAでの2歳馬リーディングサイヤーを見てみると、キタサンブラック産駒は35頭出走して11勝で7位という成績。上位のキズナ、モーリス、エピファネイアはいずれも倍近く、あるいはそれ以上の産駒が出走しているので、入着賞金順では仕方ないのですが、アーニングインデックスは10頭以上の産駒が出走している種牡馬の中では、キズナの2.21を上回る2.26で1位。クロワデュノールのホープフルS勝ちでさらに上がるでしょうから、これは価値があることだと思います。
イクイノックスと比べるのはさすがに気が早いですが、来年の牡馬クラシックはおそらくクロワデュノールが中心になって展開されていくでしょう。
さらにピコチャンブラックやヤマニンブークリエの巻き返しも期待できるかもしれないですし、他にも函館2歳Sを勝ってBCジュヴェナイルターフに挑戦したサトノカルナバル、11月の京都芝2000m新馬戦を3 1/2馬身差で快勝したエコロディノス、2週間前の中山芝2000m新馬戦で1.9倍の人気に応えて勝ったトリプルコークなど、楽しみなキタサンブラック産駒も控えています。
キタサンブラック産駒の本格的なブレイクは、イクイノックス活躍後に種付けされた来年の2歳馬以降と思っていたのですが、意外と早く始まるのかもしれません。
そしてクロワデュノールに騎乗した北村友一騎手ですが、2020年の有馬記念をクロノジェネシスで勝って以来4年ぶりのG1制覇となりました。
この間、2021年5月には落馬事故で複数の骨折を負い、復帰まで1年1か月戦列を離れるということもありました。その後もなかなか本調子というわけにはいかなかったようで、ようやく今年になって重賞で再び上位に来るようになっていました。
そんな中での久々のG1制覇ということで、インタビューでは途中から涙をこらえられなくなっていましたが、日ごろの頑張りがようやく実を結んだということでしょう。
JRAのG1は6勝していますが、まだクラシックは手にしていない北村友騎手。クロワデュノールと臨む来年は大きなチャンスとなると思います。このまま無敗で行けば大きな話題になるでしょうし、期待もますます盛り上がっていくと思います。
まずは次走どのレースでどんな走りを見せてくれるか、期待して待ちたいと思います。