毎年今年こそはと言われながら達成できていなかったのが、武豊騎手の朝日杯FSの勝利でした。G1の中で特に難しいわけではないでしょうし、ダービーのようにみんなが目の色を変えて取りに来るレースでもないので、単にめぐりあわせの問題なのでしょうが、いわゆる七不思議のひとつのような扱いになっていました。
武豊騎手の不思議と言えば、かつては得意な京都マイルで行われるマイルCSを勝てないことでしたが、2012年にそれまで20戦未勝利だったのをサダムパテックで勝つと、翌年はトーセンラーで連覇して、それまでのうっ憤を晴らしました。
その後は朝日杯FSが、次の焦点となっていたのです。
初めてG1を勝ったのが19歳の菊花賞。それから33年間で重ねてきたJRA G1勝利は77。しかし21回騎乗した朝日杯FSでは5回の2着が最高という成績でした。
中でも特に惜しかったのが2015年。この年コンビを組んだエアスピネルは、新馬、デイリー杯2歳Sと連勝して臨み、鞍上込みで1.5倍の圧倒的1番人気。ついに連敗記録に終止符を打つだろうと思われていました。
実際レースでは直線で力強く抜け出し、誰もが勝ったと思ったのですが、後方から鋭い脚で伸びてきたM.デムーロ騎手騎乗の2番人気リオンディーズに並ぶ間もなく交わされ、まさかの3/4馬身差2着。このとき武豊騎手が発した、空気の読めないイタリア人騎手云々というコメントが、話題になりました。
そのほかにもスキーキャプテン(1994年 1着馬フジキセキ)、エイシンガイモン(1995年 1着馬バブルガムフェロー)、エイシンキャメロン(1998年 1着馬アドマイヤコジーン)、タイセイビジョン(2019年 1着馬サリオス)に乗って2着。勝ち馬の面子を見ると負けても仕方ないとは思うのですが、それぞれ人気を背負って負けているので、何とかならなかったかという想いはあるでしょう。
いつしか朝日杯FSのレース前インタビューでは、武豊騎手から不安は鞍上だけですという自虐的なコメントが出るのが、恒例になっていました。
そして今年の朝日杯FS。22回目の挑戦でコンビを組んだドウデュースは、新馬、アイビーSと連勝で臨んだものの、いずれも芝1800mのレースということで、マイルへの対応がやや不安視されて7.8倍の3番人気。
血統的にも父ハーツクライということで、次週のホープフルSの方が向くのではという気もするのですが、友道調教師いわく、広いコースの方が合いそうだし、そつなくセンスが良くて、長くいい脚が使えるということもあり、こちらにしたとのこと。
また馬主のキーファーズとは武豊騎手もかなり関係が深く、今年の凱旋門賞ではブルームに、JCではジャパンに騎乗しています。代表の松島氏も武豊騎手騎乗で凱旋門賞を勝ちたいと、欧州の有力馬を積極的に購入しているのです。
そんな経緯もあって、武豊騎手もキーファーズの初G1制覇はぜひ自分の手でという熱い思いがあると、インタビューで話していました。
そのドウデュースは五分のスタートを切ると、行きたい馬を行かせて中団の外につけます。1800mで勝ってきたこともあって折り合いは問題なし。
そのままの態勢で直線を向くと、外から追撃を開始。オタルエバーに外にはじかれるも、そこから立て直して前との差を詰めていきます。残り200mで先頭に立った1番人気のセリフォスに外から合わせると、残り100mでセリフォスを交わして先頭。最後は余裕の脚色で1/2馬身差をつけて、初の朝日杯FS制覇となりました。
武豊騎手としても、2年前菊花賞のワールドプレミア以来の久々のG1勝利で78勝目。最近勝ち数が減ってきているとはいえ、まだまだ衰えていないことを証明しました。
そしてこれでJRA G1完全制覇まで、残すのは4年前にG1に昇格したホープフルSのみとなりました。こちらも2着1回、3着1回と4回行われただけなのに、すでに2回も馬券にからんでおり、そう遠くないうちに快挙の達成が見られそうです。
今年のホープフルSは札幌2歳S2着から臨むアスクワイルドモアとコンビを組みますが、はたしてその結果はどうなるでしょうか。そんな外野の声とは関係なく、飄々と乗ってこそ武豊騎手だとは思いますが。