ダート馬といえば、芝に比べて息長く活躍する馬が多い印象です。G1(Jpn1含む)勝利数でみても、芝ではアーモンドアイの9勝がトップですが、ダートではそれ以上の馬が4頭います。ダートの場合交流重賞が多いという事情もありますが、長く丈夫で活躍してこそともいえるでしょう。
たとえばG1 11勝のコパノリッキーは7歳最後の東京大賞典を勝ってその偉業を達成しましたし、G1 10勝のホッコータルマエも7歳1月の川崎記念で達成。G1 9勝のヴァーミリアン、エスポワールシチーはいずれも8歳まで走り、4頭とも30戦以上(エスポワールシチーは40戦)も走るという、無事これ名馬を実践した馬たちでした。
しかしチャンピオンズCは2014年にジャパンカップダートから名称変更されてから、1頭も連覇した馬はおらず、またジャパンカップダート時代も2010,2011年に連覇したトランセンドだけ(ほかにカネヒキリが2005,2008年と隔年で2勝)と不思議な状況が続いてきたのです。
ホッコータルマエはチャンピオンズCになった初年度の2014年に勝っていますが2015年は2番人気で5着。以下連覇を含む2勝目を狙った馬たちの成績は、こんな感じです。
サウンドトゥルー 2016年1着 2017年11着(2番人気)
ゴールドドリーム 2017年1着 2019年2着(1番人気) 2020年2着(3番人気)
クリソベリル 2019年1着 2020年4着(1番人気)
チュウワウィザード 2020年1着 2021年2着(3番人気)
テーオーケインズ 2021年1着 2022年4着(1番人気) 2023年4着(4番人気)
サウンドトゥルー以外は次年度以降もいい勝負をしているのですが、2勝目は遠かったのです。
そして今年その偉業に挑戦したのがレモンポップでした。
ドバイとサウジアラビアに遠征した2戦はともに2桁着順と残念ながら結果が出なかったものの、これまで国内では15戦して12勝2着3回で連対率100%。特にG1は昨年のチャンピオンズCを含めて5戦すべて1着とすばらしい成績をおさめてきました。
そして今回のチャンピオンズCを最後に引退するということで、レース後には引退式も予定されており、陣営としても負けられない気持ちが強かったでしょう。
ところがレモンポップにとって、チャンピオンズC連覇は決して容易な戦いではありませんでした。
まず距離があります。戦績を見てもレモンポップが得意とするのは1400~1600mで、昨年は1800mをこなしているとはいえ、得意な舞台ではないのです。
また前哨戦のマイルチャンピオンシップ南部杯において、昨年は2着馬に2秒の大差をつけて逃げ切ったのですが、今年はフェブラリーSを勝ったペプチドナイルに3/4馬身差に迫られる辛勝。管理する田中博師のコメントも慎重なものが多く、昨年よりは状態的にも落ちるのではないかという見方も多くありました。
それに加えて先行脚質の馬が多く、逃げ切り勝ちを理想とするレモンポップにとって、道中競りかけられてペースが上がることは避けたいのが本音だったでしょう。
レースでは、2番という絶好枠から好スタートを切ったレモンポップを、坂井騎手が押してハナに行きます。外から逃げ宣言をしていたミトノオーが並びかけてきますが譲りません。そうすると2コーナーすぎにミトノオーの松山騎手が抑え気味に下がり、レモンポップは3/4馬身差で楽に逃げます。コリアCを逃げ切ったクラウンプライドや南部杯で食い下がったペプチドナイルも2馬身後方を追走。1000mは1.00.8と逃げ切った昨年と全く同じペース。この時点でレモンポップにとっては理想的な展開になりました。
楽な手応えで先頭に立ったまま4コーナーで追い出すと、直線では2馬身ほど突き放します。2番手はペプチドナイルですが、4コーナーまでの手応えほどは追い出してからは伸びません。逆にレモンポップはどんどんと後続を突き放していきます。残り200mでは2 1/2馬身ほど突き放して先頭。この時点で楽勝かと思ったのですが、大外からすばらしい末脚でウィルソンテソーロが伸びてきます。最後はレモンポップとウィルソンテソーロが並んだところがゴール。写真判定の結果、レモンポップが1着となりました。
驚いたのは、写真判定の結果が出る前に、坂井騎手が芝コースをウイニングランしてきて、スタンドの観客に向けてレモンポップを指さし、称賛を求めていたことでした。よほど自信があったのでしょうが、結果が出た瞬間は大きくガッツポーズをして喜びを表していました。
これでチャンピオンズCになってからレモンポップが初めての連覇を達成。連覇はないという前提で、馬券ではレモンポップを外して買っていた人も多かったと思いますが、そんなジンクスも軽く乗り越えてしまうほどの強さを見せてくれました。
個人的にレモンポップを初めて生のレースで見たのは、2022年10月30日のペルセウスSでした。イクイノックスが勝った天皇賞(秋)の1つ前のレースで、パドックでの堂々とした歩様と、4馬身差をつける勝ち方が強く印象に残りました。
さらに根岸Sでの初重賞制覇と、フェブラリーSでの初G1制覇も応援していたので記憶に新しいのですが、その後は残念ながら生で見る機会はありませんでした。
しかし今日のパドックでの堂々と落ち着いた態度と、力強く深い踏み込みのトモ、すばらしい毛ヅヤの迫力ある馬体は、まさに王者にふさわしいものだったと思います。
JRAで現役のレモンドロップキッド産駒は、レモンポップが最後のようです。デイモン・ラニアンの短編小説「レモンドロップキッド」からその名を取ったと聞いて興味を持ったのですが、最後に日本ですばらしい産駒を出したということで、いっそう印象に残る父子となりました。
今後レモンポップの産駒が活躍して、レモンドロップキッドの名前を長く残していくことを期待したいと思います。