今年のNHKマイルCは、史上初めて前年の2歳牡牝チャンピオンがともに参戦するということで話題になりました。今までもアドマイヤマーズ(2019年)やメジャーエンブレム(2016年)など、どちらかが参戦したことはありましたが、ともに顔をそろえたことはなかったのです。
最優秀2歳牡馬に選ばれたジャンタルマンタルは、新馬、デイリー杯と連勝して1番人気で臨んだ朝日杯FSを1 1/4馬身差で完勝。
3歳になって初戦の共同通信杯は2着に敗れたものの、3番人気で臨んだ皐月賞は、いったん直線で完全に抜け出し、勝ったと思ったところをゴール直前で差されて3/4馬身差3着という強いパフォーマンス。時計もレコードの1.57.1から0.1秒差と優秀なものでした。
最優秀2歳牝馬に選ばれたアスコリピチェーノは、新馬、新潟2歳Sと連勝して3番人気で臨んだ阪神JFで、中団から脚を伸ばしてクビ差の1着。
直行した桜花賞では、4コーナーの位置取りの差でステレンボッシュに雪辱を許したものの、3/4馬身差2着と堂々としたレースぶりでした。
ともにクラシック2冠目を十分に狙える位置にいたと思うのですが、マイルの方がより合っているという陣営の判断で、NHKマイルCに回ってきたのでしょう。
NHKマイルCといえば、創設当初はクラシックに出られない外国産馬の活躍の場として、いわゆるマル外の馬たちが上位を席巻していたのですが、その後は距離適性からマイル前後を得意とする3歳馬たちが狙うレースとなっていました。
しかし関係者としてみれば、少しでも可能性があるのなら、一生に一度しか出られないクラシックの華であるダービー、オークスを狙いたいというのは、正直な想いでしょう。そのためどうしてもレベル的にはやや落ちるメンバー構成となっていたことは否めないと思います。
それもあってか、過去10年で1番人気は2勝2着2回で連対率は30%と信頼度は低く、3回は1番人気のオッズが4倍を超えるという状況だったのです。
もちろん1番人気の単勝オッズが低いから固く収まるというほど単純な話ではなく、2019年には単勝1.5倍のグランアレグリアが5着(4位入線から降着)に敗れています。
しかし今年は単勝2.9倍で並んだ2頭のG1ホース、ジャンタルマンタルとアスコリピチェーノのワンツーで決まりました。
予想に当たっては2頭のうちどちらを上位にとるかが問題だったのですが、当初はジャンタルマンタルが驚異的なレコードの3着に入ったことの反動があるのではないかと、アスコリピチェーノを上位に考えていました。
しかし遊びながらの余裕の走りから、後半で本気を見せた調教の様子と、伸びやかで落ち着いた歩様を見せるパドックの状態から、疲れは微塵も感じさせず、最終的にはジャンタルマンタルを上位にとることにしたのです。
ジャンタルマンタルは1番の好スタートからやや下げて、好位の外を追走します。3コーナーからじわじわとポジションをあげていくと、4コーナーは3番手。残り300mで追い出すとすぐに先頭に立ち、後続をどんどん突き放していきます。残り100mでは2番手ロジリオンを3馬身ほど離してセーフティリード。
最後は内ラチ沿いから追いこんできたアスコリピチェーノに2 1/2馬身差をつける完勝でした。
対するアスコリピチェーノは、スタートを五分に出ると、ジャンタルマンタルのすぐ内で見る位置につけます。ところが直線に入ると、前のマスクオールウィンの後ろで外からジャンタルマンタルにふたをされるような形になって進路を失い、仕方なく内に進路を取ろうとします。しかしマスクオールウィンも内に動いたことで、自らも大きく不利を受けるとともに、さらに内ラチ沿いにいたキャプテンシー、ボンドガールの進路をふさいで不利を与えてしまい、大きくスピードを落とす形になります。
そこから立て直して前を追うものの、スムーズに抜け出したジャンタルマンタルははるか前方。それでも内ラチ沿いから脚を伸ばし、ロジリオンを交わしてなんとか2着は確保しました。
不利がなければ、ジャンタルマンタルとはもっと接戦に持ち込めたと思われ、敗れはしたものの、その勝負根性はすばらしく、あらためて能力の高さを感じさせました。
残念ながら大きく不利を受けた馬が数頭いて後味の悪い結果ではありましたが、2強と目された強い2頭が、その力を十分に見せたという意味では、見ごたえのあるレースでした。
おそらく今後のマイル路線を引っ張っていくであろう2頭の最初の対決ではありましたが、まだ決着がついたとは言えないと思います。今後の対戦が楽しみになりました。
そしてもう一つ、早朝に行われたケンタッキーダービーが、印象的なレースで感動させられました。
今年は無敗の日本馬2頭が挑戦したのです。
1頭は5戦無敗のフォーエバーヤング(2番人気 以下JRAの単勝人気)。JBC2歳優駿と全日本2歳優駿を制すると、サウジダービーとUAEダービーと海外を転戦してどちらも差し切り勝ち。矢作厩舎の主戦ジョッキーである坂井騎手鞍上で臨みます。
もう1頭が2戦無敗のテーオーパスワード(13番人気)。伏竜Sを逃げ切って権利を得ると、カナダで活躍する木村和士騎手鞍上で挑戦しました。
スタートで後手を踏んだ2頭は後方から進めます。それでもフォーエバーヤングは外を通って少しずつポジションをあげてゆき、3コーナー過ぎからは懸命に押して外を追い上げると、4コーナーでは先団に並びかけます。
直線は外から並びかけてきたシオラレオーネ(3番人気)と派手に馬体をぶつけながらの懸命の追い比べとなり、先に抜け出したミスティックダン(10番人気)を2頭で追います。じりじりと差を詰めていくと、最後は3頭が並んだところがゴール。
クビの上げ下げの勝負となりましたが、残念ながら1着ミスティックダン、2着シオラレオーネ、3着フォーエバーヤングと、それぞれハナ差での決着となりました。
ちなみにテーオーパスワードも着差はあったものの、5着に追いこむ快挙でした。
アメリカ3冠レースといえばタフな競馬でかつスピードも要求され、日本馬で対応するのは難しいのではと思っていました。しかし海外転戦で結果を残してきたフォーエバーヤングは、初めてのアメリカのダートにもしっかり適応し、かつ激しく馬体をぶつけ合う勝負にもひるまずに挑んでいったのです。
残念ながら勝てはしませんでしたが、快挙まであと1歩と迫った姿には、とても感動させられましたし、その強さを証明するレースになったと思います。
1995年スキーキャプテンの挑戦に始まり、2019年マスタフェンサーと昨年デルマソトガケの6着という成績にも驚かされたのですが、ついに勝利が見える位置まで来たといえます。
2021年にマルシュロレーヌがBCディスタフを勝って、ついに日本調教馬が本場アメリカダートG1を制したのですが、次はクラシックを勝つ日が来るかもしれません。今回の挑戦を糧に、来年以降もチャレンジし続けていけば、いつかは快挙達成が現実になることを期待させられました。