クラシック3冠の歴史と意義 ~牝馬編

前回に引き続き、今回は牝馬3冠について考えてみます。

実は日本競馬が範としたイギリスではクラシックレースは5戦しかなく、牝馬限定のクラシックは1000ギニーとオークスの2戦のみ。日本でも同様の体系としたのですが、1970年に創設されたビクトリアカップ(1975年からはエリザベス女王杯)により3歳牝馬3冠路線ができあがり、その後現在の秋華賞(1996年創設)に引き継がれています。
そのため日本では正しくは牝馬の場合クラシック3冠とは呼べないことになります。

イギリスで最初の3歳牝馬限定のクラシックレースは、セントレジャーの3年後の1779年に創設されたオークス(芝 約2400m)。実はダービーより1年前にできています。
そして1814年に1000ギニー(芝 約1600m)が作られて牝馬のクラシック2冠が揃いますが、イギリスでは牡馬混合のセントレジャーを含めて牝馬のクラシック3冠とされています。

日本の場合、牝馬が菊花賞に出る例は少なく、1995年にオークス馬のダンスパートナーが挑戦して1番人気5着に入ったり、2019年にメロディーレーンが12番人気を覆して5着に好走したことはありますが、近年ではほとんど例がありません(優勝は1943年クリフジ、1947年ブラウニーの2頭)。
しかしセントレジャーでは牝馬の優勝も多く、1868年のフォルモサ(2000ギニーも勝ってクラシック4冠)から始まり、1985年のオーソーシャープまで9頭の3冠馬が誕生しています。
3歳牝馬にとっては過酷な3000mを、しかも牡馬と戦うということはかなり厳しいと思うのですが、多くの3冠馬が生まれていることに驚かされます。

アメリカではケンタッキーダービーの前日に行われるケンタッキーオークス(1875年創設、ダート 約1800m)が有名で、ダートの3歳牝馬限定レースとしては最大のものとなっています。
しかし他にクラシックの位置づけになるレースはなく、ニューヨーク州内で行われるトリプルティアラと呼ばれる3競走(エイコーンステークス、コーチングクラブアメリカンオークス、アラバマステークス)はあるものの、たびたび対象レースが入れ替わるなど安定せず、牡馬のような確立した3冠レースはないようです。

日本では1938年にオークス(優駿牝馬)が阪神芝2700mで創設され、その後距離や競馬場が変更されて、戦後の1946年から東京芝2400mで施行されています。1939年には桜花賞が中山芝1800mで創設。こちらも競馬場や距離が変更され、戦後の1947年に京都芝1600m、1950年からは阪神芝1600mで行われています。
長年牝馬クラシックはこの2レースだったものの、1970年ビクトリアカップ(1975年以降はエリザベス女王杯)により牝馬3冠レースが確立します。
その後1996年に牝馬競走の体系が見直されてエリザベス女王杯が古馬に開放され、代わって秋華賞が牝馬限定のG1として創設されました。これに伴い距離もそれまでの2400mから2000mになり、より中距離志向が強まったとも言えます。

最初の牝馬3冠を達成したのは1986年のメジロラモーヌ。それぞれのトライアルも制しての6連勝で、当時最強牝馬とされていたテスコガビーを超えたとも言われました。
エリザベス女王杯を含む3冠達成はメジロラモーヌだけで、2400mのG1を2勝と、さすがスタミナ豊富でタフなモガミ産駒という感じです。

次は2003年のスティルインラブ。こちらはチューリップ賞、ローズSとトライアルを落とし、3冠レースでは常にアドマイヤグルーヴに次ぐ2番人気ながら本番での強さを見せました。

3頭目は2010年のアパパネ。オークスではサンテミリオンとびっしり叩き合い、同着での2頭優勝というG1では初めて見る珍事が印象的でした。桜花賞も秋華賞も2着馬とは1馬身差未満で、言わば精神力の勝利だと思います。

4頭目は2012年のジェンティルドンナ。3冠レースはもちろん強かったのですが、その後のJCでオルフェーヴルを壮絶な叩き合いで下し、翌年も勝って初めてJCを連覇。さらに引退レースの有馬記念も勝って、牝馬離れした強さに驚かされました。

そして5頭目が2018年のアーモンドアイ。3冠レースは危なげない完勝で、さらに続くJCは驚異的な世界レコードで勝ち、ジェンティルドンナを超える衝撃を与えます。すでに芝G1を7勝と最多記録に並んでいますが、この秋はそれを超えられるかが注目です。

個人的な印象ですが、牝馬の場合、牡馬ほど繁殖にあがってから適距離を問われることはなく、その意味ではオールラウンドに活躍することを、牡馬ほど求められないと思います。そのため3冠の価値は、馬の名誉的な比重がより重くなるでしょう。
とはいえ近年の牝馬の活躍を見ると、牡馬以上に3冠の価値は実は高いのではと思えてきます。特にジェンティルドンナ、アーモンドアイは日本競馬の至宝といっても過言ではない存在で、その力も3冠レースを戦う中で磨かれてきたのではないでしょうか。

そして今年無敗で牝馬2冠を制したデアリングタクト。重の桜花賞を後方から差し切ったと思えば、良のオークスも後方から着差以上の完勝。コースも馬場状態も選ばず、その完成度の高さは、3歳牝馬とは思えないほどです。
秋華賞にはぶっつけのようですが、アーモンドアイの例もあり、近年の調教技術の充実からも大きなマイナスにはならないでしょう。

もし無敗で牝馬3冠を制すれば、もちろん史上初のこと。まだ全く底を見せていない状況で、今後の夢が広がります。コントレイルとアベックで無敗3冠を成し遂げたとしたら、その直接対決はとても盛り上がるでしょう。
3冠馬の価値を向上させ、3冠が今後も多くのホースマンの夢となるよう、ぜひ2頭にはがんばってもらいたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です