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書斎の競馬学

著者 山本一生 出版社 平凡社
定価 819円(税込み)    
書斎の競馬学 (平凡社新書)書斎の競馬学 (平凡社新書)
山本 一生

平凡社 2008-12
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以前「書斎の競馬」という月刊誌があった。題名のとおり、文化人や芸能人から現役の厩務員まで、おもに文化面から競馬を論じる雑誌で、こんな雑誌売れるのかなと思っていたら、いつの間にか書店で見かけなくなった。1999年4月に創刊されて、14号まで出たということなので、わずか1年ちょっとの発刊だったが、今でも評価が高いという。
その雑誌と題名が似ているが、この本は近代史研究家で競馬史研究家でもある山本一生氏が、「書斎の競馬」に<競馬学シリーズ>として連載したエッセイから、11編を選んで、加筆修正したものである。ちなみに山本氏は、「恋と伯爵と大正デモクラシー 有馬頼寧日記1919」という本で、第56回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。

いきなり第一話が短編小説なので、新書なのに小説集か?と驚かされるが、それ以外の十話はすべていわゆるエッセイなので、ご安心を。
その第一話は「洋一郎の傘」というタイトルで、洋一郎とはサンスポの名物競馬記者の佐藤洋一郎氏のことなのだが、ストーリーに佐藤洋一郎氏は直接関係ない。トレセンで佐藤氏がモンテプリンスの追い切りを待っていたときに傘をさしていて、それを調教師に怒鳴られ、それに佐藤氏が怒鳴り返したというエピソードが、プロットの大切な要素として出てくるだけである。
作者の経歴を見るに、おそらく実体験にもとづいた話なのだと思われるが、競馬にひっかけた、ちょっとほろ苦いラブストーリーだ。

そのほかに、競馬をおもな題材にしている何人かの作家にまつわるエッセイもある。そこで取り上げているのが、デイモン・ラニアン、チャールズ・ブコウスキー、そしてディック・フランシスの3人だ。
その中でデイモン・ラニアンという作家は知らなかったのだが、その作品のひとつに「レモン・ドロップ・キッド」という短編があるという。ご存知の方も多いと思うが、そこからとったレモンドロップキッドというキングマンボ産駒がいて、1999年のベルモントステークスを勝ち、2000年にはエクリプス賞の古馬牡馬チャンピオンになっている。
小説の中のレモン・ドロップ・キッドは、競馬の秘密情報(もちろん嘘半分)を客に教えて、あたったら儲けの一部をもらう、いわゆるコーチ屋を生業にしている少年である。いつもレモンドロップを口にしていることからそう呼ばれる少年の物語は、悲しくてあたたかい。
ラニアンはそんな社会の底辺の、まっとうでない人々を主人公にした短編を次々に執筆するが、その多くに競馬が登場する。残念ながら訳者が競馬に詳しくないらしく、日本で翻訳されているものは誤訳が多い(たとえばプリークネス・ステークスを「あそこの競馬」と訳したり)ということだが、温かくて親しみやすい作品は、フィッツジェラルドなどと並んでジャズエイジを代表する評価を得ている。
ちなみにレモンドロップキッドは通算24戦10勝で、そのうちG1レースは5勝したが、そのすべてがサラトガ競馬場とベルモント競馬場で勝ったものだ。サラトガ競馬場は小説のレモン・ドロップ・キッドがコーチ屋をやっていた場所だし、ベルモント競馬場は愛する妻が重い病気になったときに、金を作ろうと出かけていく場所である。

ディック・フランシスについても興味深い。ディック・フランシスは英王室専属の障害騎手としても活躍し、引退後は数々の競馬に関する推理小説を執筆して、世界中にファンが多い。確かにストーリーもしっかり構成されていておもしろいし、なんと言っても競馬界に通じているため、その描写には迫力がある。
しかし実はその多くは、妻のメアリーによる部分ところが大きいという。実際に最初は、ディック&メアリー・フランシスというクレジットで出版しようとしていたし、ディックもメアリーの貢献が大きいことを認めている。さらにメアリーは英文学と仏文学の学位を取得し、その後も出版社で働いていたことから、実際にはメアリーが書いているのではという説もある。
ただしどちらにしても、作品の評価が変わることはないし、両者の知識と経験があわさって、すばらしい作品が生まれてきたのは間違いない。
ちなみに、2000年にメアリーが亡くなってからディック・フランシスの作品は発表されていなかったが、2006年に息子のフェリックスの協力を得て、執筆を再開している。

そのほかにも、「人はなぜ芦毛を愛するか」「サイレンススズカの見た光」「保険金殺馬は発覚しない」など、競馬をちょっと違った視点から見るエッセイが収録されている。なるほどと思うことも多く、良質のエッセイである。
こういう競馬をギャンブルだけでない観点から楽しむ文化がもっと広がれば、さらにファンも増えるのではないだろうか。今後に期待していきたいと思う。



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