今年のジャパンCはヨーロッパを代表する3頭のG1ホースが来日して、久しぶりに外国馬対日本馬の対戦が盛り上がりました。その中でも目玉は、ディープインパクトの数少ないラストクロップの中で、愛・英両ダービーを制覇し、さらにチャンピオンS、BCターフと世界的なG1を制したアイルランドのオーギュストロダンでした。世界的な名馬を日本で見られるということで、来日が決まった時には思わず興奮したものです。そしてジャパンCのレース後には、東京競馬場のウィナーズサークルで引退セレモニーを行うということで、より印象に残る馬となりました。
また今年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを勝ったフランスのゴリアット、バーデン大賞を勝ったドイツのファンタスティックムーンもビッグネームと言えます。
そんな海外の一流馬を迎え撃つ日本の代表は、やはりドウデュースでしょう。
ドウデュースは日本ダービーに加えて4歳時に有馬記念を制して、その時点ですでに立派なスターホースでした。さらに今年の天皇賞(秋)を勝ったことで、2歳から5歳まで毎年G1を勝つという快挙も達成。しかし同期のイクイノックスに比べると、どうしても評価が落ちる面があるのは否めなかったと思います。
その原因は、やはり安定感のなさではないでしょうか。
イクイノックスはクラシックこそ勝てずに、皐月賞も日本ダービーも2着に終わります。しかし3歳で天皇賞(秋)を勝つと、そこからG1を6連勝。世界No.1ホースとなって、最後のレースとなった昨年のジャパンCも快勝し、結局生涯10戦8勝で1度も連対を外さないという素晴らしい成績で引退していきました。
それに対してドウデュースは、デビュー3連勝で朝日杯FSを勝ったものの、弥生賞2着、皐月賞3着といずれも1番人気で敗退。日本ダービーではイクイノックスを抑えて見事に勝ったのですが、秋のフランス遠征ではいいところなく、凱旋門賞は20頭立て19着と惨敗してしまいます。
4歳初戦の京都記念は快勝して、さすがダービー馬という姿を見せたのですが、遠征したドバイでは取り消しとなって出走できず、さらに天皇賞(秋)の当日に武豊騎手が騎乗馬に蹴られるアクシデントもあって、乗り替わった天皇賞(秋)は7着、ジャパンC4着と敗退。それでも有馬記念を制して、再び強い姿を見せてくれました。
しかし5歳となった今年、昨年のリベンジを期したドバイターフは前が詰まる不運もあって5着に敗退し、さらに帰国初戦の宝塚記念は重馬場もあり6着。なかなか波に乗れない姿を見せてしまいます。
秋は国内に専念することとなり、秋古馬三冠制覇を目標に、前走天皇賞(秋)ではスローを後方から進めながらも、直線はすばらしい末脚を見せて全馬を差し切って1着。連勝をかけてジャパンCに出走してきました。
しかしここで懸念したのが、ドウデュースは3歳以降1度も連勝していないという事実でした。日本ダービーのあとは、2戦おきに勝っているものの、間の2戦は3着にも入れないという状況だったのです。もちろんそれぞれに理由はあるのですが、イクイノックスの安定感と比べると、どうしても見劣りしてしまいます。
そしてジャパンCでの個人的な一番の疑問は、はたしてドウデュースは3年ぶりに連勝することができるかということだったのです。
ドウデュースの1週前追い切りの動きは素晴らしく、毛ヅヤも良くて体調の良さがうかがえました。しかし登録メンバーを見ると逃げ馬不在で先行馬も少なく、ペースが落ち着くことが考えられます。前走はスローにもかかわらず後方から差し切ったのですが、再度同じパフォーマンスを見せられるかは、やはり心配になります。
武豊騎手もインタビューで、後方から行く馬なので、早めに対応していく必要があるということを話していました。
個人的にはどうしてもそのあたりの懸念がぬぐえず、力があることは認めつつ、かつベテラン武豊騎手の対応力もわかっていながら、事前の予想では本命にはしなかったのです。
ところがパドックでその姿を見て、考えを変えざるを得ませんでした。ドウデュースは天皇賞(秋)もすばらしい状態だと思いましたが、ジャパンCではさらに上向いているように見えたのです。クビを使ってリズミカルに歩き、毛ヅヤはぴかぴかで、トモの運びはなめらかで踏み込みも深く、まさに理想的なサラブレッドの姿という感じでした。
レースでは好スタートを切ったドウデュースを、武豊騎手は意図的に下げて後方から2,3番手を追走。逃げ馬不在でスローは予想されていたものの、1000m1.02.2と予想以上の遅い流れに。向こう正面では行きたがるドウデュースを武騎手が懸命に抑えます。3コーナー過ぎに外に出すと、一気に上がっていって4コーナーでは中団の大外につけます。
レース後のインタビューで武騎手は、促したら一気に行ってしまったと言っていましたが、馬が走りたがっていたということなのでしょう。そのまま追い出すとぐんぐん加速し、残り400mでは3番手の外。そこから先に抜け出した内のドゥレッツァと、内外離れての追い比べになります。残り200mでドゥレッツァを捉えて先頭に立つも、ドゥレッツァも譲らず、さらに内からシンエンペラーも迫ってきます。
しかしゴール直前で抜け出したドウデュースがクビ差で1着。2着はシンエンペラーとドゥレッツァの同着となりました。
早めに前を捉えに行ったので、並の馬なら最後は失速しただろうと武騎手も言っていましたが、そこは馬の力と状態の良さが合わさって、勝ちにつながったのでしょう。
これでG1連勝を飾り、いよいよ有馬記念で秋古馬三冠に挑むことになります。もし勝てば、テイエムオペラオー(2000年)、ゼンノロブロイ(2004年)に続く史上3頭目の快挙となります。
そしてG1 6勝とイクイノックスに並ぶことになるのですが、秋古馬三冠を達成できれば、ある意味イクイノックスを超える快挙ともいえるわけで、真のスターホースと言ってもいいのではないでしょうか。
この秋古馬三冠に報奨金が出るようになったのは2000年からなのですが、2冠を勝って3冠目に挑戦したのが上記の2頭以外には、報奨金制度ができる前年のスペシャルウィーク(有馬記念はグラスワンダーの2着)しかおらず、近年は挑戦する馬自体がいないのです。
2020年のアーモンドアイも、昨年のイクイノックスも2冠を勝ったにもかかわらず、有馬記念は出走せずに引退を選択しました。中山の適性もありますが、それだけ負担が重いということなのだと思います。そういう意味では、挑戦するだけでもすごいことだと言えるでしょう。
天皇賞(秋)の1 1/4馬身差が、ジャパンCではクビ差となり、さらにフレッシュな状態で有馬記念に挑戦してくる馬も多いので、勝つことは簡単なことではないと思います。ただ昨年は上手にまくって勝っており、中山に必要な器用さを持ち合わせていることは確かでしょう。
ドウデュースは今年G1 2勝をあげ、同じG1 2勝のチェルヴィニアを破ったことから、年度代表馬の称号もぐっと手繰り寄せることになりました。それを確定させるためにも、ぜひ有馬記念での活躍を期待したいと思います。